価値
やることが多い。そりゃ出撃後だから多くなるのは当然として、後手後手になってるせいもあるだろうね。まあ今は仕方がない。一つずつこなしていこう。
セレナさんが自ら見舞いに行くらしいので、まずはそれに付き合う形でお見舞いに行った。
セレナさんは結構兵士や町民に慕われているようで、怪我人は皆好意的だった。良かった、手助けしやすい。
皆にはよい薬油だといって、酸によって火傷したところを私自ら塗る。塗っている間に魔力を流し、それなりに治療する。治ってもたまたまその薬油のおかげということで。まあ大勢だから全治には至らないけど、痛みや後遺症は残らないようにしてあげたいしね。痛み止めの魔法をかけながらだから気付かれないと思う。
そして痛み止めの魔法をかけ続けてくれていた治療師さんには私特製の魔力回復用タブレットを配ってきた。そんなに量があるわけでないし、一気に飲んでも意味がないので、少しずつだけど。帝国市場には出回っていないはずの薬なので、半信半疑だったみたいだけどセレナさんが連れてきてくれたおかげで信じてくれたよ。飲んで効果が出てきた後は感謝された。
使いの人がきて、陛下に時間が出来たから報告しに来い、と言われたので陛下と再び謁見した。といってもまたしても食事を一緒にしただけだけど。ゴウエイさんもいたけど、問題ないとされたのでまずはルオンからの報告をして、竜王国の竜事情を再度説明した。もしかすると私たちゴブリンやライクーン、いやパサヒアス様の存在自体が気に食わないせいかもしれない、と。
「そうだったな、しかし今更そんな神話の話を理由にされても困るだけだからな。パサヒアスは魔王かもしれないが、もう同盟しておる相手の盟主だ。そんな理由でちょっかいを出してくるなど我が帝国を舐めておる証拠だな。もしそれが真実であれば容赦はせん。……竜王国の国民兵士どもにはかわいそうなことになるが、生まれを呪ってもらうしかないな」
「はぁ、そのきっかけとなった私達にはいろいろと精神的にきついので、何も知らない国民兵士たちには容赦してやってほしいのですが」
「ふむ、そうか? それが可能な状況であればそうしてやろう。わしとて無限に恨まれたいわけじゃないからな」
陛下がゴウエイさんをちらちらと見ながらそういう。確かに容赦しないと言った時にゴウエイさんの眉が少し動いた気がするし、今でもたぶん陛下の先生なんだと思う。形式上は上司と部下だからあまりあからさまに出来ないだけで。ともかく関係のない国民たちにまで恨まれる必要はないと思うしね。
「それがよろしかろうと思います。彼の国はもはや我らに吸収されるべきもの、ということは今のかの国民は我が臣民となる者たちなのですから」
正論だと思う。殲滅戦争する気ならともかく。
はーしかし陛下はやっぱりいいもの食べているなぁ。レニウムに来てから贅沢させてもらってたけど、陛下のはちょっとレベルが違うわ。素材からしてすごいんだろうなぁって思う。まあ大帝国の皇帝が貧しい食事してるってのはそれはそれで夢がないしね。
ご相伴にあずかって舌鼓を打っていると、もう一つ質問された。
「ところで原状回復の件だが、ゴブリンに建設部隊でもおるのか?」
「あ、いいですね、それ。テルルにいるゴブリンを集めてそういうことにしましょう」
「実際は?」
「魔族の魔法によるものです。主に金貨を消費して建物を作る魔法があるようなのです。ライクーンも一部その魔法で作っているようです。相応の金貨と魔力はいりますが、まさに一瞬で作れます」
「ほう、それはすさまじいな。今後も活用できぬか?」
「出来ないとは申せませんが、結構魔力を使うようですので連発は難しいかと。あと現在パサヒアス様が近くにいないとベフォセットも十全に能力を使えないようですし、これが済んだらしばらくミリシディアに帰還することになるかと」
「そうか。それは残念だがまあやはりあまり積極的に魔族の地でもないのに魔族の魔法を使うのも良くはないよな。今回は緊急で仕方ないがな。分かった。金貨ということだが宝石でも構わんか?」
「はい、金貨が分かりやすいと言うだけで価値があるとされているものとの交換、だそうなので」
「そうか、ならばゴブリンたちをまず招集せんといかんし、明日だな。その手配はリンの名の下に行うがそれでいいか? 価値は十分なほど用意しておこう。ゴウエイ、軍資金として持ってきているよな?」
「はい、国庫からも陛下の懐からも十分に」
「わ、わしのもか?」
「陛下がすると決めたことですので、陛下の分を使うのが正当かと思いますが」
「うむむ、確かに戦争のためでない使い方だな。仕方ない。その分セレナには恩を売っておくか」