竜信仰
「現在ミリシディアは帝国と同じ敵より攻撃を受け続けており、ミリシディアとしては帝国との同盟を継続したいと思っております」
伯父が戻ってこられたので、私の前で会議となった。私はベッドで寝たままなのに陛下やベフォセットは急遽用意された椅子に座っての、です。すごく申し訳なく思ってしまう。
私の前でわざわざ行うのは、改めて説明するより眼の前で見聞きしたほうが分かりやすいだろう、との伯父、皇帝陛下の配慮です……。誰も逆らえません。
「攻撃を受けている、だと?! そいつは初耳だぞ?」
「言っておりませんでしたから。ただリン様がお目覚めになられたので事情も変わるでしょうし。攻撃と言ってもまだスパイが送られ続けているだけですし」
「同じ敵と?」
「はい。神聖クーテヌス王国です。帝国で暴れている反乱分子を扇動している……」
「それは把握してるが聞いておらんぞ?!」
「言っておりませんでしたから。しかしリン様が目覚め、さすがに鬱陶しくなってきましたし、帝国にも利があることかと思い、提案します。反撃しませんか?」
「したいのは山々だが、あやつら尻尾を出しおらぬ。それに今は反乱分子を抑えるのに必死でな。あやつらを相手にする余裕もそれほどない。あるにはあるが他の国が欲目を出して攻めてこぬとも限らんのでな」
「ならば我輩らが兵を出しましょう。そうなると竜信仰者と敵対することとなりますが」
「確かに神聖クーテヌス王国は今となっては数少ない竜信仰の国だ。宗教国家が何故我らにちょっかいを出してくるのやら、まだ分かっておらんかったな」
「原因は我輩たちです。やつらはどうやってか、我らが魔属であり、パサヒアス様が魔王であると感知しておるようでしてな。必死に証拠をつかもうとこちらにスパイをよこしておるわけです。そしてやつら的にはリン様たちジュシュリも嫌っておるようです。おそらくゴブリンだから、でしょうな」
「ゴブリンは魔族と関係ないであろう?」
「ええ、ですがゴブリンは人間と違って闇側でしたからな。今のクーテヌスの主神は当然光側。我輩ら魔属の侵攻により光と闇は和睦しているはずなのですがね」
「そうなのか? 神話の話はざっとしか把握しておらん。竜信仰とは別の、今の主流である聖王信仰は魔族との戦いがメインなので、その前の話はあまりよく伝わっておらんのよな」
「そうでしょうな。もともと光も闇も聖王の元、世界を管理するため便宜上分けられたもののはずですからな。我輩らから見たら何を身内で争っているのか、というやつですから」
「そりゃ魔族に目をつけられても仕方ないことだわな。で、その途方もない過去の話を竜信仰者は引きずっておるのか?」
「そう見えますね。でなければ非常に近視野的な、邪魔だから過去にかこつけて排除したい、といったところですかな」
「そちらの方があり得そうだ。ワシが知っている限り竜信仰者はそれほど攻撃的ではなかった、と思うのだがな」
「最近竜信仰者たちのトップがすげ変わったはずですから、おそらくそのへんでしょうな」
「ああ、そういえばそういった報告もあったな。確か前大司教はワシの父と友人であったな」
「そういうことでしょうな。前皇帝だった貴方の父上と友人であった竜信仰者のトップである大司教は帝国に対し敵意はなかったのでしょう。しかし今の大司教にそのようなしがらみはない」
「ああ、ワシに竜信仰者の友人はおらぬ。聖職者は皆聖王教であったわ」
「さらに我輩たちの調べによると竜たちもトップがすげ変わっています。颶風竜から大地竜にね」
「む? 颶風から大地? ランクが下がっておらぬか?」
「ええ、ですからの事態かと。颶風と比べたら烈震は攻撃的ですし、烈震ですらない大地なら、ね」
竜は衰えている、とパサヒアス様から聞いたことがあるだけで竜のことはさっぱりだから、何の話をしているのか分からない。けど、なんか竜絡みの人が前皇帝と友達だったからちょっかいを出さなかったけど、その前皇帝が死んじゃったからもう関係ないね、とちょっかいを出し始めたってことかな?
そして竜は魔族が嫌い、と。まあ魔族が好きって人はそんなにいないと思う。
パサヒアス様たちは魔族だけど、そんなこと関係なく私は、仲良くなっただけだしね。私が知り合う前にしたことなんて、それこそ知らないことだし、知ったあともう二度としないと信じているし、一方的に聞いただけだけど因果応報みたいだし、再度やらかす可能性がなく、知り合う前にやったことでその相手を嫌わなければならないってのはなんか理屈に合わない。
その罪を償えってのは分かるけど、それなんであなた達が言うの?ってなるし、やっぱり納得がいくパサヒアス様を私が咎める理由はないと思う。