決戦直前
巨人たちが群れている地域の近く、丘の頂上付近に陣取って夜を明かした。丘の頂上にはもちろん観測ゴブリンを配置して巨人たちに動きがないか見張ってもらっていた。
決戦の日、普段より皆早起きして準備している。私とガギは丘の頂上に登っている。そこで夜通し観測していたゴブリンの報告を聞く。
それによるとやつらは明らかにこちらに気づいているものの、大きな動きはなく、若干の配置換えはあったものの、静かなものだったらしい。あと現在のところ、アルゴスは二体見かけたそうだ。あれが二体もいるのか。
自分でも見てみる。私はそこまで目が良いわけでもなく、まだ薄暗いのでよく見えないけど、結構な数がいる。それに蟻も見える。魔将ラキーガ配下の蟻はここに集めていたのだろう。
「ヘカトンケイルも複数いますね。これは真っ先に討ち取るべきでしょう。それに見たことのない巨人も複数いますね」
「どこです?」
ガギが指差した方向をよく見る。確かになんか変なのがいる。大きな牙の生えた口が顔に縦についていて、腕が四本生えているように見える巨人だ。しかもかなり大きい。グレンデルより大きい七メートルぐらいだろうか。
前世でこのような怪物を何かモンスターの図鑑みたいな本で見たことがある気がする、なんて名前だっけ? ああ、そうだ。
「あれですね、ではあれはガグと名付けます」
「ガグ、ですか? 神官みたいな名前ですね。いえ、異存はありません」
なんだかガギが苦笑していた気がする。申し訳ないけど前世での知識によるものだからねぇ。ガグにもなんらかの罪があるのだろうけど、なんなんだろうか?
それと他にあと、前衛として並んでいるサイクロプスの後ろとかにも変なのがいるね。数も結構多い。
頭がない巨人である。顔のパーツは胸や腹についているようだ。それ以外は特徴が見えない三メートルほどの巨人である。頭がない分サイクロプスよりは体格が良い。
「あの小さめの見たことなかったものはブレムミュアエとします」
これもガグと同じような命名だ。こんなのが図鑑にいた気がする。名前が特徴的で覚えていたのだ。
「了解しました。今度は凝った名前なのですね。リン姫様はよく不思議な発想をされる」
ブレムミュアエの罪はなんなんだろう? 頭がないから、何も考えなかった罪、とかかな。でも胸に顔がある理由が分からない。理由なんてないのかもしれないけど。
あと聞いていた通りアルゴスが少なくとも二体はいることが確認できた。陣形の後ろにいたからすぐには戦わないだろうけど、あの飛んでくる目で支援攻撃されたらやっかいそうだ。
敵の陣形? そう、陣形を作っているように見えたのだ。それは私達を迎え撃つもののそれだった。今までの巨人とは違う気がする。魔将ラキーガがいるからかもしれない。蟻もいるし、気をつけないと。
ただ彼らが陣取った場所は悪すぎる。まるでクロスボウの存在を知らないみたいだ。
だいたい見たので自分たちの陣へ戻る。彼らは待ち受けているつもりなんだろうけど、こちらが圧倒的に有利な場所に陣取れたのはいい感じだ。丘の頂上から比較的前に陣取っているヘカトンケイルたちにゴブリングレネードの雨を降らせることができそうだからだ。いますぐ突撃されたら別だけどね。
たぶん彼らは近づいてきた私達に先制攻撃として魔法を放つために前にきているんだと思う。けどその魔法よりはるかに長射程の武器がこちらにはあるからね。しかも高い位置だからさらに射程が伸びる。
戦術では私達の優勢が取れたようだ。あとは戦闘だ。こればかりはやってみないと分からない。
私達が直接偵察している間に、準備が整ったようだ。
今は敵の近くなのであんまり大声をあげるといろいろと不都合が起きるかもしれないので、ゴーレム術者だけを集めて彼らに今後の作戦と方針を伝え、彼らから護衛たちに伝えるようにした。
「とにかく死なないように。やばいと思ったらすぐに下がってください。ゴーレムは作ればまた代わりが用意できますが、あなた達の代わりはいません。今は数が必要なのです。それは皆ももう分かっていますよね」
ひとつ演説でもぶとうかと思ったけど、てきとーな言葉しか出なかった。やっぱり私にはリーダーのスキルがないようだ。少なくとも今はない。諦めて普通に話した。
「では、皆さんの健闘を期待します。ジュシュリのよりよい未来のために。レニウムのクレイシュで子どもたちも待っています」
ジュシュリのゴブリンは個々の家族という概念も持っているけど、小さな子供はクレイシュでまとめて育てるため、どの子も皆自分の子どもみたいなものらしい。ゴブリンであっても子どもは私から見てもかわいいものだ。彼らを悲しませてはいけないし、よりよい環境を与えたい。と思うのは親として普通のことだと思う。私は親になったことないけど、私の前世の親は少なくともそんな感じだった。
「戦闘を開始する」
私が指示してガギが決戦の開始を告げた。