魔力の通り道
アルゴスは巨体なので私に癒せるかどうかは未知数だけど、それほど医学知識がなくても人は癒せたので、ある程度ならいけるはず。ある程度だけでいいしね。ラキーガが寄生出来ない程度に回復すればいいだけだから。
さっそくアルゴスの体に魔力を流す。巨体なので全身にめぐろうとする魔力を折れている首にだけに集中させるようにする。体に魔力を通してみると、アルゴスの体自体が魔力で出来ているような感じで、元となった人型は基本的な骨格があるだけで内蔵とかは捉えられなかった。まあ捉える必要もないからいいんだけどね。ただ前のアルゴスが脊椎が折れて潰れていったように、ある程度骨格で支えているのは分かっていたので、外から見ても首の骨が折れているように見えたから首の損傷を治すのに魔力を全力で通す。
私の魔力は一気にアルゴスの治療に吸い取られて枯渇寸前にまで行ってしまった。けどまだ治療は折れた骨をくっつけただけで治ってはいない。実際にアルゴスの魔力はほとんどアルゴスの頭部には流れておらず、ラキーガの方に流れてしまっている。私の治療はまだそのラキーガが伸ばしている寄生の根を排除しきれていない。
魔力が枯渇しかけて吸着の魔法すら維持が難しくなったところで、急に楽になった。私が誤って落ちないように肩に手をやってくれていたベフォセットから魔力が送られてきたからだ。
「ありがとうベフォセット」
「魔力枯渇しかけているのに何もおっしゃらないので勝手に魔力を送らせていただきました。リン様が何をなされようとしているのかは分かりましたが、なぜパサヒアス様の指輪を使われないのですか?」
「あ」
正直すっかり忘れていた。パサヒアス様になるべく頼らないように、と頭から可能性を除外してしまっていたようだ。
慌ててパサヒアスの指輪を起動させる。凄まじい勢いで魔力が回復していって、それがすぐにアルゴスの治療で消費されていく。私は通り道になっているだけみたいな感覚だし、聞いていたよりずっと指輪の効果が大きい。アルゴスが魔力の塊みたいなものだからだろうか? そういえばここミリシディアは魔力が薄いという話もあったっけ。アルゴスが魔力を吸収してしまっていたからだったのかもしれない。そんなアルゴスにくっついている状況だから魔力の集まりがすごくいいのかも。なんにせよ助かる。
見る見るうちにアルゴスの首は治療されていき、それと同時に首筋に打ち込まれていたラキーガの寄生根を排除していった。
その頃にはラキーガもさすがに私達の存在に気づいて、攻撃を仕掛けてきていたけど、べフォセットが守ってくれている。それに魔将ヴァイガンヌが下からラキーガ本体を弓で狙ってくれていて、邪魔してくれているのが助かっている。
アルゴスの首が折れて、ぶら下がっているという状態から普通に首を傾げている程度の状態にまで回復できた。内部的には治っていて、寄生根も完全に排除できた。その時点で治療をやめたのとほぼ同時に、再びアルゴスの足元が爆発したようで、アルゴスが両膝を付いて四つん這い状態になった。私はべフォセットにかかえられてアルゴスを離脱した。
ラキーガが目ざとく私達を見つけて攻撃魔法を撃ってきたけど、ベフォセットのおかげで事なきを得た。そんなラキーガももうアルゴスに埋まっていることは出来ずに動き出していて、アルゴスが四つん這いになった衝撃で転がり落ちていっていた。……途中で空を飛び始めていたけど。異形が持っていた羽と同じようなものをラキーガも持っていたようだ。
べフォセットに守られながら発光魔法を使う。総攻撃の合図だ。実際ラキーガの支配から逃れたアルゴスも全方位に目からビームを出していて、わたしたちにも、ラキーガにも、周りにいるものすべてを攻撃し始めているし、私がある程度癒やしてしまったので元気にもなってしまっている。ラキーガの寄生を解除するのに、それしか思いつかなかったからね。
パサヒアスの指輪のおかげで魔力は随分残っているのでフライは私を抱えているベフォセットに任せて、フォースフィールドで守りを固めつつ、隙を見て攻撃もしかける。が私の攻撃魔法はベフォセットやラキーガの水準を大幅に下回っているので、アルゴスは当然としてラキーガにも、生き残っていた異形や蟻にもあまり効き目はない。
ラキーガはキれた感じで私たちばかりを狙ってきている。寄生解除されたのがよほど不都合だったのだろう。それに今は防御特化となっている私たちを狙ってくれているのは好都合だ。魔将ヴァイガンヌが支援射撃をしてくれるし、魔将アンテリモウが魔法でラキーガの攻撃を防ぐ壁を作ってくれたり、眷属のケンタウロスをけしかけたりしてくれるので、自然とそちらの方によっていたし、ラキーガもこちらに注目しすぎていたようだ。
上からの特殊爆槍の直撃をラキーガは受けていた。はっきりと見えたけど特殊爆槍の爆発部分は魔法障壁で受け止めていたけどそれを貫通して槍部分がラキーガを貫いていた。
地面に縫い付けられた感じのラキーガは、異形と同じように脱皮してそれを脱出していた。やっぱりかー。
爆発部分でならラキーガにも有効なダメージを与えられると思うんだけど、そこは魔法で防がれてしまうからなぁ。そのへんが異形とは違うところか。すなわち炎魔法でもラキーガに有効なダメージは与えにくい、ということかもしれない。