取り付き
十号機を操って戦線へ戻った。知らせで聞いたように二体目のアルゴスもグゲとレオによって倒されていた。二人はいったん九号機のところまで戻って、支援部隊と接触しているようだった。ラキーガのところへ行く前にちょっと二人のところへ寄る。
「リン姫様! 俺は少し休んだらあとから行きます。レオは……」
「私も同様です。この戦いはパサヒアス様も見ておられますので」
うへ。気配も魔力も一切感じないけど、パサヒアス様ならどこかから見てるよねぇ。今の所、レオたち魔将は使っているものの一人の死者も出さず私達だけで戦えているから、パサヒアス様への宣言通りには出来ている、はず。
二人の様子を見てから、倒したアルゴスの方向へ飛ぶ。そのすぐ近くまでラキーガに寄生されたアルゴスが下がってきていた。その向こうに魔将ヴァイガンヌが見え、その近くにゴリラの上半身とたぶんライオンっぽい四足の大型のケンタウロスもいた。たぶん彼?が魔将アンテリモウだろう。
ヴァイガンヌが弓でラキーガアルゴスに攻撃し、アンテリモウが魔法でラキーガアルゴスの攻撃を防ぐという体制で戦ってくれている様子。ラキーガに近づくと、全方位のイラつきの念話がまた聞こえてくる。そのつぶやきに私達への警戒はなかったので、まだ気づいていないようだ。
これは好機。
一気に上昇し、それから今度は急降下する。ほとんど落下しているようなもので姿勢制御だけしている。その態勢でまずは手持ちしている特殊爆槍をラキーガの本体へ目掛けて投げつける。投げるとほぼ同時に落下を辞め横滑りするようにラキーガから離れた。
特殊爆槍はラキーガ本体に当たったように見えたけど、なんらかの魔法で防がれてしまったようだ。ラキーガ本体に特殊爆槍が当たったと思えた場所に魔力が集中しているのが見えた。
その時に見えた魔力はラキーガ自体の魔力はそれほど強くなく、先程の集中した魔力はアルゴスから得た魔力を集中させたように見えた。アルゴスは強力なフォースフィールドの魔法を使っているので、アルゴスの魔力の高さも分かる。ラキーガはその魔力を防衛に集中して使えるようだ。ヴァイガンヌの矢もそれで防いでいる様子。
奇襲がうまくいかなかったのは痛い。ラキーガもこちらに振り向いて、警戒しているし、攻めにくくなってしまった。特にさっきアルゴスを倒せた特殊爆槍が無効化されたのは痛すぎる。普通に戦ってもあの巨体に敵うとも思えないし、なんとかしてあの魔力での防御をなんとかするかしないといけない。
そういえばその問題の魔力での防御の魔力は、ほぼ全てアルゴスからの供給に見えた。けどアルゴスは寄生されて首が折れているように見えるけど、蟻に寄生していた異形は別に蟻を殺して乗っ取っていたわけでもなさそうだった。単に首辺りに寄生しているだけのように見えたからね。ということはこのアルゴスも死んではいないはず、けど首は折れているように見える。
ということは、アルゴスに寄生し乗っ取るためにはアルゴスを半死半生にしないといけないのかもしれない、少なくともそう考えても問題はない状況証拠は残っている。
ラキーガだけなら不死身ってところはあるかもだけど、ガギもグゲも炎系の攻撃魔法が使えるし、今のアルゴスに寄生したラキーガよりはよほど太刀打ちできると思う。だから寄生を辞めさせるのが一番対処としては成り立っているはず。
蟻はそのままだったのにアルゴスは死んでもおかしくない状況なのは、そうでないと寄生できないからだ、と思われる。魔力の流れもそれを物語っている。私はラキーガアルゴスの攻撃をかいくぐりながら確信した。
「対策を思いつきました。ゲゴ、九号たちに一度アルゴスの足元に一斉攻撃を、その後しばらく合図があるまで攻撃停止に出来る? ガギ、私はいったんあのアルゴスに取り付きますので、十号機を地上に離脱させてくれますか? フォーリングコントロールは事前にかけておくので」
「は、発光魔法である程度は可能ですが、何をなされるつもりですか?! リン姫様!?」
「わかりました。フォーリングコントロールがあるなら私のフライでも可能です。がリン姫様をどう回収すればいいのですか?」
「回収はあなた達は考えなくていいわ。様子を見て適切に動いて。グゲやレオの力も借りるつもりだから」
私の影を左足かかとでこんこんと叩く。影からベフォセットが頭を覗かせる。今度は股の間ではない。
「ベフォセット! 私の体を抑えて。魔法である程度吸着させるけど、ふり落ちないように。けどアルゴスの真上に行ったら落ちるから、なんとかして? 私自身はフライで制御するから」
「おお、本気で我輩を頼られましたな! 我輩に任せてください。あなたがやろうとしていることを完璧にサポートしてみせましょうぞ」
シートベルトを外しつつ、吸着の魔法を使って、不意に転げ落ちないようにする。
「ありがとう、ベフォセット、ついでにレオにも念話でこっちに来るように言って。その際、様子を見て、しばらくはアルゴスを攻撃しないように、と」
攻撃しないようにいったのでゲゴは副腕に持たせていた二本の特殊爆槍を器用に片手で持ち、副腕を空けた。魔法が使えるようにでしょう。私は無駄な制動がかからないように慎重に機動し、アルゴスの目からのビームを避けてアルゴスに迫る。
「アルゴスの真上に行ったら、私は飛び降りるから、飛行制御はガギに任せるわ。三、二、一、ゼロ! フォーリングコントロール! フライ! またあとで!」
私は座席の横にわざとあけていた箇所から転がり落ちるように飛び降りた。けどフライをかけているので重力のまま落ちることはなく、すぐに自由に空を飛んだ。べフォセットは私の正面に付かず離れずでついてきている。なんでわざわざ私の視界を遮るんだ、と思ったけど、その直後、ラキーガから何らかの攻撃を受けた。それをべフォセットはその身でもって防いでくれたのだ。
「ベフォセット! 大丈夫?」
「大丈夫です、まだラキーガはリン様に気づいていない。先程のは自動反応攻撃ですから。我輩が囮になりますからすばやく離脱して目的を果たしてください」
そういうとベフォセットが分裂したかのように五体に増えて、三体がラキーガの方へ、二体がそれぞれ逆に回り込むように動いたので、そのうちの回り込むやつの影に隠れながらアルゴスに取り付いた。
別れた瞬間、凄まじい音がして、空気自体が揺れた。お願いした通り、アルゴスの足元で大量のゴブリングレネードが爆発したのだと思う。……狙い通り、ラキーガの意識は私達から逸れてくれたようだ。逸れたのが一瞬であってもありがたい。
その隙をついてアルゴスの折れた首の裏側に取りつくことができた。正直足場は不安定なところで真下にある目の瞼になんとか引っかかってるって感じだけど、ここならラキーガが取り付いている場所からも、アルゴスのたくさんある目のどれからも死角になっているので。念の為吸着で落ちないようにしてから、一度ため息を付いて落ち着く。ベフォセットもこちらと一緒に行動したのが本体だったのか、本体にしたのか分からないけど、万一の際に私をかばえる位置に器用に取り付いていた。
よし、ここでアルゴスを癒やす!




