撤退
「こちらから攻めるには戦力が足らんなぁ」
今日も皇帝陛下の朝食につきあわされている。そんな時に陛下がそうおっしゃった。
「足りませんか?」
あいづちのように問い返す。私には戦争のことはあまりわからないし。
「ああ、足らんな。竜王国とテルルをつなぐのは細い山道のみ。そこを進軍していくには準備が足りなさ過ぎる。十五号でも不足だ」
遠隔操作の十五号型でも不足なのか。
「理由をお聞きしても?」
「そりゃもちろん相手に竜がいるせいよ。山道に竜がおったら十五号でも対応できんだろう。即応性が足りん」
むう、痛いところを突かれた。十五号型に限らず、さそり型を除く全てのゴーレムには即応性が足りない。有線無線に関わらず、操縦者が離れたところにいるから、どうしても反応は鈍くなる。これの例外であるさそり型は搭乗型であることだ。だから十号型や飛行実験機も例外となる。
相手が人間だったり、大きさに相応して遅い巨人相手だったら今までのゴーレムでもなんとかなってきた。術者が近くにいてもなんとかなったしね。
けど相手が竜となると、大きさの割に素早く、また術者に直接の危険が伴うブレスがある。さらに空を高く飛ばれると厳しいのも確かだ。対応できるのは飛行実験機のような、飛行できるゴーレムであり、搭乗型であることが必須条件となってくる。
「お前の乗るゴーレムは強かった。前の戦いで完勝できたのは、ほぼお前のおかげと言っていい。あのゴーレムは量産できんのか?」
「残念ながらあのゴーレムはほぼ私専用でございます。私なみの、強大な魔力がないとすぐに墜落してしまうことでしょう」
「お前、そんなにすごいやつだったのか?」
「私をなんだと思っていたのですか? 私並みの魔力を持ったものはジュシュリにも一人しかおりませんし、その者に匹敵する魔力を持つ人間はまだ見たことはありません」
「そ、そうなのか。あいつはダメなのか、あいつだ。ええと、ゴーレムマスターの、あいつだ」
「ディラング殿ですか?」
「そう、そいつ。自分の魔力量を誇っておったぞ?」
「残念ながら私の半分もありませんね。確かに他の人と比べると高いとは思いますが。真のゴーレムの仕組みが優秀なのだろうと思っております」
「そうなのか……。仕組みが優秀だと? ならば工夫でなんとかなるものなのか?」
「はい、私はそうであってほしいと願い、現在飛行型ゴーレムの原型を研究中ではあります。忙しくて私自身はあまり着手出来ていませんが、ジュシュリに命じております」
「そうであったか。ゴウエイ、わしの撤退は可能か? そろそろ帝国の事務も溜まっておろう」
「そうですな。リン殿のおかげで先日の戦いも完勝いたしましたし、今下がるのは容易かと。メンツも潰れませんし、事務も溜まっておりましょう。良い頃合いかと」
「そうか。ゴウエイ、この戦線を任せてよいか?」
「よくありません。私は皇帝陛下を守るための第四軍の将軍ですから。防衛のみですと第一軍、攻め入ることも考慮するなら第二軍を呼び寄せねばなりません」
「そうか……。ならば第二軍から適当なものを呼び寄せてくれ」
「分かっております。すでに頃合いなものを呼び寄せております。百ほど引き連れて明日にもテルルに参るでしょう」
「そうか、ならば明日にはわしは帝都へ帰ることにしよう。リンや。お前はテルルに残り、しばらく後任の第二軍将軍と合流し、しばしテルルを支えながら研究に勤しんでくれ。すでにお前配下のゴーレムの専門家も来ておるのだろう?」
ゲゴが来ているの把握していたのか。まぁ私がいないと竜への対応が難しいだろうし、逆に言えば私が頑張ればこれ以上の被害は出ないかもしれないのだったら、やるしかないよね。皇帝陛下の命令でもあるし。
それに四六時中攻めてきているわけじゃないので研究する暇はあると思う。ゲゴが来ているのは助かる。出来たら錬金術師のサキラパさんやガギも来てくれるとありがたいんだけど、ガギは無理だと分かっている。サキラパさんはフリーダムだけど管轄は帝国のはずなので陛下に根回ししておこう。帝国の利益にもつながるはずだし。
……あとは陛下がいなくなってもテルルが私にとって過ごしやすいところなのかどうか、だけど。これは領主代行のセレナさんに直談判しよう。




