英雄召喚
結果としては圧勝だったけど、今回は残念ながらこちらにも取り戻せない被害があったようだ。
騎兵が一騎、兵士が二名、戦死したらしい。どれも死ぬような状況じゃなかったみたいだけど、当たりどころが悪かったとかそういう感じらしい。
敵はほぼ壊滅と言っていい被害だ。出てきたドラゴンはすべて討ち取られたし。私とすれ違ったイエロードラゴンもこちらの本営に突っ込んできたのでバリスタで撃ち落としたところを陛下の近くに控えていた近衛にとどめを刺されたようだ。
敵の騎兵は八割が死亡、残り二割が負傷のまま捕縛、捕虜に。兵士は半分ほど、百余名が降伏、捕虜に。残りのうち数十名ほどが死亡、あるいは負傷後に捕縛、捕虜となった。
敵将と思われる騎兵は落馬し、捕らえたところ醜い命乞いをしたらしく、嫌われていた。皇帝陛下はもちろんゴウエイさんにも一瞥もされず、結局ハームルさんが尋問することになったようで、後学のためと私もつきあうことになった。
ハームルさんは同席する私を飛行実験機の術者であることを言って、脅しをかけた。……ゴーレムの力がないとただの雑魚魔法使いなだけだと思うけど、相手はそれを理解できず、びびりまくってくれたので、助かった。
最初は貴族であることから丁重に扱われるものと思っていたらしく、使う気のない拷問器具をハームルさんが持ってきていて、ハームルさんも私も今は貴族であることを知ったときに態度が急変したからなぁ。
そりゃこんな人好かれませんよ。
先の戦いで死んでいった同胞のことなんかまるっきり気にしていないようだし。そう言えばドラゴンに対しても思い入れがないようだった。竜騎士団のくせに。
今回の攻め入りは命令されてやったこと。勝手に人員やドラゴンをつけられたこと。自分の意志は全く入っていないことを、訴えていた。……たぶんだいたい嘘だろうな。態度見てれば分かるよ。こういう人がこういう状況ならどういう事を言うか、なんて。
もちろんハームルさんはそれを分かった上で、理解を示して、さらなる発言を引き出そうとしていた。私には真似の出来なさそうなスキルだ。私だと嘘を言うな、と怒ってしまいそうだ。
私に対して必要以上に恐れていた理由も分かった。なんでも開戦時、私の飛行実験機ゴーレムから魔族の匂いがする、とドラゴンに言われていたらしい。
飛行実験機自体はゴブリンが作った機体だけどゴブリンは魔族じゃないし、たぶん私の影の中にいたベフォセットを嗅ぎ取ったのかもしれない。
この捕虜の敵将は、私が魔族である、と思い込んでるようだ。貴族だって言ったんだけどな。……あ、彼の中では魔族が帝国の貴族をやっている、なのかもしれないな。
実際に帝国に喧嘩を売ることになったのも、ドラゴンからの指令だったみたいだ。だいぶ前から南から魔族の気配がすると言っていたらしい。
けど現在のドラゴンは大幅に能力を失い、指導者だった颶風竜の寿命は残り僅か。他の六大竜はおらず、エレメンタルドラゴンすら少数しかいないため、手出しができなかった。
そして颶風竜の寿命がつき、竜教徒の大司教も後を追うように亡くなったため、一時混乱し、数少ないエレメンタルドラゴンであった大地竜が竜たちのトップになり、それを信奉する司教が大司教を司ることになったが、彼らは好戦的だった、ようだ。
聞いていた話とだいたい同じだし、それ前提で考えてもいいかもしれない。ドラゴンは魔族が大嫌いである程度勘づくことが出来るから、ミリシディアを潰したい、けど間には帝国があり、その帝国はミリシディアと繋がっていると思われる、からの好戦的な指導者になったから攻めてきた、と。
要するにお前の友達気に食わんからお前ぼこるわ、って言ってきているのも同然だ、帝国にとっては。
私はともかく、ガギたちが闇の勢力の一員であったハイゴブリンであることは辞めれないし、それはパサヒアス様も同様、生まれが悪だから殺す、と言われてはいそうですか、と納得できるわけがない。生まれ持った属性は自由に変えれないし、本人が望んでそうなったわけでもないということだ。
特にパサヒアス様は変異の魔王だと言っていた。ほとんどの魔王が実際に悪なんだとしてもパサヒアス様は変異したのだろう。ミリシディアの人間の国民は自業自得というか因果応報というかだし、巻き込まれた私の両親とかは文句言えるけどさ。それらについては悪いと思っているみたいだし、だからこそたかが人間である私や皇帝陛下とも仲良くしてくれているのだと思うし。
いやまあパサヒアス様を邪悪と断じ、滅殺するのもいいと思うよ。けどそのために帝国という他人を巻き込むんじゃ、パサヒアス様と同じことをやってるだけになると思う。正義のためなら悪をなしてよい、わけないよね。
それと一つ、非常に引っかかることも言っていた。
颶風竜が寿命で亡くなる直前、颶風竜と大司教が英雄召喚の魔法を使い、竜王国には現在、異世界から召喚されたその英雄がいる、と。