自宅
ライクーンの庁舎ではラキウスが待っていた。
「リン様、健やかなようで何よりです」
ラキウスはこの二年でかなり変わったようだ。少年っぽかったところはほとんどなくなって立派なイケメン大人になったようだ。身長も肩幅までも大きくなっていて、別人にすら見えるレベルだ。
「ラキウス、久しぶり。二年前のレニウム以来かしら? 私にはまだ三ヶ月ぐらいしか経ってないように感じるんだけど。ラキウス、だいぶ変わったね。もう呼び捨てにできないかしら?」
「はっは。私はリン様の代官ですから、今まで通りどうか呼び捨てでお願いします。でないと背中が痒くなってしまいます」
「そうみたいね。もうしばらくは代官をお願いしたいわ。全然分からないんだもの」
「分かっております。ガギ殿がかなりものになっておりますゆえ、私の仕事も減っておりますので次はリン様をご指導させていただきますよ。貴族としても、覚えておいたほうが良いことは山ほどありますので」
「それが面倒だから避けていたんだけどね。二年も寝てた私が悪いんだから仕方ないわ」
「しかしリン様はすぐにご出立なされる予定と陛下より聞いております。本来であれば私がついていきたいところではありますが、ライクーンをガギ殿一人に背負わさせるのはまだ時期尚早ですし、かといって今となってはガギ殿がいないといろいろと困りますので。ライクーンは再びリン様がお帰りになるまでこのラキウスとガギが無事治めましょう」
皇帝陛下がすでに根回ししていたようだ。電話があるとそうなるよね。実質定点ワープの蟻の巣よりも早いんだから。
「しかしライクーンで一日休まれる時間はあるはずです。明日まではごゆるりとされてください。その間になんとかガギ殿をそちらに送りますので」
「じゃあそうさせてもらうわ。ハームルさんともあなたともゆっくりおはなししておきたいけど、それはまた帰ってきた時だね」
「ええ、その時に二年の穴埋めの手伝いをさせていただきますよ」
庁舎内でラキウスとは別れ、ライクーンにある私の家なるところへ案内された。いつの間にか私はこの街で自宅を得ていたらしい。
でもまあ領主になったならあって当然か。
ライクーンは私たちが占拠したときと違って、かなり復興していた。巨人や異形はいないのは当然として、もう倒壊している建物なんかないし、それどころか色んな場所で人々が活動しているのが見えた。
レニウムでもある程度はそうではあったけど、より自然な感じで人々の中にゴブリンが混ざっている。むしろゴブリンのほうが多いかも。
機体は目立つけど私は目立たない、持ってきてもらった飛行実験機で移動したので、私に気づく人は居なかった。飛行実験機もこの街では普通にゴーレムが歩いていたりするのでそこまで目立たないし。
私の家、らしいところは街ではなかった箇所に広げられた土地に作られた、すごい庭がある屋敷だった。
その中では主がいなかったのに百人以上の使用人が務めていたらしい。敷地内にゴーレム整備工場みたいな場所もあるし、私が言うのもなんだけど、へんなところだ。
ゴーレム整備工場のような場所で降りて、屋敷に入る。
案内人からゴブリンに変わって、屋敷の中を案内してもらう。ゴブリンは私よりゼルンに気を使っているように見えた。まあゴブリンからしたら私よりはぱっと見ゼルンの方が敬いやすいだろうしね。それにこのゴブリンはかなり若い様子。かろうじて私の存在は知っている、というレベルな感じだ。
屋敷ではだいたい人間の使用人がもてなしてくれた。ゼルンとともに食事をし、ゆっくりとさせてもらった。その間に【技工】のギグが訪れてくれた。ライクーンの義手義足製造工房にいたらしい。
ゆっくりしながらもギグとゼルンから義手義足のことや、ゴーレムのことを聞いた。
ギグの話によると、かなり発展しているようだ。私が今つけている義足はプロトタイプでまだ世には出回っていないもののようだ。けど以前に使っていたものはもはや一般普及品となっているらしい。私がそれをつけていた頃は一品物のフルカスタムみたいなものだったはずだけど、たった二年でそれはすごいわね。