占領
小一時間ほど休憩した。戦士たちは擦り傷程度は自分でやくそうで治療し、体力は全快レベルみたいだ。私含めた魔法使いたちはそれほど魔法を使っていなかったゴガの魔力は全快に近いみたいだけど、私やガギなどはまだ半分程度といったところだ。
けどできれば今日中に街を開放しておきたいし、山を超えた後半も頑張ろう。
南の方にはもともと住居は少なく、大きな建物が多く、蟻が囚われていることが多かった。それらを開放していきつつ、街をめぐる。
……北の方にもたくさんあったけど、南にも建物の中や巨人が踏み入らないような隅っこに石灰塚がたびたび見受けられた。今は作戦中だからマッピングもできないけど、だいたいの位置は覚えておいて、街を占拠できたら弔おうと思う。巨人に荒らされていない小さな建物には、まだ屋根があるのでほとんど侵食されていない、明らかにもともと人だったという造形の石灰塚も見られた。そのうち小さな石灰塚に覆いかぶさるような石灰塚もあった。
比較的善良なものや、幼子などは巨人にならずに石灰塚になったと言っていたから、これらがそうなんだろう。その証拠を見てしまって思わず手を合わせる。
……そんな様子を不思議そうにゴブリンたちは見ている。サキラパさんだけが神妙な顔をしていた。こういう意識というか慣習はハイであってもドワーフは人間に近いのかもしれない。サキラパさんは何百年も人間とともに暮らしていたからなおさら。
街の南部分の掃討は北の半分以下の時間で終わった。しかも死体の処理をベフォセットに処理してもらいながらである。南にはグレンデルとかヘカトンケイルや異形みたいな強敵もいなかったしね。異形が強敵だったかどうかは意見が分かれそうだけど。
南門から外を覗いてみると、外に旧魔法投射型である二号ゴーレムを操るクットゥーがいたのが見えたので、偵察ゴブリンにゴーレム部隊や居残り部隊も全員、街に入ってくるように伝令を頼んだ。あと他の偵察ゴブリンには、改めて石灰塚のマッピングをお願いした。ベフォセットには北の死体処理をしてもらい、残りの偵察ゴブリンには街の周辺を、ルオンには街の南の偵察をお願いした。
私達はとりあえず中央の広場で再び休憩しつつ、皆の合流を待つ。
「リン姫様、思ったより楽勝でしたね」
休憩中、【戦技】のグゲが軽い調子で話しかけてきた。
「そんなことないよ、西周りは結構苦労したよ。それに巨人共は街の中みたいな狭いところでは真価が発揮できないみたいだしね」
「東はグレンデルを除くと、だいたい動き出す前に一撃で仕留めていましたからね。戦った気がするのはグレンデルどもと広場での戦いぐらいでしたよ」
自慢げではなくうんざりしたかのようにグゲが言う。やっぱり彼はバランスブレイカーだ。私とガギとゴガの三人分の戦力を余裕で越えている感じだ。その上で【魔術】のゲゴも西周りだったのはグレンデルを警戒しすぎたのかもしれない。
こちら東周りにもレオとベフォセットというバランスブレイカーはいたものの、パサヒアス様の手前、戦闘だけは彼らに頼りっぱなしってのはダメだと思うしね。
五神官たちと軽い雑談をしていると、狭い路地を通ってクットゥーが指揮するゴーレムたちが広場まで入ってきた。その様子を見るとやっぱりゴーレムで街内を進軍させないで正解だと思った。一体ずつでしか進めないのは致命的だ。まあそれは基本的に巨人たちにも言えたんだけど、彼らの足回りは人間なみだから悪路も平気で、転けることはないからね。ゴーレムだと気を抜くと未だに転けてしまう。そのへんは早く魔導AIでバランス制御を任せられるようにしたいものだ。
広場に皆が集まったところで日も沈みだしたので広場で野営?することにした。ここに一日ほど留まって、とりあえず石灰塚の供養をしつつ、街周辺の偵察を終えておきたい。だから申し訳ないけど四機の九号量産型ゴーレムは北と南にある門の門番をしてもらうことにする。もちろん随伴のゴブリンもつけるけど。
残りは広場に駐機して休みだ。私や五神官はゴブリンたちが用意してくれた組み立て式ベッドで寝ることが出来たけど、多くの人員は雑魚寝だ。ガギ曰くハイゴブリンにはややつらいが、ゴブリンたちはそれが当然で普段からそうなので気にしないでいいとのこと。
そういえばゴブリンたちが寝ているところなんて長く一緒に暮らしてきたけど、見たことなかった。ジュシュリではさすがに皆テントや小屋で寝ていたし、寝ているところを私がわざわざ行くこともなかったしね。
確かに物語とかで出てくるゴブリンは毛布一つない環境で暮らしていたっぽいし、地べたでそのまま寝ても体が痛くならないのかもしれない。正直、それは率いて統率する側からすると楽で助かる。寝具を持ち運ばなくてもいいということだからね。ハイゴブリンや私はそういうわけにはいかないから、運んでもらってるけど。遠征を繰り返すのならベッドを複数装備したさそり型ゴーレムとかいいかもしれない。