サンライト
「ラキーガはおそらく奥に陣取るアルゴス三体目に寄生しております」
は? アルゴスが三体?! 二号機でゴブリングレネード相当量をぶつけても倒せなかったあいつが二体どころか三体もいるの? しかも魔将が寄生している?! 寄生蟻はかなり能力が上がっていたように見えたけど。
ガギは指揮しながらなので、おそらく集中して考えられないだろうし、ゴガに戦術の話は荷が重いはず。私がなんとか方針だけでも考えないと。と思うけど、途方もなさすぎて考えられない。けど事態は今も動いている。急いでなにか指示しないと。もうラキーガの脅威を考えるのはあとにしよう、ラキーガにたどり着く方法が必要になったのだから。
「ラキーガのことはいったんおいておきます。他の配置とかはどうなっていましたか?」
「アルゴスがいる後方には異形と蟻ぐらいしか配置しておらず、ほぼ全ての巨人は前線にあげていると思われます。また中間に予備戦力か親衛か分かりませんがグレンデルとガグ、イオデンの集団が待機しておりました。おそらくすぐにでもこいつらが前線に出てくるものと思われます」
戦力の集中も理解しているようだ、ラキーガは。ということは今のサイクロプスもプエルミュアレも捨て駒か。となるとゴブリングレネードも魔力もなるべく控えたほうがいいのか。
「【戦技】のグゲと【魔術】のゲゴに頼ることになりますが、戦線を押し上げることは可能ですか?」
「これ以上進むと地の利を全て失います。また現在ですらやや押しの拮抗ですので、押すには何らかの手が必要になります」
「では、こういうのはどうでしょう? 私とグゲが十号機で近づき、グゲに魔法で薙ぎ払ってもらうのは?」
「今はフローティングアイが飛び回っておりますし、ガグが全面に出てきましたら危険かもしれませんのでお勧めはしません」
そっかー、二号機も危なかったらしいしなぁ。ガグの遠距離攻撃はけっこう飛距離があるらしい。少なくともサイプロプスの投石よりは長射程のようだ。
グゲやレオはアルゴスに当てたいから、これ以上の酷使はしたくないしなぁ。あ、ベフォセットのこと素で忘れてた。
ベフォセットには確か一瞬で近づく魔法なのか特技なのかあったし、それでなら魔法の射程の問題も解決できるのでは?
「ベフォセットを当てるのはどうでしょう? なんか街の広場でもすごい魔法使っていましたし」
「リン姫様がよろしければ、それが最善かと思われます」
私がよければ? ああ、私達が巨人を殲滅するというやつか。そういう話をパサヒアス様ともしたけど、こんな状況となっては魔将の力を十分に使い切るほうが評価してくれるかもしれない。というかそれは私がそう思いたいだけだな。この戦いでゴブリンたちを死なせたくないだけだ。ベフォセットとかは殺しても死ななそうだし、冗談抜きでさ。
「私のメンツとか、かまっている余裕は今はありませんね。ではベフォセットを呼び出します」
なんかルオンが笑った気がする。普段は無表情と言うかカメレオンみたいな顔からは表情が読み取れないんだけど。気にしないでおこう。
「また吾輩が最後ですか……」
うなだれてしゃがんでいる格好でベフォセットが召喚された。
またこの子はそんな拗ね方をして。
「あ、あれだよベフォセット。ベフォセットは秘密兵器で、今がそれの使い所だったからさ」
そう言うと、すぐに機嫌が良くなってくれたようだ。まあ嘘は言っていないし、いいか。
「ふむ、今はこの状況なのですな。理解しました。最適な魔法があります。見事今見える雑魚どもは薙ぎ払ってみせましょう。ただそのためには、グゲ殿やレオ、さそり型が邪魔です。急いで下げてもらい、穴を塞いでください。やつらが破る頃には発動できるでしょう」
「何をするの?」
「前にご覧になってもらった魔法の最大版ですよ。うまく行けば後ろにいるというやつらも巻き込めるかと」
「魔法部隊はある程度回復していますね? よろしい。発光魔法を前に放ちなさい。退却、全力、です」
ゴガがしばらくハイゴブリンの魔法使いと話をし、統率する。
べフォセットはすでに魔法の詠唱に入っている。移動はしていない。ここから届く魔法なのか。詠唱中、べフォセットから合図があり、それに合わせて発光魔法が放たれ、即座にグゲやさそり型が後退する。それに合わせて少し前に出ていた魔法使いたちが先程同様に一斉にストーンウォールを突き立てる。今度は巨人たち全員を取り囲むように。撤退速度が遅いさそり型の前には念の為、特に多めに何重かにしてもらった。
巨人たちは一瞬動揺し、動きを止めたけど、すぐに壁の破壊を始めた。フローティングアイも追撃をかけようと生き残っていたやつが急旋回して巨人たちの真上を飛ぶ。
そして撤退に釣られたのか、たまたまタイミングが合ったのか、フローティングアイを飛ばしていたアルゴス二体も前にやってきた。一緒に控えていたグレンデルやガグ、イオデンも一緒に。最大の好機だ。
「ベフォセット先生、やっちゃってください!」
思わず言ってしまう。
ベフォセットは一瞬目を丸くしたけど、そのまま詠唱を終えたようだ。
「デーモンフォール:サンライト」
サイクロプスやプエルミュアレが群れている前衛と近づいてこようとしているアスゴスたちの間に一筋の強い光が射した。
え? これだけ? スターライトと同じじゃん、と思ったら、その光の筋がいくつも降り注いで、当たったものを消滅させていった。
でもスターライトはそれから爆発したよね。と今度は思ったら、次に広範囲に、サイクロプスやプエルミュアレは完全に巻き込まれ、あやうくさそり型も巻き込まれそうな範囲、奥は若干アルゴスを巻き込んだか微妙なところまで、その巨大な範囲の光の柱が落ちてきた、という感じだった。空中にいたフローテイングアイなどは光に押しつぶされたようにも見えた。
スターライトとは比較にならない強い光でまともに見ていられなくなった。そして爆発でないせいかスターライトみたいな衝撃波はこなかった。ただ地面と空気が震えている音と振動だけが伝わってきた。