挟撃
いつまでこの光は続くんだ、と思ったら不意に光が消え、大地と空気の鳴動も止んだ。
べフォセットが自慢気に話し始めた。
「サンライトは大魔法ゆえ、便利な機能が付いておりまして。打ち倒したものの吸収機能も備えておりましてな。若干ですが使用した魔力が戻ってくるのですよ。ただそのおかげで大地も少し吸収することになるので、聖王や竜王どもに感知されずに使うのは不可能なのですが、この世界であれば問題ないでしょう」
なんかとくとくと語っているけど、真面目に聞く必要はなさそうだ。
光が消えたあとを見ると、壁も半分近く消え去り、その内にいた巨人共は一体残らず、死体すら残らず消えていた。ただ、光の柱が落ちたあとにはクレーターのように若干削れた円形の荒野が出現したのみだ。クレーターと違うのは中心部も深くはなっておらず、薄い円柱形に大地が削られているということだけだ。だから縁の段差さえ気をつければ平べったい土地となった。
その円柱の大地の中に最初に入ったのは生き残ったイオデンの集団だった。数体程度だけど生き残ってしまったようだ。ガグは大半が生き残り、グレンデルは逆に大半が飲み込まれてしまったようだ。残念ながらアルゴスたちは無傷のようだ。フローティングアイは全滅したようだけど、あれはいくらでも出てくるしね。
「発光魔法! 突撃だ! 畳みかけろ!」
ガギが最初に気を取り戻して、命令を発する。その命令を受けて周りの皆も気づき始める。敵が激減したのでこのまま突っ込んで殲滅しなければ逃げてしまうかもしれない。逃げられるといろいろとやっかいだ。特にラキーガを逃したら、ミリシディアに点在しているはずのデバイスを全て破壊してまわるという、うんざりするような作業が残ってしまう。
壁を壊すのはさそり型の得意だからすぐに前進できる。グゲやレオにとって壁などないも同然である。なので一気に敵巨人の生き残りに襲いかかり、先行していたグレンデルはグゲとレオに打ち倒されていっている。ただガグの遠距離攻撃にはさそり型が苦慮した。うかつに近づけないため、丘にいた九号も本陣ごと前進した。もう射程外だし逃がす可能性があるから地の利を捨てても前進するしかない。
本陣ごと前進している間に、私やゴガ、ベフォセットに念話が入った。おそらく全方位に発したんだと思うけど、受け取れるのがこの三人だけだっただけだね。あ、もちろんレオにも入ってると思うけど今は前線にいるし。
「私はアンテリモウ、パサヒアス様配下の魔将だ。これより魔将ヴァイガンヌと共に忘恩の徒、ラキーガに攻撃を仕掛ける。汝らの位置の逆側、南から攻める。我らと我が眷属ケンタウロスは味方故、認識を頼む」
これは想像外の出来事だ。確かアンテリモウはラキーガに騙されて協力していたという魔将だったっけ? 元々パサヒアス様側だったヴァイガンヌと組んでいるというし、これは信じても良さそうだ。逃げ道を塞ぐ形で参戦してくれたから、おそらくパサヒアス様の差し金だと思うけど、ありがたいことに違いはない。
それにアンテリモウの実力は知らないけど、ヴァイガンヌは、グゲやレオ級に強いことも分かっているし、これでラキーガを取り逃がす可能性は低くなったと思う。
「伝令、前線の皆に伝えよ。魔将アンテリモウ、魔将ヴァイガンヌ、及びケンタウロスは味方である、と」
ゴガが伝令に命令する。付近に控えていた伝令ゴブリンが複数、前線に走っていく。本陣や付近のゴブリンにはメジャーワーカーが大声で伝える。アンテリモウの言葉を聞けていないガギとかはびっくりしてたけど。
何度か戦ったことがあるケンタウロスが味方になるとはねぇ。聞いていたけど。前線のゴブリンたちが混乱しなければいいけど。
前線はガグが九号の射程に入ったことで一気にこちらに傾いた。ガグの援護射撃なしではグレンデルもグゲとレオには太刀打ちできないみたいだし、勇敢なさそり型がイオデンを単独で撃破したり、グレンデルを拘束したりしていたし。
……健闘してくれているのは助かるんだけど、あまり無茶はしないでほしい。
一番恐れていたアルゴスはほとんど動かず、たまにフローティングアイを飛ばしてくるだけで後ろを向いていたし。後ろには異形しかいないとか報告されていたし、ケンタウロスの攻撃に耐えれていないんだろう。
またとない好機すぎる。ここまでグゲを温存していた甲斐があったというものだ。
「今こそ私とガギ、ゲゴが出撃するべきだと思うんだけど、どうかな? ここはゴガに、後方補給は今まで通りギグでいけると思う」
【技工】のギグには今までゴブリングレネードの管理をしてもらっていた。緒戦で使ったゴブリングレネードの弾倉を回収して詰め直して再度配給したり、故障した武器の交換や機体の回収などの重要な役割をしてもらっていた。非常に地味な役割だけど、これが文句なくできそうなのがギグしかいなかった。ゼルンも片腕として走り回っていたし、押せ押せの今、任せたい。
「わ、私が全体指揮を取るんですか?」
ゴガはためらいがちだ。ゴガは人をまとめる才能はあるものの、軍事関係の知識には疎い。なので入れ替わりで二号機に乗っているクットゥーとセノンには本陣に戻ってきてもらい、ゴガの副官を任せようと思う。頑張ってくれてはいたけど、そろそろ魔力もきついだろうし、クットゥーは戦力として、セノンはガギと同じ系統の知識や指揮能力があるはずだから。
その二号機の代わりを私達でやろうと思う。それに私達ならフォースフィールドである程度守れるのでグゲやレオの支援もできる。
「十号機の準備はできてますぜ」
ギグが得意げに十号機を運んできた。両肩のバリスタは外されていたものの、代わりに二号機と似たゴンドラがついており、ゴブリン用座席の角度が変えられていて前も見えるようになっていた。
「ギグ、ありがとう。突貫だったでしょうに」
「ははっ。俺はどうせ後方だと分かっていましたからね。体調さえ崩さなければ大丈夫だとちゃんと調整しておりますので」
「私もちゃんと立ち会って確認しておりますので大丈夫です! 機体も、ギグも!」
ゼルンもいて、そう言い添えてくれる。ギグはゼルンの父親なので、大丈夫でしょう。
「危険は避けたいですが、これが最良の行動のように思えてきました。私もついていくことになっているのも大きい」
ガギは抵抗を諦めてくれたようだ。
「うちも突撃してええか?」
私達が出撃することを受けてか、サキラパさんも我慢できなくなってきたみたいだ。本陣護衛として待機してくれていたので。
「ええ、もちろん。私はサキラパさんを指揮下には置いていませんので。ただくれぐれも気をつけてくださいよ」
「殺ってるんやから絶対に殺られん、という保証はできんな。けどせっかく助けられたんやから無駄にはせんように気をつけるよ」
「できたらさそり型たちの援護をお願いします」
「分かった。ゴブリンたちを何人か借りていいか?」
ガギをちらっと見る。肯定してくれているみたいだ、ガギが認めるなら私に異存はないし、ゴガもないでしょう。
「ならばわしたちがご同行しましょう」
名乗り出たのは、ランク老にクザナ、蛇亀の二人に、街の中でも付いてきてくれたレンジャーゴブリンたちだった。彼らなら歴戦なので大丈夫だと思う。レクスも控えめにワンと吠える。
「ええ、あなた方なら文句はないわ。ただくれぐれも命を捨てるような戦い方だけはしないでね」
「分かっておりますよ。やりたいことがどんどん増えていくので死んでいる暇などありゃしませんよ」
クザナがいい笑顔でランク老や残りの蛇亀たちとともに笑いながら答えた。
この調子なら前みたいな死にたがりなことはもうしないでしょう。今までの経験を存分に奮ってほしい。