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墓標

癒やしの魔力がどんどんラキーガに流れていくけど、そのラキーガの体が消えていきつつある。そんな中ラキーガが念話で私が憎い、妬ましいと言われ、悔しがられたあと、静かで理知的に聞こえる声が聞こえた気がした。


『私という存在が消えるというのは怖い。だが、ずっとそれを望んでいた。それほど痛く苦しいものだったのだ。故意でないにしろこんな風に私を作ったパサヒアス、様を恨むことで耐えてきたのだ。そしていずれパサヒアス様を超える力を手に入れ、パサヒアス様の体を乗っ取ればあるいはこの痛みから逃れられるのでは、と考えた。……妄想に過ぎないがな。だがそうでも考えないと未来は恐怖でしかなかったのだ。もしかすると、裏切ることでいずれこの呪わしい不死身の肉体の限度を超えてパサヒアス様が私を殺してくれる、消去してくれる、ということも期待していたのかもしれない』


ラキーガの体は頭とそれとつながる上半身、そして私が握っている鉤爪腕以外ほぼ消えてしまった。このままいけば、次に消えるのは頭かもしれない。そんなラキーガと目があった気がした。いやラキーガの頭は昆虫のそれで目も複眼なので本当はどうだったのか分からないけど。


『痛みがないからか思考がすっきりしている。私にとって痛みは常にあるものであったから、こんなに思いを巡らせることが出来たのはこれが初めてだ。お前はパサヒアス様から寵愛を受け、私を滅ぼしてくれた。これは狙った通りだったのかもしれないし、私がこの国の人間にした因果応報かもしれない。人間は死んだが、その魂の邪悪と言える部分はこの地に残し巨人としたので、次に巡った際にはより良きものになると確信している。私は魔将であるので別の因果の輪に属するから私がどうなるのかは分からないがな』


ラキーガの顔にはもちろん唇とかないのでそんなはずはないのだけど、にこっと笑った気がした。


『お前が私を倒したという事実を得たことで、私が生きた意味はあったのだと思うが、それだけではあまりに悔しい。だから私は私の残った力をお前に託そうと思う。いやだと言っても聞いてやらぬ。私は寄生が得意なのでな』


なんかおかしな方向に話が流れてきた。え? まだ抵抗するの? もう頭も半分ほど消えかかっているのに。


『怪訝な顔をするな。その力に私の意識も方向性もない、ただの純粋な力だ。……お前が私を癒やしてくれて、私は痛みなくいけそうだが、このままではお前の体が持たぬかもしれんのでな。ただのおせっかいだし、私が存在したという証拠、なのかもしれない』


私が魔力を流しながら見ている中でラキーガの頭が消えた。残るは私が握っている鉤爪腕と僅かに残った上半身だけだ。けど、それでもまだラキーガの念話が聞こえる。


『私はラキーガ、パサヒアス様から賜った名前だ。私をおくってくれたお前の名前を知りたい。声として出す必要はない。……そうか、リン。アサナギ リンというのだな。私の力が役立つときもくるだろう。パサヒアス様にお礼を言っておいてくれ。苦しく痛いものだったが、それでも存在しなかったよりはましだったのだと今は思える。では永遠にさらばだ、アサナギ リン……』


ラキーガの声が聞こえなくなったら急速に癒やしが進んだのか、すぐに全て消えてしまった。私が握っていたはずの鉤爪腕も消えて、いつのまにか私は強く握りこぶしを作っているだけになっていた。


レオは私のすぐ前で片膝を跪いて待っていてくれた。私には長く感じたけど、結構一瞬のような出来事だったみたいだ。周りの状況はレオ以外あまり癒やし始めと変わっていない。


「終わったよ」


そう、私は言ったつもりだった。しかし私の体はそれに追いついていないようで、今発音しようとしているところだ。え? なにこれ? よく見たら周りも止まっているようでとてもゆっくり動いているように見える。まるでスローモーションで見ているようだ。見えるだけならまだしも私はやったと思ったのに私の体はようやく言葉を発し始めたばかりだ。


意識だけが高速化してる?! なんでこんなことに。と思ったら急に眠くなってきた。


はっ?! 一瞬寝てた? いや今の私の意識としては一瞬だけど、時間は瞬間とは言えない時間が経っていたようだ。私は終わったよと言って立ち上がろうとしてふらついて倒れようとしているところだった。目覚めることが出来たけど、強烈な眠気がまた襲ってくる。


周りではスローモーに私を心配する行動を取ろうと皆がしているのが把握できた。倒れようとしている私をべフォセットが支えようとしていたし、遠くにはヴァイガンヌとアンテリモウも見えたし、ガギが十号機から降りてこっちに向かってきている様もちらっと見えた。なにより頭上からパサヒアス様が降臨しようとしているのが見えた、気がして、私は意識を失った。

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