進軍
陛下とともに出撃した。陛下は来たときに乗っていた馬車で移動。それに私も付き合うことになった。ただ座ってるだけでなく、予備機であった十五号機を無線操作で護衛としてついてこさせながらである。まあ行軍中はついて歩かせるだけなので楽だけど、さてどうなる?
ローガンとサーチェスはテルルでの私の護衛と言っていたけど、出撃にはついてこれないっぽい。お留守番にさせられたそうだ。まあグゲとレオがいるから問題ないと思うけど。
皇帝陛下の馬車が一番先頭で進んでいる。その周辺は騎馬やゴーレムの護衛がついてくる。その後ろには第四軍の十五号機が揃い踏み、更にその後ろに十五号機の術者やそれらの護衛、その護衛の十二号機などだ。グゲやレオは唯一と言っていい徒歩での陛下と私の護衛となっている。進軍速度から徒歩と言うより駆け足だけどね。本人たちがそれでいいっていうんだもの。
皇帝陛下が敵陣の眼の前で仁王立ちする。……そんなことする必要あるの? まあ周辺のお付きというか護衛には魔法使いっぽい人もいるからフォースフィールドで守ってるとは思うけどさ。
敵の陣では動きはない。さすがに気づいているとは思うけど。反応がないせいか、十五号機の術者が上がってきた。十五号機のすぐ側まで。せっかくの無線機なのにこんなに近くにいてはもったいない、と思ったが、術者たちはおのおの呪文を唱え、敵陣地への攻撃を始めた。
ああ、そうか。元々術者は魔法使いの方が向いているというのはあったから、帝国では魔法兵が術者になっていたのだろう。となれば術者は魔法兵だった頃の仕事をしているだけ、ということか。その時よりも自分の身を守るのに適した十五号機もいるし、専門の護衛もついているしで、魔法兵としても動きやすくなっているし、兼ねているから効率的ってことね。
まあ兼ねてるから万一やられたときは悲惨なんだけど、今のところやられる理由はないよね。
魔法を打ち込まれ始めてからようやく敵からの反撃があった。だいたい弓矢で、たまに魔法だったけど、反撃の一部に明らかに大きな矢があった。ゴーレムボウ?! まさか?! こっちでも実用化はまだ出来ていないのに。
こちらはクロスボウだけでボウ、弓はゴーレム化できていない。ゴーレムの器用さでは弓を扱えないためだ。生産コストを下げるために手の指はかなり簡略化する方向に進化しているし、あまり需要がなかったので研究もしていなかった。曲射したいならこっちはジャベリン使っていたからね。
敵の陣地の壁は炎上している。……、これ、元から放棄するための壁だ。たぶん奥に待ち構えている。分かってはいても攻撃をしているのはこちらだから、どうしようもないな。
「ガーディアン、前に出ろ」
ゴウエイ将軍がそう号令をかけると、十五号のうちでも重装で巨大な盾持ちの機体が三機前に出てきて陣形を組み、少しずつ進んでいく。
すると燃え盛る壁の向こうにドラゴンがいた。前に見た黄色く小さなやつではなく、かなり大きな黒いドラゴンだった。
「ブラックドラゴンだ!」
誰かがそう叫ぶと私達の周りに魔法が飛んできたようだ。どうやら炎から身を守る魔法のようだ。あと何故か痛み止めの魔法も飛び交っている。
ブラックドラゴンが首を大きく上げ、こちらに対して放射線状の炎を吐いてきた。ガーディアンの三機はその炎に完全に巻き込まれているけど、大きな盾を巧みに使って全身に炎を浴びるようにはなっておらず、そのまま遅くはなったものの前進を辞めていない。無線機のいいところだ。これが有線だったらどんなに頑張っても線を守りきれない。
ブラックドラゴンはしばらく炎の息を吐き続けたけど、ガーディアンたちは耐えきった。その後ろ、私達のところまでは火は、火の粉も熱も、届かなかった。逆にこちらの魔法は届いたようだ。何発かのジャベリン系の魔法と、炎を防ぎきったガーディアンたちが投げた物理的なジャベリンがブラックドラゴンに命中していた。
ブラックドラゴンは衝撃力のある咆哮で、ガーディアンの動きを一瞬止めた後、小さな翼で飛び上がり、くるりを後ろを向いて飛んでいってしまった。
後方であるこちらにも轟く咆哮だったので反応が遅れ、追撃は出来なかった。それにブラックドラゴンが下がった直後に燃えた壁の後ろにあった本物の壁に敵兵士の姿が出てきた。
奥の壁は燃えた壁より低く、丈夫には作ってあるようで、その後ろにはゴーレムや兵士たちが待ち構えているようだ。燃える壁のところでドラゴンを使って一撃、というのは向こうの防衛作戦だったのだろう。こちらが無線機で思いの外遠くに陣取っていて、ガーディアンが硬かった、ということなのだろう。逆に言えば相手の策略を打ち破る行動をしたゴウエイ将軍がすごい、とも言えるかな。ドラゴン相手に一歩も下がってないしね。