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噂話

「本日はどうされましたか?」


セレナさんはちゃんとした面会の場を設けてくれた。忙しいはずなのに。思いつきで来てしまって少し申し訳なく思う。


「ええと、ですね……」


頭をぐるぐる回転させてなにかないか捻り出そうとする。


「いい時間ですし、お話になる前でいいですよ、どうぞ」


眼の前にはお茶とお菓子が出されていたのだ。もちろんセレナさんの前にもある。それらをそんな気もなく、たまたまじっと見つめていてしまったため、食べたいと思われたのかもしれない。……うん、今気づいたけど会議でも頭使ったので食べたい。甘いものを食べたい。

私の今の身分なら食べようと思えば甘いお菓子とかは常に用意して食べれるとは思うんだけど、目覚めたばかりだしでそんな根回しはしてないんだよね。そしてハイゴブインたちにはそんな習慣はないし、おそらく魔族にもない。だから気を利かしてくれる人もいないわけで。


「すいません、それじゃ失礼して……」


なんとか謝罪の言葉を出したあとに齧りついてしまった。なんだろこれ? マカロン? これはチーズケーキ? 豪勢だ。突然やってきた私にこれらを出せるのはすごいと思う。普通においしいし。ちょっと甘すぎる気もするけど、それは日本のスイーツ基準だとそうだということだろう。甘いものなど滅多にないこの世界でこの甘さは素晴らしい。


「とてもおいしいです。どうやってこれを?」


「我が屋敷には冷蔵庫がありますので、うちのシェフが今晩用にと作り置きしていたケーキを出させていただきました。冷蔵庫はライクーン製ですわ。維持費が少々かかりますがとても便利なもののようで。シェフが喜んでいましたわ」


へぇ、ライクーン製なんだ。ということは属性石を使っているのね。倹約家とはいえセレナさんもばりばりの貴族、しかも領主の家だしね。


「そちらはなんだったかしら? うちのものが買い置きしていたらしい海外のお菓子ですわ」


それにここは貿易港がある街だし、そういうのもあるのね。


色々食べて、あえて濃い目のお茶なのだろう、それを飲んで落ち着く。甘いもののあとだとおいしい。

お茶にも砂糖が入っていて甘いのだけど、お菓子の甘さよりはだいぶと控えめなので、今ならおいしい。

これ単独で飲んだら今の私ではちょっときつく感じるかもしれない、子供舌なので。


「ありがとうございました。たいへんおいしかったです」


セレナさんは笑顔でずっとこちらを見ている。とても作った笑顔には見えなかった。


「あの、それでですね。少し聴きたいことがありまして。セレナさんには不都合なものなのかもしれませんが、お許しください」


「はい、なんでしょう?」


「セレナさんが若い頃一緒に逃げたという皇帝陛下の弟君、アンドリュー様のことをお聞きしたく……」


セレナさんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにポーカーフェイスになった。


「リン様がかの方のことをお聞きしたい、ということは推測通り、リン様はかの方の忘れ形見と考えてよろしいのでしょうね。いえ、吹聴するつもりはありませんから私もはっきりとお聞きしたいですわ。事実を」


……あ。ボケてた。やらかした。そりゃそうだ。かの方と私にまったく繋がりがないなら聞くはずがないものね。


「はい……。認めます。けど推測通り、とは?」


「帝都でリン様のことは陛下とセットで噂になっておりました。癒し手のテオン様のこともあり、陛下はロリコンを拗らせて結婚をなされないのだとか。ただ一部にはリン様がアンドリュー殿下に似ているとの話も聞き及んでいました。あなたがアンドリュー殿下の指輪を持っているのでは、ともね」


陛下の部分はくすくすと笑いながらだったから、相当陛下と仲が良いようだ。もうバレているし、この人を信用してもいいかもしれない。


しかしやっぱり帝都の貴族怖いな。似てるというだけで正解にたどり着いてくる人がいるんだ。そりゃー陛下も慎重になるよね。


「そんなことになっていたのですね。当分陛下にはロリコンでいてもらわないといけませんね」


「まあ心配しているのも事実なのですよ。今の陛下に跡継ぎはおられない、現在トップの皇位継承権を持つものは暗愚とされておりますから。こちらは内緒でお願いしますよ」


当然である。こっちも内緒にしてもらうのだから。けどそうなってくると陛下が結婚しないのは悪いことだな、とも思えてくる。そんなの無理矢理にしても皆不幸になるだけなのにね。

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