決着
癒やしを使うにはラキーガに接触しないといけない。けどラキーガはこちらに注視して遠距離攻撃を繰り返してきている。このままじゃ無理ゲーすぎる。
「リン様、ラキーガに接触できれば良いのですよね? ならば我輩ら魔将が総力でそれを実現させましょう。我輩はリン様の護衛兼移動係を譲る気はありませんが。しばしお待ち下さい」
「わかりました。グゲ、これから隙を見てラキーガにしばらく接触します。守ってください」
十号機に乗るガギやゲゴ、九号機たちには細かく伝える方法がないので、支援要請のあと攻撃停止の発光魔法を使う。
「ヴァイガンヌとアンテリモウも支援してくれるようです」
レオが魔族同士の念話で支援を要請してくれたようだ。魔将四体にグゲに十号機なら、なんとかなるかな?
「私が先陣を切ります。もろともで構いませんので」
ラキーガの攻撃を消しながらレオが突撃し、ラキーガに飛びついた。ラキーガの腕は細いものの鉤爪がついている。ラキーガを押し倒してそのまま地面に押さえつけるレオ。ラキーガはそんなレオに鉤爪を突き刺し抵抗している。
そんな中ヴァイガンヌは容赦なくレオに当たるのも構わず矢を打ち込み、アンテリモウはなにか魔法でレオもろとも抑え込んでいる。
十号機は最初魔法を使おうとしていたけど、魔将たちのまさかの物理抑え込みを見て、キャンセル。歩いてでは遅いからか、魔力消費量を気にしない、地上すれすれにフライで滑り込んで、これまた自分もアンテリモウの魔法に巻き込まれつつ、空いている右主腕で抑え込む。十号機が巻き込まれ、けど主腕で抑えつつ、アンテリモウの魔法の影響を受けずラキーガに触れられる隙間を作ってくれた。
ラキーガはそれでも抵抗し、四本ある鉤爪腕のいくつかでレオを切り裂きつつ、三人?掛かりで抑え込まれているのに、私やアンテリモウたちに闇弾攻撃してくる。大した根性だ。
物陰で隙を伺っているうちに私に向けられていた攻撃が止んだので思い切って飛び出す。飛び出した瞬間べフォセットに掴まれ抱えられたままラキーガに近づく。ほぼ同時にグゲがついてきているのが分かる。見ると私の方に向けられていたと思われる腕が矢で地面に縫い付けられた。
私たちが近づいてきているのを察したのか、レオの体を傷つけていた鉤爪腕を抑え込まれながら、無理にこっちに向けてきた。今までの闇弾と違い、小さく鋭い弾を撃ってきた。狙いは寸分違わず私。魔法なのか技術なのか分からないけど偏差射撃を理解していないので高速で移動している私には当たらない、と思ったら強い誘導がかかっていた。目に見えて曲がってくる。
平行に近く走っていたグゲが二発ほど弾いてくれたけど、残り一発が私目掛けて飛んでくる。その前にベフォセットがいるから当たらないんだけどね。高速移動していたせいか、ベフォセットのフォースフィールドは機能せず、べフォセットの肉が弾けた。しかしそれに一切構わずべフォセットは私を抱えたまま、十号機が作った隙間に入り込んだ。
レオがラキーガが起き上がったり移動できないように抑え込み、その上からレオごと抑え込んでるのが十号機で、ラキーガの周辺では重力魔法かなにかなのか下向きに力がかかっていて、ラキーガは思ったように鉤爪腕も動かせない、はずだったのだけど、私に反応して思いっきり鉤爪腕を動かしてくるので、私と一緒に十号機の影に入ったグゲが自由だった二本の鉤爪腕のうち一本を容赦なく切り落とし、一本だけ押さえつけた。その押さえつけた鉤爪腕はべフォセットが変わって押さえつける役になって、すぐに復活し切り捨てたはずの一本の鉤爪腕を抑える役目をしてくれた。
全ての攻撃手段を抑えたはずなので私もラキーガに近づく。レオが抑えつけている最初の一本の鉤爪腕に触れる。強い拒絶の魔力で思わず腕が弾けるように反発した。ここまで抑えつけられても諦めず、徹底的に私を拒否しているようだ。まあ確かにラキーガにとって私は死神でもあると思うので、分かる。
私はラキーガの体を癒やすつもりだけど、それがラキーガの死に繋がりそうだということは知っている。それは癒やしなのだろうか? 体を治したら死ぬというのは、どう考えればいいのだろう? それは本当に治療行為なのだろうか? 飢えた時に一気にものを食べると死んでしまうことがあるという話と同等みたいなことなのだろうか?
なんにせよ私が何故か持っていた癒やしの力がラキーガが唯一滅ぼせる手段となるのは、偶然なのだろうか? いやどっちにしろ手段があって良かったと考えるべきか。自分の手を汚したくないという思いがないとは言わないし、すでにこの手で何体もの敵を殺したことはあるのでいまさらではあるけど、私が直接敵の首魁にとどめを刺すはめになるとは。私が始めた戦いだし、当然の因果なんだけどさ。
そんな難しい、意味のないことを考えながら、ラキーガの体が癒えるよう、弾かれそうになるのを何とかラキーガの鉤爪腕を掴み続け、魔力を流す。凄まじい勢い、アルゴスを癒やした時を上回る速度で魔力が消費されていく。慌ててパサヒアスの指輪を再び起動する。
あまりに強い魔力出力のせいか、私も体が痛い気がする。痛い思いをして癒やして殺すってなんなんだ?と思いつつも、それしかないので魔力を注ぎ続ける。
ラキーガには痛みはないようだけど、癒やし始めると抵抗を辞めた。ので徐々に抑えつけを解いていった。最初にアンテリモウの魔法が、次に十号機が私を守る必要がなくなったのでラキーガを離し、立ち上がる。最後にレオがそのぼろぼろの体を気にせず、最低限の行動阻害のために馬乗り状態となり、ラキーガを仰向けに寝かせた状態にした。
『痛みが……ない。痛みがないとはこれほど素晴らしいことだったのか……』
ラキーガは神妙に、そんな全方位念話を飛ばしてくる。長い時間、痛みと戦ってきて、その痛みを止める手段がなかったってことだよね。そりゃ逆恨みだって分かっていても誰かを恨みたくなる気持ちは分かってしまう。けど、生かしておくわけにはいかない。
ラキーガの抵抗もなくなったので普通に癒やしていく。私の癒やしの魔力はラキーガの体を癒やすはずなのにどんどん体が消失していく。私の感触としては確かに癒やしているんだけど、傍目には体が末端から透明になって消失していっているのだ。私の癒やしは肉体を正常な状態に戻すもののはずだけど、正常な状態というもの自体が存在しないのかもしれない。
ラキーガはもう一切抵抗せず、消失の運命すら受け入れているかのようにじっと動かない。何度も癒やしという殺しを辞めた方がいいのでは、ラキーガとも分かりあえるのでは? と思ってしまうがラキーガの死がデバイス消失の条件なので分かりあえたとしてもそれでは意味がないことに軽く絶望し、結局癒やしを、魔力を流し込むのを続ける。
『変わったやつだな、お前は。だからパサヒアスに気に入られたのか』
もう下半身が全て見えなくなってしまった状態で、ラキーガが念話で話しかけてきた。
『私はお前が憎い。未来永劫続くはずだった痛みから開放してくれていることには感謝するが、パサヒアスの寵愛を受けているお前が、妬ましい。なぜ私はダメだったのだ。あれほど苦しい思いをしてなおかつパサヒアスが望んだことを行ったのに。半分は人間であるお前を排除できなかったのは悔しい』
感謝されたがそれ以上に憎まれ、妬まれ、悔しがられた。