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弔い

街を占拠した次の日、先日中に作ってもらった石灰回収用の道具と石灰を運ぶための荷車と主にメジャーワーカーを引き連れて、マッピングしてもらった石灰塚を周ることにした。


ジュシュリにいた頃は車というか車輪の概念はあったものの殆ど使っていなかったみたいだけど、レニウムで暮らすうちにゴブリンたちも完璧に車輪を理解し、使いこなしていた。


待機のものは休憩や街の改造、防御力を上げたり、自分たちが活動しやすくなるものをしてもらっている。街の中は比較的安全で役割もあまりないのでゴガを護衛役として連れて行く。ガギが一番適切ではあるのだけど、彼は街の改造の方がより適切だろうとの判断だ。


街の移動は私だけ石からゴーレムを作ってしてそれに乗って移動した。いざというとき義足が使えないと困るからね。

マッピングした偵察ゴブリンの案内で一番近くの石灰塚についた。よりにもよって一番近いのは子供を庇う親の石灰塚だった。


「リン姫様、何をされておられるのですか?」

石灰塚の前で思わず手を合わせつつ頭を下げて黙祷していたので。こちらの世界に手を合わせることや頭を下げることに祈りの意味があるのかどうかは私にも分からないけど、黙祷はあるはずだ。しかしハイを含むゴブリンには祈りという概念すらない可能性がある。ああ、なんらかに幸運を祈るとかはあるだろうけど、いわゆる仏さんに祈る、ってことね。神はいて、だから神官はいるけど、彼らも神に祈っている、という様子は見たことがないからね。


「ああ、ええと、私の個人的な行動なので気にしないで。そうね、未来がよりよくなりますように、って考えてたの」

祈りの概念がないかもしれない相手に祈りを説明するのは難しいので、嘘はいっていない程度のことでごまかした。ここで一説ぶっても仕方ないしね。


「あと出来たら今後の作業も私のこれが終わってからにしてちょうだい。お願いするわ」

ゴガはよくわかっていないようで、少しぽかんとした表情をしたけど、すぐにキリッとなって、了解の返事をくれた。


その後も少し合掌して、作業にかかってもらった。

なるべく丸ごと石灰塚を取り上げ、そのまま荷車に乗せてもらった。ここの石灰塚は形が結構残っていたので胸が痛む。けどそのままにしておくわけにもいかないので、悪いと思いつつ、指示する。取り上げたときや荷車に載せたときに衝撃で細かいところがぽろぽろと落ちるのも辛いので目をつぶってしまった。ゴブリンたちにはこぼれ落ちた分も全て荷車に載せるように指示している。


ゴガやついてきたゴブリンたちは私の様子がおかしいので心配してくれているみたいだけど、大丈夫だとは伝えてある。


そんなつらい作業が何回もあったけど、これはここの街を使わせてもらうための私なりのけじめでもあると思っているので、私は全て見届けないといけないと考えている。もちろんそんな義務はないことも分かっているけど。

道中に見つけた石灰塚はおそらく私が回収している余裕はないだろうから、誰かに任せないといけない。人間が入ってこれるようになったら信頼のできる人物に任せようと今は考えている。もちろん余裕があれば私が指揮した方がいいとは思っている。


そんな感じで形が残っている石灰塚も残っていない石灰塚も全て回収して一箇所に保存することにした。この世界の常識として土葬や畑に石灰をまくというものがあるのかどうか分からないので、一度帝国領土に戻ったあとにそういうのがあるなら、畑となる場所に蒔こうと思う。もともとは人なんだろうけど、成分としては完全に石灰のそれみたいだし、土に帰るのもいいと思うから。ただこれは私のセンチメンタルだから他のものに示すためには役立てないといけないのでよりよい土地にするものとして使わせてもらうと考える。これが私のぎりぎりの倫理だ。


ただ石灰を畑にまくのがいいというのも、私が前世で聞きかじった程度の話だし、この現世でも正しいとは限らないので、人に聞いたほうが良いとは思う。ガギが知っていたらいいんだけどゴブリンはあまり畑に熱心ではなかったし、いざとなったら帝国から農学者(いるならだけど!)を招いたほうがいいかもしれない。


心身ともに疲れる作業だったけど、なんとか正午ぐらいまでに終わらせることが出来た。最後の方はたぶんわけもわからずだろうけど、作業の前の祈りにゴガもメジャーワーカーやゴブリンたちも付き合ってくれるようになった。ゴブリンたちに祈りはないのかもしれないけど、一緒にしてくれる様は私の心の負担を軽減してくれた。ので私はゴブリンたちの分も含めて祈らせてもらった。


私が石灰塚の作業をしているうちにゴガは私についてきてくれていたので、ゴガ以外の神官たちは、それぞれの職能を生かしたことをしてくれていた。まあガギだけは職能ではなくまとめ役としての役割だけどね。そのおかげでこの街で私達が駐在する準備がととのいつつあった。


「リン姫様。この街にも既存の建物を再利用した倉庫をいくつか準備中ですが、崩れた建物のところに、途中の拠点での氷室や乾燥室が設置できればありがたいのですが、どうでしょうか?」

ガギが提案してきた。


確かに街なのでそういうのがあれば途中の拠点、補給基地のそれよりずっと役立つとは思う。私達がいなくなっても街で利用できたら、かなりすごいしね。けど……。

「私、それと引き換えにできる価値あるものなんか持ってないから、難しそう」


補給基地ではベフォセットを召喚していたのはパサヒアス様で、彼は自城に財宝を抱えていたので価値のあるものを簡単に用意できたみたいだけど、私が持っている金銭的に価値ありそうなものと言えば、義足と額飾り、翻訳の装身具と石ぐらいで、そのどれもが手放すことは出来ないものだ。


「私が宝石を持っておりますのでそれをお使いくだされば」

確かに地位の高いゴブリンたちが付けていた仮面には宝石がついていることがあったからジュシュリでも宝石を生産できたのは知っていたけど、持ち歩いていたのか。なぜかは分からないけどありがたい。もちろんあったほうがいいと思うからね。


もう魔将は三人とも返しているので、ベフォセットだけ呼び出す。

「お呼びですか? 我がリン姫様」

なんだかとても上機嫌な様子でベフォセットが出てきた。


「あなたの姫になった覚えはないけど、悪い気はしないね。ところでここに前に作ってもらった氷室や乾燥室を作って欲しいのだけれど」

また演技じみた礼を私にしながらベフォセットが答えた。

「パサヒアス様の大事なご友人であり、私どもを召喚する権利と力を有するリン様は立派に私どもの姫でもありますよ。ご命令は了解いたしましたが、金銭もしくはそれに変換できるものはお持ちで?」


「ええ、これでどれぐらいできそうかな?」

ガギから預かった宝石をベフォセットに見せる。


「ふむ……、残念ながら数はあるようですが一つ一つは大したリソースにならないようです。申し訳ないですが、この街の景観とあった以前のものよりは大きな氷室と感想室が一棟ずつ程度ですかね。残念ながら金貨魔法は融通が利かないので我がどう考えようとこれはどうしようもありませぬ」


それなりの数の宝石だったのだが、まあ私が見ても小さいし輝きが少ないように見えるし、希少価値が高いものは残念ながらなかったようで、やや低価格なのは仕方ないし、これらが低価格ならここで使ってしまった方がいいと思う。ジュシュリ産の宝石は残りは原石らしいので、帝国の技術者に任せたほうが良さそうね。いかに神話の時代の技術や知識を受け継いでいるジュシュリでもこういうのはどうしても劣ってしまうのも当然だろう。


「そうですか。残念ですが今はこれしかありませんのでこれでできる分をお願いします」

「了解しました。我が姫よ。他の指定はありますかな?」

ベフォセットがガギの方を見て、そういう。私への盲信ではなく、私が相談する相手に相談するべきだという価値観があってくれたようだ。これは助かる。私が通訳としてガギに聞く。


「規模はお任せします。土地はあそこらへんなどが便利だと思うのです。あと荷車や馬車などを横付けして即座に中に運び込めるようにしたいのですが、可能ですか?」

そしてガギの言葉をベフォセットに伝える。


「お前たちがあとで付け足せる部分は付けなくてもいいよな?」

「はい、より性能や使い勝手に回してもらいたいです」


「分かった、リン姫様が頼る者よ」

確かにベフォセットはそういったものの、なんだか照れてしまってガギと名前だけにしてしまった。やっぱり通訳は第三者がするべきだね。

ベフォセットは宝石を受け取り、魔法を使った。


次の瞬間、指定された場所に立派な建物が立っていた。相変わらず瞬間ですごいな、これ。

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