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貿易

「あの方は本当に優しい、優しすぎるお方なのです。アンドリュー様もそんなお方でした。アンドリュー様には利用されただけという解釈もできますが、私はアンドリュー様のお陰で市井の中で、貴族としては決して体験できないであろう、幸せな三年を送ることが出来ました。リン様とお会いすることができて、アンドリュー様も幸せな何年かはあったと推測できます。今おられず、リン様がここにいるということはそういうことなのでしょう、と解釈します。御冥福をお祈りするとともに、アンドリュー様へのお礼はリン様に変わって受けていただきとうございます」


確かセレナさんは四、五年ほどで見つかって連れ戻されたんだっけ。その時には平民だったお相手が先に逝ってしまって露出が増えてしまったせいだったと聞いた覚えがある。

三年というのはそのお相手と幸せに生活できていた時間だったのだろう。

タイムラグがあるのは病気か何かだったのだと思う。お相手がその時病気で亡くなられるのが運命だったとするなら、その前の数年は本当に良い、幸せな時間だったのだろうと思える。セレナさんはその思い出さえあれば生きていけるという感じなのかも。

私は残念ながらそこまで好きになった人はいないけど、死別するとしても一切誰とも出会えないよりはいいと思える。


『考えにふけっているところ、すまないがリンに頼みがある。テルル領主代行殿にライクーンからのアントホールを設けていいか訪ねてくれないか。ああ、それとその直通通路をつなげる場所の確保と、それを守る駐在武官、魔属の、の滞在の許可ももらってほしい』


ん? 何だ今の? パサヒアス様? ……ああ、パサヒアスの指輪を通した念話か。


『分かりました。けど見ていらしたんですね。ずっと?』


『そうでもない。ルオンからの報告で知ったからだね、領主代行と会うことをね。指輪を使ってでも疲れるので今回のようによほどでなければ使わないよ。それに私が指輪を使う際は指輪の石がつけているものだけに分かる程度に瞬くはずだよ』


言われて自分の指輪を見てみる。確かに指輪についている石が瞬いて光っているようにも見える。


『私はリンに不誠実と思われるようなことはしないさ。契約してもいいよ』


『そこまでされる必要はありませんよ。ではセレナ様に聞いてみますね』


お菓子を食べながらで誤魔化してやりとりしていた。そこからふっと気づいた風な感じで演技する。


「そういえばセレナさん、テルル領主代行様にお願いしたいことがあったのでした」



「私、というよりテルルの領主に、ですね。なんでしょう?」


「私の街、ライクーンとここテルルを直接つなぐ道、帝都とレニウムを繋いでいる転移陣みたいなものです。を作る許可とそれをつなぐ場所の確保を、あとその転移の道を守る武官を配置したいのですが」


「まあ、それは互いにやり取りできるものなのですか?」


「はい、地下に続く穴をつなげる、という感じのものですので、双方への物資の移動が容易く早くなります。使い勝手は転移陣を上回るかと。ただそれを管理する武官が魔族なので」


「おおっぴらに出てくるのが難しい、という解釈でよろしいですね? 分かりました。空いてる倉庫で大きなものを用意しましょう。そこなら物資の移動も容易いですし、武官の方も目立たないかと」


たぶんその魔族の武官ってアリクネのことだと思うし、今テルルを彼らが歩けば混乱間違いなしだから、倉庫でアントホールを隠すのは助かる。けど、たぶん……。


「その倉庫の扉は大きいでしょうか? おそらくゴーレムを運ぶ手段にもなると思いますので」


「ゴーレムですか。ええ、たぶん大丈夫なはずです。となると大規模にゴーレムを買ったり、ライクーン製の特殊家具なども売ってくださるのかしら?」


「ええ、たぶんそうなるかと。ライクーンの方も生の魚を欲しがるでしょうし。非常に安く早く安全に貿易が出来るかと。アントホールの管理維持は私どもが行うので、関税などの優遇などはお願いしたいですね」


「ふふ、まさか私が皇帝陛下ごしでなくリン様と直接組むことになるとは……。分かりました。先程の言葉も嘘ではありませんので、なるべくリン様の利益となるようにしましょう。もちろん私達も損にはならないように、ですが」


「もちろんです。移動などにかかる費用が浮くはずですので、結構な利益になるかと。テルルも儲けてお互いに得となりたいです」


ゴブリンたちはジュシュリにいたときもかなり生の魚を好んでいた。帝都でも歓迎の証として生魚が出されるほどに。ライクーンの近くには川も湖もなかったからきっとテルルの魚は喜ばれると思う。こちらはゴーレムに冷蔵庫などの属性石を活かした家具など、売るものは山ほどあるみたいだし、アントホールのおかげでテルルとの人の移動もやりやすくなる。ゴブリンの技術者の移動やテルル出身のライクーン居住者にも喜ばれることだろう。アントホールを一般の人達が通ることはたぶん出来ないだろうけど、手紙のやり取りとかがすごく容易になるはずだから。

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