食事会
結局、皇帝陛下とお会いできたのはそれから二時間後だった。
謁見を行う予定だったのだけど、時間が遅くなってしまったので、陛下の夕食に付き合うということになってしまった。
出先とはいえ、皇帝陛下の食事なのだからずいぶん豪勢で手間のかかった料理が出てきた。……時間に合わせて作っていたはずなのにちゃんとしたものが出てきた。調理の人大変だったろうなと思う。
陛下とテーブルを囲むことになってしまった。帝都ではありえないことだけど、外ではそれなりにあることらしい。私が貴族になっていたのも良かったようだ。
毒に関しては陛下について来ているテオン様が魔法でチェックしてくれるらしいのでまだ温かいものを食べられるようだ。外出中に魔法もあるのに陛下の毒見役まで連れて出られないということだろう。万一毒が入ったものを食べてしまってもテオン様が近くにいる限り、大事にはならないだろうしね。
むしろテオン様の食事に毒見がついているようだ。私も私自身を癒やしたことないもの。テオン様が失われれば影響は大きいしね。
「すまんな、リン。遅くなってしまって」
「いえ、陛下。大丈夫です」
何が大丈夫なのか分からないけど、なにをどう答えたら良いのか分からないし。見知らぬ人も同席しているし。誰だろう? 紹介してくれるとは思うけど。白髪で白くて長い髭の武将みたいな人だ。
「リンは初めてだったな。この方は第四軍の将軍でわしの先生であるゴウエイ殿だ」
「そなたがリンか。ハームルからよく聞いておる」
あー、存在だけは聞いていたけど、この人がそうなのか。ハームルさんの上司で皇帝陛下の懐刀と言える人。もっと若い人だと思っていたけど、陛下の先生だったのか。
「ゴーレム、そなたの発案だったらしいな。非常に役立っておる。だが敵に回すとやっかいではあるな」
ハームルさんの上司だったら聞いているか。一応私だってことは伏せられているはずなんだけど。まあ状況証拠でバレバレではあるんだけどね。
「今回はジュシュリの首魁であるリンと我が精鋭第四軍を連れてテルルへ向かうつもりよ。第四軍はすでに全てのゴーレムを十五号型にしておるからな」
「陛下自ら前線へ行かれるのですか?!」
「第四軍は皇帝の護衛みたいなものだからな。動かすにはそれが一番手っ取り早いのよ。ゴーレム同士の戦いというものもリンに見せておきたかったしな。魔物とは違うのだよ」
「はぁ、だから国同士の戦争には参加したくなかったのですけどね」
「分かっておる。だからワシ自らが出るわけじゃ。こちらの最高の戦力で叩き潰せば早う終わる。しかしかけるのはワシ自身の命だし、それは帝国を左右しかねん。だからリンにも来てほしかったのだ。専門家としてな」
侵略戦争ではなく、難癖つけられての経済、防衛戦争だしね。ちゃっちゃと終わらせた方がいいのは確かだ。それで相手が滅ぶことになっても因果応報なだけだし。
それに相手にもゴーレムがすでに存在し、運用されているというのは問題だ。いずれ広がっていって他国全てが運用し始めるのも当然だし、そうなってほしいが、まだ早すぎる。たった二年で兵器として運用とかちょっとありえないレベルだ。元の世界の知識を持つ私と、この世界で最高クラスの技術力があったからこそ可能だったはずのゴーレム技術なのだ。
実際他国へはまだ九号型ですら販売はしていないはず、牛型と馬型だけで、さそり型ですら出していないはずなのだ。それらを飛び越えて九号型に似た機体を敵対国が持っていて運用しているというのは、大問題だ。
私達から見れば、義手義足技術はゴーレムへ転用可能であると知ってはいるけど、その発想があって、実行に移せるのは脅威である。
「私としてはその敵が運用しているゴーレムをこの目で見るのは大きいと思います。あとそれと出来うるなら敵国の、そうさせた人物と話してみたいですね」
「偵察や様々な分析によると、神聖クーテヌス王国で最近取り立てられた軍師によるものだということだが」
「軍師がおりますの? その王国にも」
「ああ、王国ではつい最近新設された上級役職らしい。確か名はジョージといったか?」