現状の把握
「ラキーガとの戦闘後、皆がどうなったのか知っておきたいわ」
お茶を飲みながらゴガに頼む。
「はい、ラキーガは消滅。アルゴスを含む巨人もすべて撃ち倒し、その後再出現したとの話は聞いておりません。リルテさんによると肉の巨人もほどなくして皆自然死したらしいです。蟻の蜜がありましたのでなんとかなりましたが、その際はけっこう慌てて食料をミリシディアへ運び込み、増えていた野生の鹿などの狩りが推奨されました。今現在鹿は正常な個体数に戻りつつあり、安定しております。食料も常に帝国から流れておりますし」
「通商が成り立っているのね。良かったわ」
「いえ、残念ながらまだです。ミリシディア側に通商を担当できる人材がおりませんでしたので、代わりにラキウス殿とガギがミリシディアに便宜を図っております。リルテさんと一緒に留学されてきた方々は、近い将来のミリシディアの骨格となっていただく予定ですので、彼らが立ってからになります」
そういやそうか、村の人達は生産だけさせられていた人だし、ミリシディアの人間は全滅してたんだから取引できる者がいないよね。パサヒアス様や魔将が取引に出てくるわけにはいかないだろうし。
「ありがとう。ごちそうさま。テオン様、帝国の方はどうなっておりますか?」
テオン様の役割は皇帝陛下の治癒だから、ほぼ常に陛下の近くにおられるので帝国のことにも詳しいと思う。
「リン様が寝ておられた二年の間に様々なことが起こりましたわ。まずは良いことを。運河が完成し帝国はより潤っております。また有線通信が各街を結ぶようになり、陛下の力が高まっております。リン様のゴーレムが帝国で普及し、様々なところで見かけるようになりました」
おおー、良い感じで発展してくれているようだ。けど、良いことと悪いことを分けているということは、けっこう悪いことも多いのかな。
「悪いこととして、現在帝国は戦争をしております。防衛戦争ですけどね。それのきっかけとなるように上皇陛下がお亡くなりになられております。そのため、上皇陛下派だったものの一部が帝国を内部から攻撃してきたので、やむなく粛清している最中です」
お、おう……、なんかかなり悲惨なことになってる。皇帝陛下がすぐに仕事に戻るわけだ。
さて、まず私がするべきこと、できることは何かしら? まだ情報が情報として頭に入っただけだから、どう動けばいいのか頭が回らない。
「私は、どうすればいいのでしょう?」
テオン様が私の思わず出た弱気を受け取ってくれた。
「今はゆっくりしてちょうだい。リンには突然に感じると思うけど、ジュシュリの皆様や一部の者たちはすでにリンの配下として頑張っておられますから、慌てなくてもいいですよ。逆にゆっくりと現状の把握に努めましょう」
現状の把握、そうね。私には昨日寝て今日起きたという感覚だけど、二年も経っているようだし、いろいろと物事も動いているみたいだし、逆に把握しないと動いてはいけないね。
「あ、リン姫様、ベフォセット様が来られるようです」
そういってゴガが少し離れる。するとゴガの影からタキシードっぽい貴族の正装の男性がぬるっと現れた。
「これはこれはお元気なご様子。リン様、お目覚めおめでとうございます。このベフォセット、ずっと待っておりましたぞ」
「え? 貴方ベフォセットなの? でも確かに影から現れたし」
「ああ、失礼しました。この人間男の見た目は元の悪魔の見た目で皇城をうろつくのは相応しくないだろうとパサヒアス様から言われまして、仮の人間の姿としてこの見た目を使っております。今後ともよろしくお願いします」
一瞬だけ元の姿に戻ったベフォセットが説明してくれた。まあ声は同じだし、影から出てくるのがたくさんいるのもいやだからベフォセットでよかった。
「まずは要件を。今現在の我輩はミリシディアの全権大使となっております。我輩の言葉はパサヒアス様の言葉と考えて良い、とのこと、帝国にお伝え願えますか?」
「はい、ベフォセット様。私テオンが承りました。後ほど陛下を通じて帝国はそう対応させていただきますわ」
「これで固い話はおしまいです。いやぁ、良かった。リン様がお目覚めされて。あの後我輩はパサヒアス様から非常に強い叱責を賜ったのですよ、近くに居ながら何たる失態か、と」
「え? そうなの? ごめんなさい……」
「?! ああ、いやいや、リン様を問い詰めようというわけではなく、誠に叱責の通りだと我輩自身も思いましたし、その辺はリン様がお目覚めしたことで解決しました。パサヒアス様も八つ当たりだったと後にお認めになられましたし。あのようなパサヒアス様が見られただけでも配下魔将としては眼福ものでしたよ、はい」
にこにこしながらベフォセットがいう。山羊頭の悪魔のときもこんなに表情豊かだったかな? 山羊の表情を見分けられなかっただけか?