痛恨事
「わしの指揮で敵の砦を一瞬で占拠した、ということになる。この先は進めなさそうだし、帰るか」
こんなのでいいの?とは思ったけど本当にこんなのでいいんだろう。実際に竜が襲ってきたときはどうなるかと思ったけど、こちらは思っていた以上に強かった、ということだろう。
「リンもわしに付き合ったんだから、お前の手柄にもなるぞ。口裏を合わせよ?」
「え? あ、はい」
そういうことにもなるのか。私に来いといったのはそれが目的かな。
「それにあの二機のゴーレムは持ち帰る。テルルに戻ったらしかるべき場所に回すように手配せよ」
「はい。ライクーンが良いかと。開発のトップが揃っておりますから。一機はテルルで私が分析したいです」
「ふむ……。そうだな、お前も第一人者だったな。ゴウエイ、頼めるか?」
「はっ、承りました。……それにしても想像よりあっけなかったですな」
「ブラックドラゴンが半端に消えおったしな。あの敵副隊長の様子から見ると、彼の国もいろいろとあるようだしな。我らが把握できていないところで」
「そのようですな。とりあえず手勢を少し残して戻りますか」
「そうしよう、今日は野営だと思っていたが、こうも早く帰ることになるとはな」
戻ってきたら、テルルの北側に流れる運河用の港が破壊されていた。
「どういうことだ?!」
まあ陛下が怒るのも仕方ない。完全に裏をかかれた形になるからね。
テルルへ帰還してすぐに私も含めて陛下の元へ招集された。
集められたのはゴウエイさん、テルル領主代行セレナさん、テルル駐屯軍の指揮者であるセルウッドさん、ローガンさんとサーチェスさんもきた。あとは知らない人が何人か。
「何が起こった?」
怒りは抑えているのか、普通の陛下の問いかけだった。
「はっ。陛下が出撃した直後、運河からブルードラゴンが現れました。守備隊が応戦しましたが酸の息によりほぼ壊滅しました。死者は出ていないものの、負傷者多数、十五号型ゴーレムも三機大破、二機小破。十二号機も多数小破しており、港も破壊されてしまい、著しく防衛力が下がっております」
答えたのはセルウッドさん、痛恨事のようだ。
「釣られたか」
ゴウエイさんの呟きは私にも聞こえた。
「そのドラゴンはどうなった?」
「はい、かなり傷つけたと思うのですが、相手は水の中ということもあり、逃がしました」
「報告します。勇敢な船乗りが小型船でドラゴンを追っていったようですが、先ほど戻ってきて、ドラゴンはそのまま海の方へ逃げていった、との報告を受けています」
これを言ったのはセレナさん。
「そうか、港の被害はどうか?」
「桟橋と倉庫を主にやられました。桟橋はともかく倉庫は被害にあったところはほぼ空に近かったのが不幸中の幸いです。しかし当分の間、船の受け入れは厳しくなるかと思います。期間もですが経費がきついですね……」
「ふむ、しゃれにならんな。帝都への流通が悪くなってしまう。せっかく上がっていたのにな。仕方ない、ここは帝国が保障しよう。あとで被害報告書を提出せよ」
「ありがとうございます、陛下」
「正直な話、我らはブルードラゴンに歯が立ちませんでした。戦士や魔法使いの攻撃はあまり効いておらず、ゴーレムのクロスボスすらあまり有効ではありませんでした。ローガンとサーチェスの奮闘がなければどうなっていたか……」
「ほう、ローガンとサーチェス、だったか。確か二人ともリンの配下であったな?」
「はい、陛下」
ローガンが私の方をちらりと見た。なにか言いたそうだ。口添えしよう。
「陛下、ローガンから進言したきことがあるようです」
「そなたがローガンだな。ちらちらと見かけてはおったな。良い、申してみよ」
「ありがとうございます、陛下。思うにあのドラゴンはブルードラゴンではなく水竜、ウォータードラゴンだったかと思われます」