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方針

……普段であればとても思い悩むことではあると思うけど、本件は簡単だ。


「そうですね、性能を最重要視します。製造難易度は高くて構いません。コストも、かからない方がいいのは確かですが一番譲歩していいところです。なにせスポンサーは最近すこぶる景気の良い帝国ですからね」


「その順位である根拠をお聞かせいただいてもいいですか?」


自分のところが一番難しいことになりそうな【技工】のギグが聞いてきた。彼が私に真意を聞いてくるのは珍しい、というか初めてなのでは? それぐらい彼は私に従ってくれていた。ここで間違えては忠誠度が下がってしまうかもね。


「はい。性能が良いのがいいのは当然ですが、飛行型ですので本来の行動を行っているだけで危険だから、なるべく妥協しない方がいいという点です。性能の余力があれば避けられる事故も出てくるでしょう」


この辺は皆ジャンルは違えど技術畑なので納得してくれた。


「そしてコストはかからない方がいいのも当然ですが、お金で性能が上がったり製造難易度が下がるのであればそれを選択するのもありでしょう。ですがこれも額と効果次第です。状況に因る、というものですね。コスト最優先はいろいろと問題が起きやすいので、スポンサーが明確な本件では避けます」


一番コスト意識が高いサキラパさんも頷いてくれている。ジュシュリの皆には長い間コストという概念はなかったから分かりにくいかもしれない。


「そして製造難易度ですが、これは痛し痒しのところもあります。低い方がいい事が多いことも確かなのですが、本件は特殊ですので高い方がいいというところもあります。まず現在私達が、私達こそがゴーレム製造技術ではトップであるということです。そんな私達にも難易度が高い工作は、他人に奪われにくいです」


ゲゴが、ああ、という顔をした。相変わらず表情を隠すことは苦手なようだ。


「ゲゴは身にしみて分かっていることでしょう。竜王国のゴーレムは私達には容易に解析できました。これは我らの方が上であったということです。もしかすると彼らには高度なものだったのかもしれません。ですから私達ですら難しいものなら万一鹵獲されても解析されにくいでしょう。飛行型は墜落する可能性がどうしても残るため鹵獲されやすいですから」


グゲ以外の皆も納得した顔をした。どうやら説得できたようだ。


「もちろん製造の長たるギグに負担をかけることには間違いないのですが、より我らもレベルアップしていかないといけませんし、本件はそう容易く他者に製造技術を公開する気もありません。長い時間独占させてもらいたい技術ですし。そのための育成をより頑張って欲しいのです。ご苦労をおかけすることになるのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんですとも。製造難易度が高くても良い、というのは私たち工房の者への信頼の証であるとも思えます。どんな難しいことでも成功させ、習得し、それが出来る職人を増やしてみせましょう」


「心強いです」


「魔法の方もこの方針ですか?」


ゲゴが聞いてくる。


「いえ、魔法は別です。属性石に頼る部分はコスト度外視で構いませんが、それ以外はなるべく魔力のコスト優先でお願いします。飛行型ゴーレムに乗れる人物が多ければ多いほど良いと思いますので」


「なるほど、了解いたしました。姫様」



「ちゅうことは素材に関しても別ってことかな?」


「ええと。素材に関しては、性能、製造難易度、コストの順なので、別ではなく同じですね。材料費をけちってダメでした、は悪夢ですので、コストは基本度外視で構いません、が入手難易度が高いものは避けた方がいいでしょうね」


「せやな。いざ量産ってときに手に入りません、じゃ困るもんな。候補に考えてたやつでちょうどいいのがあるわ。入手難易度は低いがコストは高く、加工難易度も高いってやつがな」


「サキラパ殿。ゴブリンの腕力は低いということもお忘れなく」


こちらの主力となる職人ゴブリンは人間の職人と比べたら幾分器用な代わりに明らかに非力だということが分かっている。だからハイドワーフであるサキラパさんはもちろんとして人間の職人を基準にして難易度を考えるとミスる可能性がある。そこをギグが心配したのだろう。


「分かってるって。道具を一新させんといかんかもしれんが、それでなんとでもなる程度や、抜かりないで」

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