占拠
しかしとうとう人間が出てきた。ゴーレムもいると思うし他のドラゴンもいるかも知れないけど、それは強いかも知れないけど苦じゃない。私にとっては人間と戦うのが一番の苦だ。
けど誰かがしなければならない。火の粉として降り掛かってきたのだから。だから皇帝陛下は自ら来た。私もだ。もしかすると私のゴーレムがこの世界に大きな影響を与えて歪ませてしまったかもしれない。責任は取れない、途方もなさすぎて。けど逃げるわけには行かない。
人が死ぬかも知れない命令を、人を殺してしまうかも知れない命令を、止めることは出来ない。もしかすると自らの手で、それをしなければならない時も来るかもしれない。けど責任からは逃げることはできない。そうしてしまったのだから、そうしようと思ってしたわけでなくても。
ガーディアンが防御姿勢のまま前進し、その影に隠れるように十五号のアタッカーが壁に近づいていく。射角が取れなくなるまで近づくと、一気にガーディアンたちが壁に近づき、倒れ込むようなショルダータックルで門を打ち壊した。かなり荒っぽい使い方だなぁ。けどもたもたしているよりはましか。ガーディアンたちが門を破壊したあと、周辺の壁を壊しにかかった。壁の向こうにはドラゴンはおらず、数機のゴーレムと人間の兵士が何十名かいるようだ。
後ろから騎兵が突撃して門に殺到し、中にいた兵士を蹴散らしにかかる。十五号たちは数機がガーディアンの後に続いていた。十五号の術者たちはすでに私達より前に出て、護衛に守られながらも十五号を操作している。門からうって出てくる敵はいなかった。
私や陛下、ゴウエイ将軍が門をくぐった時、もう敵は制圧されていた。あまり敵ゴーレムが動いているところは見れなかったが、鹵獲はできたようだ。二機ほど。敵兵士は二十名ほどか、降伏していた。
私達が入るとすぐに報告が入る。それによるとこちらは負傷二名、敵側は死亡三名、負傷者九名、降伏十一名とのこと。うち捕らえたゴーレムの術者は三名、その中の一名は負傷に残りは降伏に入っているとのこと。こちらの負傷二名も命に別状はないそうだ。一人、この砦の将を名乗るものがいるので、連行してくるみたいだ。
神聖クーテヌス王国戦士団、副団長を名乗っているらしい。かなり憤慨しているようだ。こちらにではなく、自国の方を。
砦の向こうは、山に挟まれた一本道になっていくようで、ここから多くの敵兵が撤退していったみたいだけど、このまま追撃をかけるのは危険だし、この狭い回廊から大軍がいきなり湧いて出てくることもないだろう、ということでとりあえずここを占拠するだけに留めるようだ。
怪我をしたものは敵味方問わず治療し、戦死したものは向こうの兵士に弔わせるようだ。……宗教が違うみたいだし、こっちのやり方でするといらぬ誤解を与えかねないし、妥当だとは思う。ただこちらの最高権力者がいる現場でやらせてもいいことには見えない。終始監視し、へんな動きはできないようにしてはいるものの、フリーにさせてはいるしね。そうでないと作業できないし。
私はその間、鹵獲した相手のゴーレムの観察をする。
……うーん、設計思想が違う気がする。こちらの有線ゴーレムは各部所に魔導線を繋げているんだけど、こっちのゴーレムは各部所からの魔導線が頭につながっていて、その頭から太めの魔導線が出ている。それと繋がっているのは制御棒ではなく兜だ。だからそんなにゴーレムから離れることはできないように見える。というかこの太さの魔導線、重くない?とすら思えるけど、地面を這わずに、もちろん術者に負担もかけずにいるというのは、何らかの魔法が使われていると思う。こちらの仮面の魔法で、重さを感じないとかあったけど、それと同様のものかもしれない。
あと厳重に警護を固めてもらって向こうの術者にゴーレムを動かしてもらった。こちらは制御棒から魔導線を通じて、魔力を流し、その魔力で人形を操っているという感覚なのだけど、見る限り、こちらのは私が元いた世界で言う「マスタースレーブ」もしくは「トレース」という方法で動かしているようだ。……たしかにこれなら弓も使えるかもしれない。術者本人も弓使えないといけないけど。
制御方法や設計まで違うので、こちらのゴーレムをパクったわけじゃないというのは明白な気がする。ただ関節周りは聞いていた通り、そっくりなところが多い。けどこちらでは関節部分に使っている魔法素材トゥン・ティタールが流出しているとは思えないし、それに変わるなにかがあるのかも知れない。そこはすごく気になる。