人形ゴーレム
「ええ、お願いします」
まずはゲゴに人形のゴーレム化を試してみてもらうことにした。ジーゼに人形を出してもらう。
この人形は首、肩、股の関節が動くだけの質素なものだ。肘や膝はないのでそこは魔力で曲げるようにしないといけない。また自立するようにも出来ていないので足首辺りも工夫が必要だろう。
ゲゴが人形を借り受けていろいろ見て調べたあと木札とにらめっこしていた。何枚か順番を変えたり、追加したりしている。
「お待たせしました。この人形をそのままにゴーレムとして起動してみます」
木札を持ちながらなので床に人形を寝かせて魔力を放射で与えていくようだ。ゲゴがゆっくりと呪文を唱えていった。
……。
呪文を唱え終えたのか、一度息を吐き出す音が聞こえて、起きなさいと普通の発言が聞こえた。
すると床に置かれていた人形がゆっくりと、曲がるはずがない部分が曲がって、人間のような動作で立ち上がった。
「成功のようです。しかし動かすには足りない体の部分や関節がないため、思っていた以上に魔力を使ってしまうようです」
ゴーレムとなった人形がてくてくこちらに歩いてきてゆっくりと手をふった。
「では人形を動かすのに理にかなった形に造形すれば、だいぶ魔力を節約できそうですね」
人形が私の前でジャンプした。動きがなめらかなのにてきとーな造形なので不気味の谷に入ってる気もしないでもないけど、ジャンプした人形を両手ではっしと受け止める。
「この子は今ゲゴが遠隔操作してるのですか?」
「いえ、魔力はつなげたままですが、行動に関しては自動です。小さな子どもをイメージとしたので、そのような行動をとっているのだと思います」
ほう、ゴーレムのAIは創造者のイメージ次第なのか。
「もちろん、自動行動をとめて、遠隔操作に切り替えることも可能ですし、細かく行動基準を定めることも可能です」
「その魔力接続はどれほどの距離が届くのですか?」
「わたくしの魔力ですと、だいたいハイゴブリンが両手を広げた三つ分ぐらいですね。それ以上離れると魔力が減衰いたします」
思ったより距離はあったけど、離れすぎると減衰しちゃうのか。ということは出力が高ければロスはあっても長距離で操作できる、とも言えるのかな。
自分の太ももに人形を立たせてみる。足首はないのに、足首があるような感触を太ももに感じる。このへん、変形させずに魔力のみで支えてるのかな。この様子だと掌がなくてもものを持つことも可能なのだろう。ただ魔力を多く使ってしまいそうだけど。
でもまあこの人形を動かせるのなら、義足も動かせそうだ。この人形の実験はそのためのものだし。ゼルンが人体を模した義足を作ってくれればくれるほど、魔力はあまり消費しないものが作れそうだ。まあ万一あまり模していなくても魔力さえあればいけると確信が持てた。
「ありがとうございます、ゲゴ。しばらくこの子を雑用などで使ってみます」
「では、この人形への魔法、リン姫様がかけなおしてみますか?」
「そうですね、私もやっておきたいです」
「では解除させていただきます」
ゲゴが跪くと、するっと人形が私の手から逃れて、ゲゴの元へ走っていった。そして膝を曲げずに座って脱力した。
「では呪文のお勉強をいたしましょうか。使うだけでしたら丸覚えでも復唱でもいいのですが、応用されるおつもりのようですので、きちんとどの部分が何にあたるのか、覚えましょうか」
ゲゴが持っていた木札をじゃらっと鳴らした。ゲゴの指導は厳しそうだが、望むところだ。
「はい、よろしくお願いします、先生」
その日は特に何も起こらなかったのでそのまま長時間勉強させてもらった。
足的に安静にしていたので風呂にも入ったけど痛むことはなく、念の為風呂上がりにゴガに診察してもらったけど大丈夫というお墨付きをもらった。
次の日の朝、待ち構えていたかのように朝食を終えてすぐにゼルンがやってきた。あまりに早いのでまだ五神官がいるほどだ。あ、まだグゲは帰ってきてないから四神官だけど。
ゼルンを見て興味深そうに、ゲゴとゴガが私の後ろに控えた。ギグは娘の活躍を見るのが恥ずかしいのだろうか。ガギは別の用事で動いているようだ。
「前に言いましたとおり、足の型をとらせていただきたく……」
もちろんOKして、粘土で欠損した部分の足の型を取ってもらった。
「そしてこちらが現在試作している義足でございます」
前の義足とはだいぶと変わっていた。まず足に付けるソケット部分が金属製の網みたいなものになっていた。そして義足部分は足っぽい造形になっていた。膝や足首の関節はパッと見ではどうなっているのか分からないぐらい複雑な構造になっている。
「あの、これ……」
「申し訳ありません。先日量産に向いた構造を、と言われておりましたがすでにある程度構造が決まっていて、部品を発注済みでしたのでそのままこちらを採用させていただきました。簡単な構造の方は、簡単なのですでに頭の中に設計図はありますのでいつでも、次からでも作成はできます」
「そう、突然でしたものね、ありがとうございます。おそらくこちらのほうが使い勝手は良いと思いますので、謝らなくてもいいですよ」
自分が使う分なのでより良いものの方が良いのも当然だ。ちゃんと足首の先も作られていて、足の指もある程度再現されていた。
「あら、足の裏になにか付けています?」
「はい、足の裏には石突は使えませんので、特殊な樹脂を塗っております。滑り止めになりますし、すり減ればまた塗ればよいだけのものです。この樹脂は通気性も高いのでソケット部分にも使用するつもりです」
おー、なるほど、そんな都合の良い樹脂があるのね。足の裏を触ってみるとゴムのようだし、衝撃吸収にも良さそうだ。
「ではソケット部分の調整だけですね、今のところは」
「はい、ですが改良点としてはソケット部分の金属をミスリルに変えるなども考えています」
「ミスリル? ミスリルがあって使えるんですか?」
「はい、ただ希少なものですのでガギ様およびギグの承諾が必要となります」
そっかー、そうだよね。義足にミスリルとかもったいないものね。けどミスリルかー。
「魔力との親和性が高いので、リン姫様の義足になら有用だと思うのですが」
「なるほど、もし今の金属製がいまいちでしたら、二人に頼んでみましょう」
「はい、ありがとうございます」
なんかゼルンに乗せられた気がしないでもないけど、今のやつに不満が出たら変えてもらうことに異存はないからいいか。
「では、今とりました型からソケット部分を最適なものに仕上げてまいります。なるべく早くにしたいのですが、一両日はかかってしまうかと思います」
あと最悪二日かかってしまうかー、でもまあ肌に触れる部分だしちゃんと作ってもらったほうがいいか。
「わかりました。重要な部分ですので焦らずにお願いします」
足の型と義足を持って、ゼルンが下がっていった。
ゼルンが見えなくなってから、控えていたゲゴが、先程私の近くまで戻ってきていたガギに進言してくれた。
「先程ゼルンから、リン姫様が触れる部分にミスリルを使うという提案がされました。わたくしは良いアイディアだと思います」
「ふむ、そうかもな。ミスリルならすでに行き渡っていてストックも十分にあるはずだし、確かゼルンにはまだ使わせたことがなかったはずだ。ギグと相談して許可を取り付ける方向で動いておこう」
私が何かする前にあっさりまとまった。私が言うのもなんだけど君たち過保護だね。ありがたいけど。