新型
二年も寝ている間に事態は最悪に近い方向に流れていたようだ。
もちろん予想していなかったわけではない。けど私が動けない時期に話が動きすぎただけだ。私がもっと早期に対応できていれば、と思うものの、ずっと倒れていたのだからどうしようもない。ともかく情報が欲しい。
欲しいけど、この世界では聞き取りぐらいしか出来ないのがきつい。自分で積極的に情報を集めるということが自分で見て聞いて回る、ぐらいしかないからだ。私は現在帝都で療養中でかつ深夜では何も出来ない。不貞寝するしかない。
なんだかんだいって疲れていたようで、不貞寝の割にはぐっすりと眠れたようだ。起きたらすぐにべフォセットが来てくれた。
「サキラパ殿とゼルン殿はすぐにお連れできますが、いかがしますか? まだ朝食もお済みではないでしょうが」
「是非今すぐにでも話を聞きたいわ。連れてきて」
「ああ、おかえりなさいませ、リン姫様! お待ちしておりました!」
大げさに喜んでくれているのはゼルン。
対してサキラパさんは飄々としている。
「久しぶりやな、リン。元気そうで何よりや。そのまま逝ってしまうかと思ったで」
サキラパさんは見た目は若いけど五百歳を超えていると聞いている。五百年も生きていれば私の二年など誤差みたいなものなのだろう。
「で、何が聞きたいんや? リンが寝ている二年の間にけっこういろいろあったからな。こっちから全部話ししてたら日が暮れてまうからな」
「サキラパさん、リン姫様。お話の前にリン姫様の足を見させてもらえませんか?」
私の右足には目覚めてから何もついていなかった。すなわち一人では何も出来ない状況だったから助かる。お手伝いさんを煩わせないとトイレも行けなかったからね。
二人を連れてきてくれたベフォセットが右足をゼルンに渡した。ゼルンは手ぶらだったから少しがっかりしてたけどベフォセットが持っていたのか。
「こちらは新型となります。二年前に使っていらした義足よりかなり世代を重ねております。どうぞ、お試しください。二年前のものと比べて格段に使いやすくなっていると思いますが、リン姫様と共に調整したものではないので、もしかするとしばらくは不具合があるかもなのですが」
手渡された右の義足はかなり軽い。記憶にある前のものと比べても半分ぐらいではないだろうか? それに固定用のベルトの類がついていない。恐る恐るソケット部分を右太ももにセットする。
ひんやりとして柔らかいものに包まれた感触がある。そしてソケットの上の部分がキュッと締まった。血が流れなくなるようにきつくはないけどけっこうしっかりと固定された。その部分もひんやりしている。
「肌へ接触する部分はサキラパさんが開発した新素材を使用しております。熱の放射率が高い軟性の素材とのことですが、私には難しいです。が素材として人体に影響はないようにはなっているはずです。すでに同じ素材を他の義手義足にて試験運用しておりますので実証もされております」
「ま、一種の魔法金属みたいなものや、柔らかいけどな。衝撃と熱を吸収する水みたいなものやな。ゴーレムの関節に使えんかと思って作ってみたんやが、義手義足に最適みたいでな。リンとこにいた義手と義足の兵士に実験手伝ってもろたわ」
「本当にありがとうございます。ひんやりとして気持ちいいですし、締め付けもそんなにきつくないのに勝手に外れるってことはなさそうに固定されますね」
「耐久実験も行っていますし、リン様が普段使いする分には壊れたり勝手に外れたりはしないと思います。……その代わり外す場合は魔力を消費するか、この液体をかけないと肌が痛みます」
と言われて小瓶に入った液体を渡された。
「義足を緊急に外さないといけない事態はそうはないと思いますが、一応念のためこれは常に持ち歩いてください。熱の放射にも限りがありますので、外せる時はできるだけ外したほうが良いのは確かですので不要の際は外しておくのをお勧めします。しかし結構な魔力を消費するか薬がいるので大々的に展開できていないものなのです。リン姫様なら問題はないかと思いますが」
「二年で頑張ったのね。これだとゴーレムとかすごく発展してそう。それが聞きたかったの」
「はい、二年前リン姫様がお眠りになられた時、主力でした九号型は退役し、民間の作業用となりつつあります。現在の主力は十五号型となっており、前主力であった拾弐号型から置き換えつつあります」
「私が知ってる二年前から二世代も上がっているのね」
「はい、拾弐号型は純粋な九号型の後継でしたが、十五号型は無線機となっておりますので」