被害
テルルの火災現場の上まで来た。その前に手旗信号を振っている人がいたけど、その近くまで降りて、火事現場に向かってから来ると言っておいた。
火災は大聖堂? みたいな立派で大きく高い建築物の天井、というか塔になっている部分が燃えているようだ。こんなところが火事になるとかないと思うし、結構壊れてもいるのでたぶん先程の竜のブレスを食らった被害ではないだろうか? 実際のところ高すぎて消火できないみたいだし。
塔から飛び散った火の粉のせいで周辺の建物の延焼が起こりそうになっているようだ。人がかけつけているから延焼は食い止められると思うけど、一応大元は消したほうが良さそうだ。
「水流撃」
要するに水鉄砲である、が本来はかなりの勢いで穴が開いてもおかしくない威力、なのであるが、そんなものを燃えている尖塔にぶつけたら尖塔そのものが吹き飛んでしまうので、だいぶ威力は下げて発動させている。
それでも水流で一部を破壊してしまったけど、そのおかげもあって鎮火はした。まわりに水しぶきが飛んだのでこれ以上の延焼もないと思う。
下の住民は混乱に陥っていたようだけど、兵士たちは空を飛んで尖塔を破壊した羽の生えた化け物がゴーレムであると見抜いてくれたようで、混乱を収めてくれていた。さすが最前線になってしまった場所にいる兵士である。
そんな兵士に守られ、誘導されて、先程の手旗信号を送ってくれたところへ戻ってきて、本来の着陸地点へつくことができた。そんな私を多くの兵士が取り囲む。まあ当然かも。事情を知っている人がいればいいんだけど。と思ってゴーレムからはすぐに降りず、ベフォセットに先に降りてもらう。当然貴族の姿で。
「先触れである。指揮官はいないか?」
「指揮官ではないが、俺が取り次ごう」
現れたのは右腕が義手の兵士だった。
「ローガン?」
「……ってリン姫さんじゃないですか?! いつ起きなさった?! いやぁ心配してたんですよ!」
私は正直右腕を見て気付いたけど、ローガンは私を見分けて私だと気づいてくれたようだ。
「まだ目覚めてから数日しか経ってないからね。ここまでは届いていなかったみたいね。それよりローガン。私は帝国皇帝の先駆けだよ。もうすぐここに皇帝陛下が来るよ。ここの指揮官に伝えて」
「ローガンさん、この子どもと知り合いですか?」
「知り合いも何も俺ぁ、この人の部下だぜ。……俺がずっとここにいるからって俺は外部の人間だって忘れちまってたか?」
「そうでしたね。えらいさん、連れてきます?」
「いや、予定通り皇帝陛下の部隊がここに来ることを伝えるだけでいいだろ、あっちはあっちで色々と忙しいだろうしな、それでいいでしょう? リン姫様」
何やら兵士と話をしていたローガンが急に私に振ってきた。
「え、ええ、しかと伝えましたよ? ちょっと報告があるので私は戻りますね。また会いましょ」
そういってちょっと降りただけで再び飛行実験機へ乗り込む。
「ベフォセットは、どうする?」
「もちろんついていきますよ。たぶん私の力が必要になりそうですから」
「そう、なら乗って」
無事先触れを果たしたので、即座に戻ることにした。本当だったらこのまま工房へゴーレムを預けて一休みだったんだけどねぇ。
かなりの速度で戻ったけど、機体に不具合はなかった。翼とかやばいかなぁとか思ったけど、思った以上にしっかりと作られていた。さすがだ。
陛下の集団は……、まだここまでたどり着いていないようだ。よかった。
「ベフォセット、あなたの予想通り、あなたの力が必要です。あなたがむちゃくちゃにしてしまった街道だけでいいから修復してください」
そう、ドラゴンを吹き飛ばすために一緒に街道を吹き飛ばしてしまっていたから。ここ陛下が通るのに、馬車で。このままだとがたがただし、荒れているから通れないでしょう。
「我輩の金貨魔法であれば、可能ですが。……やらなきゃダメですか? ダメ? あっはい……費用は自腹ですか、はい」
べフォセットにはいったん降りてもらって、街道の修復に当たらせる。私は軽く飛んで陛下の位置を調べに。……すぐそこにいた。ぎりぎり間に合ったはず。