密会
いろいろと話しを聞いたりしたりした後、正式に私はレザント帝国の貴族の一員となって皇帝陛下に仕えることにもなった。そしてライクーンの街とその周辺、旧ミリシディア領土を収める領主となった。
……まあ名目上そうなっただけで、今の私になにか出来るってわけじゃないし、代官として引き続きラキウスも貸してくれるとのことだし。
ハームルさんが私の後見人となってくれたけど、私が知っている二年前と同様に使ってくれて良いとのこと。
……
目覚めた日の深夜、陛下がテオン様とベフォセットを引き連れて、私が寝ている部屋に訪れた。
「こんな時間にすまんな。正式な訪問ではなかなか言い出しにくいことなのでな。本来であれば二人きりで話したかったが、伯父と姪であるということは公式にしておらんし、そうであっても問題とされかねぬのでな。ベフォセット殿はパサヒアス殿の了解も得たいのと護衛をお願いしたものだ」
「はい、分かりました」
私ももう回復しているので、部屋にあった応接セットで出迎える。
「お前には非常に言いにくいことなのだが……」
陛下が言い淀んだ。そこまでのこと?
「今帝国が防衛戦争をしているという話は聞いたよな? ジュシュリにその戦争に参加してほしいのだ」
え? それは……。確かに防衛なら手伝うと最初に言っているけど、それは。
「もちろん理由はある。相手にな、ゴーレムがいるんだよ」
「えええ! なんでですか?!」
「知らんよ。ただ今ワシが知っていることは、二年前に運河の工事現場を何者かに襲撃され、ゴーレムが二機、盗まれていたことと、向こうに天才がいるという話だけだ」
実際ゴーレムの魔法自体はもとからこの世界にあるものだ。それを飛躍的に、機械的に発展させたものが私達の使うゴーレムだっただけだから、相手も持つという可能性はある。
そんな単語はこの世界にはまだないのかもしれないけどリバースエンジニアリングをされたのかもしれない。
それに私の知る二年前でもゴーレムの技術者を養成していたから、そこから漏れて真似されたのかもしれない。どれが理由かは分からないけど、ゴーレムの機械としての部分は可能性としては十分に有り得る。
だけど、こちらのゴーレム化の魔法は私以外には【魔術】のゲゴとその弟子ハイゴブリンにしか使えなかったはず。
……そこを天才とやらに真似されたのかも。発想としてなかっただけで、あるならやろうと思えば出来るはずだし。私が寝ている二年の間にもっとずっと広まってるのかもしれないし。
「今のところ、一箇所、重要な戦線で見かけただけだから、できるだけ早く対処しておきたいのだ。一応こちらもゴーレム部隊を編成し対応は出来ておるが、ジュシュリのゴーレムと比べるとな……。なるべく早期に片付けたいのだ」
「分かりました、陛下。確約は出来ませんが、なるべく期待に沿うよう動きたいと思います。相手のゴーレムにも非常に興味が湧きますし。ですが、私は二年を失っているので、その穴をまず埋めないと思うどおりに動けないと思うのです」
陛下がテオン様をちらっと見てから頷く。
「それもそうだな。できるだけ早くこちらのゴーレム技術者とゴーレム運用を指揮している者をお前の元に寄せよう。そいつらから現状を聞いてくれ」
「こちらは【技工】のギグ殿と次期技工のゼルン殿、【魔術】のゲゴ殿と次期魔術のどなたか、それにハイドワーフの錬金術師サキラパ殿、そして不肖我輩がたっぷりと説明して差し上げれば良いですかね」
「お願いしたいわ、ベフォセット。手配を頼めるかな?」
次期【魔術】の神官はクットゥーだったと思うけど、なにかあったのかしら?
「もちろんですとも」
ベフォセットは男前の貴族の姿で慇懃無礼気味に私に敬礼した。
陛下とテオン様は、静かに帰っていった。