別視点:ジョージ1
俺は葛城譲二。平凡な会社員だったが、バイクでツーリング中に事故って崖から落ちた。
「あ、死んだな」
と思ったところで意識を失った。
気づいたら、お前は森の中で倒れていた、と変な身なりをした集団に助けられていた。日本語が通じたし、相手も日本語をしゃべっていたので、しばらくここは日本だと思い込んでいたので、頭を打って正気を失ってしまったのかと思った。
実際はここは日本ではない、どこかの異世界で、自分はこの見知らぬ姿の者に乗り移ってしまったのだと知った。元々の体の持ち主はどこにもいない。
俺はハーフエルフのジョージ、だと認識され、なにか大きな建物?に連れて行かれた。そこには巨大な、ドラゴンとしか言いようのない造形の生き物と、変な身なりを豪華にした感じのおじいさんがいた。
ドラゴンが何を言っているのかも分かった。その場にはおじいさん以外にもたくさんいたが、おじいさん以外はドラゴンが何を言っているのか、理解できていない感じだった。
「ようこそ、英雄よ。よくぞ我らの請いに答えてくれた。貴方は我らが魔法で呼び寄せた、我らを救ってくれる者のはずだ。二人来てくれると感じていたが、見つかったのは貴方だけだった。きっと貴方は二人分の力を持っているのだろう」
ドラゴンがそう言った。
え? どういうこと? もしかして救世主扱いとかされてるの? 俺が? 俺はただの三年目会社員だぞ。特殊なスキルなんかありゃしない。ただバイクとロボットアニメが好きなだけの。
そう説明した。
「その、バークとかロボトアンメが、貴方様のお力なのではないでしょうか? わたくしどもは貴方様に従いますゆえ、どうかお力をお貸し願えないでしょうか?」
? ああ、バイクとロボットアニメが分からないから、そう聞こえたのか。まあどう見てもファンタジーな世界だし、バイクもロボットアニメもないか。けど、なら俺はどうすればいいんだ?
「貴方様はきっと世界を変えうる力をお持ちのはずです。思いのまま動かれてみてください。お付きをつけますので、貴方様の行動を止めるものはおりません。むしろ積極的に動いてくださいませ」
そんな風に言われても俺は英雄でもなんでもないただの一般人だし、どうしていいのかもわからない。けどなんかとても期待されているようなので無下にも出来ない、というかすごく良くしてもらっているようなのでなんとか報いたい。
王都らしい街を護衛付きで歩く。特に理由はない。部屋に籠もっていてもやることないし、外に出て何か刺激があれば思いつくかもしれないし。と期待して歩き続けている。三日ほど。
今日は冒険者ギルドに併設している酒場で昼食を取ることにした。冒険者が集まるところなら面白い話が聞けるかもと思ったのだ。護衛がいるから冒険者ギルドと何の縁もない俺も入ることが出来た。
冒険者らしき人たちがいろいろと駄弁っているのを、食事を取りながらそれとなく聞いておく。社員食堂でよくやっていたことだ。それのせいで嫌なことに巻き込まれたこともあったが、だいたいは良い結果に結びついた。
今の話題は有名な冒険者パーティーのある一団が解散したとのこと。六人中二人が引退するとのことで、残り四人の取り合いになりそうだ、という話だった。
皆はその現役を続ける四人に興味があるようだが、俺は引退したという魔法使いのことが気にかかった。
なんでもゴーレム魔法が得意な人だったらしく、前の冒険で大儲けしたし年も取ったので引退し、魔法の研究をしながら余生を過ごすと言っていたらしい。
なんかピンときた。逆に言えばもう一人の引退者や残る四人はどうでもいいとすら感じた。
だってゴーレムって、ファンタジー世界のロボットみたいなものだろ? バイク代わりの馬には乗れそうにないし、ゴーレムなら!と思ったのだ。
護衛の人に頼んで話をしている冒険者全員にお酒を奢ることにした。そうやって話に混ぜてもらった。
「その引退した魔法使いってどんな人だったの?」
「んー? 典型的な魔法使いのじいさんだったよな。いつも古臭いローブを纏ってて、古ぼけた木の杖を持ってたな」
「得意な魔法がゴーレムだって聞いたんですが」
「ああ、今どき簡易ゴーレムなんて使う奴はあんまりいねぇんだけど、その人、ローロって爺さんなんだが、ローロ師は応用がうまいらしくてな。簡易ゴーレムで敵の逃げ道を塞いだり、敵の足元に転がっている石を簡易ゴーレム化して足を捕まえて拘束したとかいう話も聞いたぜ」
「ゴーレムってどれぐらいの大きさになるんですか?」
「昔のやつは5メートルとかあったと思うぜ。そういうのは遺跡とかにあるな。今そんなゴーレムを作れるやつはいないけどな。それに帝国には10メートルを超えているゴーレムが街の守護としてあるらしいぜ。俺は見たことないが、帝国から来た奴らがそんなこと言ってた」
「今簡易ゴーレムで作るやつはせいぜい2メートルとかだな。だいたい素材は木か石だからどこにでもあってどこでも作れるのが利点かもな。昔のは鉄製や魔法金属製のやつもあったらしいが」
ほうほう! それは面白い! まるで本当にロボットのようだ。ぜひとも帝国に視察に行きたいものだ。なに? それはダメ? 残念……。それじゃそのローロって人と話がしてみたいな。
その後、ローロさんの住んでいる場所を聞き出したあと、適当に冒険者に合わせた話をして、冒険者ギルドから出た。幸いローロさんはこの王都の一角で研究事務所を名乗って住んでいるらしい。