都合
「いきなり前の世代とはいえ主力機クラスのゴーレムが敵に運用されていたのね」
「そうらしいです。私は鹵獲されたそれを検分しただけですので経緯までは知りませんが」
「うちは知ってるで。テルルって街あったやろ? そこが戦争の中心地になっとるらしいが、そのゴーレムが強襲かけてきたらしいわ。テルルにはまだ九号型しか配備されていなかったらしいんやけど、たまたまその場に居合わせたローガンとサーチェスが食い止めたらしいわ」
ローガンとサーチェスは義手義足の元帝国兵で、手足を失ったがために兵士としての資格を喪失したので、スカウトしてジュシュリに来てもらった人間だ。模擬戦とかでも結構強かったけど、実戦で活躍したのね。
「今も断続的にテルルは攻められとるから、かなり防備の強い城塞都市になっとるし、守護ゴーレムもおるし、そうそう抜かれることはないみたいやけどな。相手はテルルに隣接してて、運河の権益にいろいろ難癖つけてきとるらしいわ」
「守護ゴーレム? ってなんだったっけ?」
「帝都にあるミカエルみたいな純粋なゴーレムですよ。テルルにあるのは確かカマエルという名でしたかな。まだ動かしもしてないようですが、無事防衛できておりますな」
「わざわざそんな守備の強いところに攻め込むとか、何考えているのかしら?」
「そもそもその敵国と帝国が隣接している場所がテルルのある場所のようですな。テルルを抜かずに帝国に迫るにはかなり迂回、しかも他の国を通って、しないといけないようです。……なんで喧嘩を売ってきたのやら」
私には戦争を仕掛けてくる者の気持ちなんか分からない。しかも勝てそうにないやつとか。けどたぶん、なにか譲れないものがあるんでしょう。魔族がどうのこうの言ってたみたいだし。
「ベフォセット、あなたや私たちが原因らしかったよね。魔族やわたしたち闇の側にいたゴブリンが嫌いだとかどうとか。……嫌われるのは仕方ないにせよ、だからといって帝国の、魔族やゴブリンに関わりのない街を攻めるのはなんなんでしょうね」
「我輩がそう言ったのでしたな。しかし状況の説明をしただけで、我輩にはそのような不合理な行動は理解できません」
敵の考えていることはどうでもいいわ、私が考えても仕方のないことだよね。相容れないなら潰すしかない、よね。口で言って分かりあえるなら、世の中人間同士の戦いなんてないだろうし。
「私、自由に動いて良いのかな? 新型のゴーレムを見たいのですけど」
「ええ、すでに皇帝陛下から許可はもらってますよ。帝都から出ない分には自由にして良い、と。帝都からどこかに出発する場合はさすがに陛下に新たに許可が必要ですが」
「それなら問題ないわね。見れるかしら?」
「ならうちの帝都工房に行こか。うちの工房は素材研究の場やけど、だからこそ新鋭機も置いてあるし十四号機も飛行実験機も今うちにあるで」
「では瞬間移動許可区域に行きましょう。我輩であれば自らを含めず三名までならサキラパ殿の工房へ一瞬で送れますからな」
「ベフォセット、いつの間にそんな能力を?」
「リン様がお眠りしている間に、パサヒアス様より与えられました。ただ我輩のは魔将キリカーンテの蟻の巣と比べると著しく使い勝手は悪いですが、ね」
「キリカーンテって確か蟻のアラクネみたいなアリクネよね。ミリシディアに点在する村の補給路を管理している魔将だったっけ?」
「アラクネ、というものがどういったものなのかいまいち分かりませんが、そうです。拠点同士を短距離で結ぶトンネルを作ることが出来る者です。我輩のは長い時間をかけて登録した場所にだけ、自分自身と三名までを送ることができるだけですからな。案内係しか出来ません」
「でもそれがあればすぐにライクーン、でしたっけ? 私の街になったところ、とかミリシディア元王都とかにもすぐにいけそうですね」
「そうですな。その二箇所とレニウムは登録しております。残念ながらテルルは出来ておりませんので前線へ一瞬で移動する、ということは出来ません」
「なんでサキラパさんの工房を登録してるの?」
「便利だから、ですな。ここにくるのにも、ジュシュリの者がサキラパ殿と打ち合わせするためにも」
「私がいなくても、そんなに協力してくれていたのね。正直、意外だわ」
「同盟が組まれておりましたし、パサヒアス様の意向ですな。リン様のジュシュリに全面的に協力する、というのは。……リン様がある程度関わっておられるから帝国とも仲良くしている、というのが実情かと思っております」