被害
「水竜だと。エレメンタルドラゴンが街を襲ったというのか」
「はい、ですがあの大きさ、狡猾さ、鱗の硬さ、ブレスの範囲などを考えるとそう考えるのが妥当かと。さすがに海嘯竜ではないと思いますが」
「海嘯竜は一撃で町を海に沈めると言われておるから、そうではないだろうが。それにしても水竜か。よく撃退できたものよ」
「はい、幸いリン様特製の義手での攻撃が通用いたしましたし、サーチェスはその特質上水上でも戦えましたので」
そこまで聞いて、陛下はローガンたちをねぎらったあと、下がらせた。
「そういえばテルルもリンもイエロードラゴンに襲われていたな。ブラックドラゴンも敵前衛におったし、やつらドラゴンを本格的に投入してくるのか? それが宗教者のやることか?!」
「私も耳に入った程度なのですが、竜王国では宗教者のトップが入れ替わり、竜のトップも入れ替わったとのことでしたので、それらが関係しているかもしれません」
「大司教が変わったのは知っておったが、確かドラゴンにも指導者がいてそれが変わったのであったな」
「はい、そのとおりです。まあそのへんは今回の件に直接の関係はないと思いますのであとでご報告申し上げますが」
必死に不自然ではない程度に目配せを陛下にしてみる。この内容は他人に知られるとかなりまずい。陛下なら、気づいてくれないかな?
「そうか、分かった。それは後回しにしよう。ともかく対策だ。まずは桟橋をなんとかせねばな。テルルに専門家はおるか?」
「はい、すでに復旧のための指示は出しております」
「よし、ならばそれは任せる。費用は試算して提出せよ。それに倉庫だったな。イエロードラゴンに聖王教会も一部破壊もされていたな。そちらは……」
「陛下、それらは我が配下にお任せを。新たに作り直すための図面さえ用意していただけたら、普通に復旧するより、安く早くいたします」
「ほう、そういえばそのようなスペシャリストがいるとは聞いていたな。セレナ、それでよいか?」
「こちらとしては願ったり叶ったりですね」
「桟橋も図さえ見せていただけるなら早急に出来ると思いますが」
「分かりました。専門家に聞いて復旧速度次第ではお願いするかもしれません」
かなりの専門技術だろうし、プライドとかもあるだろうしね。それに無闇に使う必要はこちらにはないし、望まれるならしよう、帝国のためだし、程度だからね。影の中でどうせ聞いているだろうけど、念の為、義足のかかとでトンとしてみたら、肯定の合図がきたので、いけるのでしょう。
「あとは人的被害だな。死者はおらんのだよな」
「はい、幸いなことに。今から死亡するような大怪我もいなかったはずです。ですが酸の息により、かなりの痛みを伴っており、そのあたりの薬草が切れるかもですので、至急わけていただきたく。痛み止め魔法を使える者はもはや疲弊しきっておりますので」
「私もエノジーゼックなら使えるので、あとでお見舞いしてよろしいですか? そのそちらの術者にも良いものを持っておりますし」
「え? リン様直々に、ですか。よろしいのでしょうか?」
セレナさんが初めて私の方を見て、当惑している。ちらっと陛下の様子も気にしているようだ。
「ああ、こいつは変わっていてな。任せてみよ。良い結果になると思うぞ」