中盤
倒しても倒しても起き上がって向かってくる異形に手こずっていると、私達の後方後ろから炎の魔法が放たれた。
たぶん中級のファイアボールだ。
その火の玉は異形に命中し、周辺の異形も巻き込んで爆発炎上した。若干離れていて巻き込まれていなかった異形にもう一発ファイアボールが飛んできて異形は全て燃え尽きた。
だれ? 思わず振り返る。と空を飛んでいるゴーレムから放たれたようだ。あの見た目は二号機、ということはクットゥー?
「リン姫様ー大丈夫ですかー?」
バリスタ二門を担いだ二号機が私達の上を通過していく。二号機は背中に二つのゴンドラを背負っており、その内一つからクットゥーが手をふっているのが見えた。
「お気をつけくださいー、最左翼にフローディングアイが迫ってきておりますー」
ゆっくりと飛んでいるのに声が伸びて聞こえる。言われてはっと空を見ると確かにアルゴスから放たれるフローティングアイが五体ほど見えた。
「我々はフローティングアイの迎撃に向かいますーではまたー」
私が使った時と同様二人で運用しているようだ。もう一人は……次期ガギのセノンだった。彼がフライで操っているのかな? クットゥーの方が魔力は上だと思うしさっきのファイアーボールも結構な威力があったし。
「気をつけてー、動きを止めてはいけませんよー」
念の為の対フローティングアイの戦い方を伝える。たぶんゲゴがすでに伝えていると思うけど、万一の場合、致命傷になるから。
彼らはたぶんギグの隠し玉だろう。いつの間にあんなゴンドラを用意して搭乗型にしたんだ。前に十号機に乗りたい、と言ったのを受けてかもしれない。
ともかく助かった。最左翼にフローティングアイが出現したから対応策として最左翼に来てみたら下で苦戦してたから援護してくれた、ということだろう。もしかしたら誰かがガギあたりに報告してくれたのかもしれないけど。
蟻や寄生異形や巨人に苦労しているところにフローティングアイを持ってきたというのは、明らかに戦術が伴っている。
やっぱりラキーガがどこかで指揮しているはずだ。ルオンの報告はまだなのだろうか? ゴガを配置したからなにかあったら伝令がこっちにくるはずだし、今は巨人の数を減らすべきだろう。フローティングアイにも気をやりながら遅れていた最左翼の巨人減らしを手伝う。
最左翼の巨人にはサイクロプスとプレムミュアエが主でイオデンはほとんどいない。というか全体を見てもイオデンが少ない。もしかすると帝国の砦を攻めていた巨人たちも選抜された巨人だったのかもしれない。砦を攻めた比率と今の巨人たちの割合があってないから。まあイオデンは結構強いので少ないのは助かる。
しかしブレムミュアエは気持ち悪い。頭がなくて胸に目や鼻、腹あたりに口が見えるんだけど、その見た目も気持ち悪いのは確かだけど、動きが気持ち悪いのだ。
いや人型として普通の動きをしてるけど、こちらの攻撃を恐ろしく思っているように見えない。
サイクロプスですらボルトを避けようとしたり弱点である一つ目を守ろうとしたりするんだけど、そういう動きがブレムミュアエには一切見えないのだ。
歩いてくる案山子みたいなものだ。まあサイクロプスも走れないのか歩いてくるので歩いてくるはいいんだけど。
生き物の本能というか当然の反応すらないので、私の前世で見たゾンビ映画を思い出すのだ。
先程の異形もそうだったんだけど、やつらは本当に不死身というか今の所火でしか倒せていないので、ゾンビみたいでも分かるんだけど、ブレムミュアエは普通にボルトで倒せているし、倒される時胸のパーツが何一つ動きがないのが気持ち悪く感じる原因かもしれない。
物理的に表情を変えるってことが出来ないのかもしれないけど、大きくて目立つそこに変化がないのが、本当に気持ち悪い。
まったく回避行動もしないし、まるで自分の命もどうでもいいように思っているように見えて仕方がない。……元が人間であると知らなければこんな感想は持たないのかもしれないけどさ。
こちらの前進はすでに止めていて丘の裾野あたりで待ち受けている。若干の高さ補正を得られて、巨人どもに坂を登らせることができる位置だ。
前衛としてさそり型が突出して待ち受けているんだけど、全てをカバーするには数が足りていない。なので魔法で壁を作ることになった。
比較的簡単な魔法らしいのでハイゴブリンはもちろんゴブリンでも使える者がいるほどだ。
そんな彼らが戦場にストーンウォール、石の壁を何枚も生み出した。そんなに薄いものでもないんだけど、巨人が相手ではすぐに破壊されてしまいそうなので、そのストーンウォールを積層状態で生み出したのだ。特に強度が増すってほどでもないけど、壊しても壊しても次があるという感じで。その積層して分厚くなった石の壁を二箇所に設置した。真ん中に隙間が空いている壁みたいなものだ。
もちろん巨人たちは壁を壊そうとしてきたけど距離が近くなって打ち込みやすくなったジャベリンを壁を壊そうとしている巨人に向けて放ち、なるべく壁を長持ちさせつつ、意図的に空けた隙間に巨人が集中して通ろうとしているところにはグゲが配置され、どんどん巨人を打ち倒していった。壁の左右にも殺到するのでなんとかさそり型で抑えつつ、左右に射撃を集中させた。隙間を守るグゲにはほとんど援護射撃もいらないほどだ。
念の為レオを召喚して、グゲの後ろに控えてもらった。
巨人たちは進行を食い止められ、どんどん数を減らしているから、焦ったのかグゲのいる隙間にガグとグレンデルが出現した。またアルゴスが二体、もっと前に出てきた。
フローティングアイもどんどん飛んでくるようになったけど、遊撃である二号機がかなり撃ち落としてくれているし、ゴブリンの重クロスボウでも一発で撃ち落とせることが分かったので、基本的にゴブリンたちに任せることになったから、巨人に対する打撃力はそう減じなかった。
グレンデルはさすがに強かったようで、少し時間がかかってしまったのでその隙に数体ブレムミュアエが漏れ出てきたけど、フローティングアイ担当だったはずのゴブリンに狙撃されて倒されていた。
フローティングアイは常にいるわけじゃないからね。まだ生き残っていた蟻も壁を登って壁の上を歩いてくるけど、ジャベリンやゴブリンの狙撃の格好の的になっていた。
あまり攻撃がかぶらないよう、おおまかにガギが指令を発しているけど、それを受けて観測ゴブリンが攻撃を振り分けていっている。移住初期から観測ゴブリンを育てておいてよかった。もし彼らがいなければ攻撃がかぶりまくっていたと思う。
特にブレムミュアエとかこちらに無駄弾を撃たせるためだけの案山子みたいに見えるからね。敵とはいえ同情してしまうほどだ。
グレンデルには若干手間取ったけどガグには時間はかからなかった。口から何かを飛ばしてくる射撃型だったみたいだけど、初見でもグゲには当たらないし、四本の腕もグゲを捉えることはできなかったようだ。
敵の強い巨人をグゲに当ててくれたことはラッキーだった。もし左右に割り振られていたらさそり型ではグレンデルは抑えきれなかったかもしれないし、ガグにはなすすべなくやられてしまっていたと思う。
強い敵に自分の強いものを当てるのはそれほど間違った判断ではないけど、グゲはバランスブレイカーだからなぁ。
作戦がうまくいってかなりの数の巨人を打ち倒し、勝利が見えてきた時に、伝令がきたので中央の本陣に戻った。
「おかえりなさいませ。伝令に内容を伝えるだけでも良かったのかもしれませんが、相談しておくたく思いましたので戻っていただきました」
ゴガが出迎えてくれた。ガギは指令中だったけど、その相談にも参加するようだ。
「ルオン殿、もう一度報告していただけますか?」
ゴガはルオンがどこにいるのか分からないせいか視線を彷徨わせながらルオンに頼んだ。するとスゥっと、私とゴガ、ガギと等距離の地点に出現した。
「遅くなりました。ラキーガはおそらく奥に陣取るアルゴス三体目に寄生しております」