アントホール
「あとそれとエドから今後についても指示されてきたわ。リンはこのままライクーンに行って、そのあとテルビウムへ行けってさ。一週間後までに、だって。ここレニウムからテルビウムに行くだけでも二日かかるのに、テルビウムからライクーンは一日だったっけ? それでもけっこうな強行軍を言うてきたわ」
その話を聞きつけてか、私の影からぬるりとベフォセットが出てきた。
「いえ、サキラパさん。レニウムからライクーンへはキリカーンテの蟻の巣が通じている故、行こうと思えばすぐに行き来できますぞ」
「相変わらず唐突に出てきよるやっちゃな、ベフォセット。まあええ。そうなんか? 話は聞いたことある気がするが、ほんとに行けるんか?」
「ええ、問題ないはずです。飛行実験機ごと移動しましょう。今キリカーンテへ申請しましたので、ほどなく迎えが来ると思います」
しばらく待っていると、キリカーンテの分身であるアリクネの一体が現れて、誘導してきた。サキラパさんを通じてレニウムでの自由行動の許可はもらっていたので、飛行実験機にゼルンを乗せて移動する。サキラパさんはこのレニウムの工房に残るそうな。
「またな、リン。こっちで必要なことやっとくわ。飛行実験機でリンが出した応用実験とか十四号機でやっとく。実現できたらおもろいことになると思うわ」
アリクネが来るまでにゴーレムの浮遊移動について、説明しておいた。飛行実験機だから出来たことかもしれないけど、たぶん風の属性石だけで出来ると思う。硬い素材で作る足や腰のスカートについても説明してる。それらがないと安定しない可能性があるしね。なんなら背中に安定翼でもつけるといいと思う。翼の設計についてはメモ書きを残しておいた。断面さえ分かれば強度とかもかなりいるとは説明しているので材料工学の第一人者と言えるサキラパさんなら理解し、正しく作れると思う。
飛行実験機についてはやや大仰でメンテナンスが難しいかもだけど、今の私にはいろいろと便利なので乗機としてしばらく使わせてもらうことにした。足のこともあるし歩くの苦手だしね。
アリクネについていくと、レニウムの物資集積場にきた。ここにライクーンへの蟻の巣なるものがあるらしい。実際ここにはヒュージアントやそれに荷物を乗せる作業をしているゴブリンメジャーワーカーや獣人までいる。
ライクーン行きの荷物を背負ったヒュージアントたちやアリクネと一緒に、蟻の巣をくぐる。距離はすごく短い。百メートルも歩いてないと思う。
それなのに穴から出たら、そこはライクーンの物資集積場だったようだ。
「お待ちしておりましたよ」
この声は……!
私とゼルンは慌てて飛行実験機から降りて、出迎えてくれた人、ハームルに頭を下げた。
「ハームルさん! お久しぶりです。……ずいぶんと迷惑をかけてしまいました」
「二年と半年ぶりぐらいですね、リン様。お元気になられてよかった」
「私が寝てしまう二年前より以前もずっと私達ジュシュリのために動いてくださっていましたからね。その時も今までも顔を出すことが出来ず、申し訳ありませんでした」
「いやいや、自ら望んだ立ち位置でしたからね。それにここ一年ぐらいはガギ殿やラキウス殿も慣れてきて、私がわざわざ動かなくてもいいようになってきてましたからね。リン様が思うほど苦労はしておりませんよ」
今ではジュシュリの存在も私が爵位を持ってライクーンを治めている形になっているため、帝都でいろいろと根回しややりくりをする必要がなくなり、官僚を利用することが出来るようになったため、名目上ジュシュリの隊長であるハームルさんの負担は激減したらしい、とライクーンの庁舎に行くまでのゴーレム馬車の中で話を聞いた。
飛行実験機はアリクネがあとで持ってきてくれる、そうだ。どうやってかはハームルさんも知らないらしいけど、信用しているようで任せていたので、私も任せて、ゼルンとともに馬車に乗った。