魔法と科学
「まあ操縦者の問題は解決しそうだから、いかにゴーレムを飛ばすか、だよね」
「飛ぶだけならフライの魔法で簡単ですが、それだけではダメなのですよね?」
「うん、私やハイゴブリンの魔術担当ならそこそこの時間動かせるけど、今のフライだと人間が飛ぶことが出来るのはせいぜい10分とかそんな感じになるわ。そんなの迎撃戦ぐらいにしか使えないし、移動手段にもならないわ」
「飛行実験機に使いました属性石はどうですか?」
「うーん、確かに貢献してくれているとは思うけど、燃費はどうなんだろう? 風の属性石は別のことにもよく使うでしょ?」
「風はあまり長い時間ストックできませんし、現在の利用は乾燥庫と一部の移動手段だけですからな。それよりも土の属性石を利用されてはどうでしょう? 確かリン様はレビテーションとフライの双方を使って、効率化なされてるんですよね」
「ええ、特殊なフライを使って、上下移動はレビテーションに任せているから、フライは横移動だけに使うようにしているのよ」
「それでしたらなおのこと、なぜ土の属性石を使われないのか不思議だったのですが?」
「どういうこと?」
「レビテーションの属性は土だからですが」
「え?」
「え?」
私とベフォセットがお互いに分からないといった風に顔を突き合わせることになった。周りはぽかんとしている。
慌てて私はべフォセットを別室に連れ込む。
「リン様は衆人環視の中、大胆ですなぁ」
「ちょっと、ボケてないで。レビテーションが土属性ってどういうことよ?」
「リン様ならご存知だと思っていたのですが。レビテーションは重力を操る魔法で、重力は土の属性です」
「え、ちょっと待って! 確かに重力は知ってるし、レビテーションに重力が関わっているとの想像はできるけど、重力が土属性は知らないわよ?!」
「ご存知なかったのですか。重力を知っているのにそれが土属性だと」
「ご存知も何も重力は重力でしょ。それに属性があるとか私が知っている科学にそんなものはないわ」
「そうでしたか。なぜ無理やり風の属性石で浮かばせているのだろうと思っておりました。確かに風にはベクトルも含まれておりますが。そういうことでしたか」
「あなたはパサヒアス様から聞いているだろうから知っているでしょうけど、皆知らないんですからね。今後も明かすつもりはありませんし。だからあまり迂闊なことは言わないで。……この世界の人たちはまだ重力は知らないでしょ? 概念は知っているかもだけど、ニュートンはいないよね」
「そうですな。ゲゴ殿も風の属性石しか使わないことに異議はなかったですし、そうなのかもしれませんな。いやこれは我輩が確かに迂闊でした。申し訳ありません」
申し訳ないといいつつ顔が笑っているように見えるんだけど。最初に出会った頃からこのコはトリックスター的な性格してるよねぇ。
「おーい、リン。なんかあったんか? なんか伝令が来とったで」
「はーい、すぐに戻ります」
サキラパさんに返事してから、ベフォセットに頼むわよ、とか言いながら、元の部屋に戻る。
「いやぁ、若干我輩が思い違いをしていたようでした。しかしまあ土の属性石を使って浮き上がることは本当に可能ですので」
「なら、胴体、体の中心付近に土の属性石をつけるのがよろしいでしょう。足は風のほうがよろしいですよね?」
「ちゃんとしたホバー移動するなら足のほうが好都合でしょうけど、足には空中での姿勢制御の役割もあるからね。風でいいと思う」
おっと、ごまかすのに必死になりすぎてた。えっと……。
「それと、サキラパさん、伝令はなんと?」
「なんか第二軍の増援が到着したらしいわ。それだけ言って帰っていったわ。なんやったんや?」
「あー……、はい。では続けて検討しておいてください。私とベフォセットは第二軍に挨拶に行ってきます」
「はあ? そんな律儀に対応せんでもええんとちゃう?」
「あまり良くない予感がするので。第一印象は良い方がいいでしょうし」
うん。ばりばりに良くない気がする。わざわざ伝令を使って自分たちが来たってことを伝えただけで何も言ってこない、ってのはあからさまに試してるでしょ。そういうの、前の世界にもけっこういたし、そういうの敵に回すとメンドイのよね。