三つの軍団
確か帝国では第一から第四まである軍団ごとに軍師がいたはず。確かハームルさんが第四軍の軍師だと名乗っていたわね。
帝国に倣うならかなりの上役の人のはずだ。そんな人がゴーレムを新規で開発した? 情報を引き出すためにもそのジョージって人と会って話してみたいものだ。
「王国には王国戦士団と神聖騎士団、竜騎士団の三つの軍団がいたはず。どこも小規模だがな。どれの軍師なのかは分からんが、前線に出てきていてもおかしくはない」
「小国であるのに軍団が三つもあるのか?」
「かなり特殊な国ですからな。ただ私にも何故神聖騎士団と竜騎士団と別れているのかまでは把握できておりませんが。竜を信仰対象にしておる国ですから、同じだと思うんですがね」
「今テルルに出張ってきている敵はどれなのかは判明しているのですか?」
「王国戦士団だと聞いている。戦士団といっても魔法使いもおるようだが」
海軍航空隊、みたいなものかな? 騎士団にだって魔法使いはいるだろうし、何なら魔法隊とかでも戦士はいるだろうしね。いや、問題はそこじゃない。
「騎士団の方が、難癖をつけてきそうな気もしますが、戦士団なんですね」
「それもそうだな。一般的に戦士団ということは平民主体の軍だろうし、だいたいは他の騎士団の予備とかだったりするものだがな」
騎士団なんてものがいる世界なら、そうだよねぇ。二軍扱いになると思う。その二軍が一軍を差し置いて前に出てきてる?
「直接見てみないと分かりませんね」
「だろ? だからワシもわざわざ出張ってきたんじゃ。国内の反逆分子を一掃するためにもな」
「なるほど、国内での動きはそういうことでしたか」
なんかゴウエイ先生が一人で納得されている。まあ私が知らない何かがあったんだろう。
そんな感じで食事会は終わって、護衛付きの部屋でテルビウムに一泊することになった。まあ夜間に進軍しないといけないほどの状況じゃないしね。
次の日の朝、側仕えは連れてきていないため、自分で髪をとかして整え、義足を付け、寝巻きから着替える。着替えは支給されていた。寸分違わず私にぴったりのサイズだ。もちろん採寸された記憶はない。……さすが皇帝が利用する服飾関係、といったところか。昨日来ていた服は折りたたんで部屋に置いておく。身支度を終えたところで、部屋の中にふとルオンが現れた。……密室のはずなんだけどなぁ。
「夜間の間にこれといった変化はこの周辺ではありませんでした。ご指示いただいたマグダレーナですが、彼女の周辺にはご報告すべき事柄はありませんでした。あえて言うなら、平均して見ても恐るべき作業の速さでした。材料が足らず昨晩の作業は止まりましたが、全てが揃っていたなら今頃は完成していたかもしれません」
「えぇー。なにそれこわい。まあ不審な人物で無いなら良かったわ。ルオンからテルビウム砦長に言付けって出来る?」
「はい、テルビウム砦長レックドは私の存在を知り、リン様の配下であると認識できておりますので書面であるならリン様の言葉を預かることは可能です」
「そう、なら良かった。じゃあ、私の裁量においてマグダレーナを最高の技術者として待遇してほしい、と。もし金銭がかかることであれば私、リンかライクーンに請求してほしいこと、を書面に書くから渡してもらえるかな。返事も頂いて。それが終わったら先にテルルへ向かって、敵側を調べて頂戴。敵の軍師、ジョージを中心にゴーレムに関することとか。報告はテルルで」
「委細承知いたしました。書面を受け取り次第さっそくに」
私が急いで書類をしたためてルオンに渡すとすぐに見えなくなった。扉も窓ももちろん開いていない。どうやって出入りしてるんだろうねぇ。ルオンが直接暴力がふるえる魔族でなくて良かったよ。でないと便利に使ってしまいそうだ。……現状でも情報収集にはすごく便利なのに。