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ヘカトンケイル

グレンデルの死体をスルーして、前に進む。別れたゴブリンたちも一人もかけることなく合流した。


すっとルオンが現れて私に声をかける。


「この先のあの大きな建物にヘカトンケイルが潜んでおります」


今の魔将たちの声はリンクされているので全員に理解できる。


「コールライトニングの魔法を使ってきたあやつですか……、姫、魔力の方は大丈夫ですか?」


フォースフィールドでかばったし、他の魔法も結構使ったので、それなりに減っているとは思うけど感覚でそう感じるだけで、どの程度持つのか、特にフォースフィールドの消費量が分からないので万全とは言えない。ガギですらミスったことがあるぐらいだし。

そういったことを言う。


「そうですか。ではゴブリンや護衛たちはいったん離れて潜んでおいてもらいましょう。我らだけの方が守りやすい」


事情を知らないゴブリンたちが反対意見を言うものの、事情を知っていたザービやあのときの戦闘に参加していたらしいゴブリンがなだめてくれた。


「うちはいいやろ。うち魔法使いとは相性ええねん。攻守ともに役立つで。フォースフィールドに入れんでもええし。むしろ入れたらあかんで」


「わかりました。では攻撃はレオ、ベフォセット、サキラパさんにゴガもお願いします」


ゴブリンや護衛たちには建物の影になる場所に隠れてもらって、私たちだけで先に進む。


ルオンが言っていた大きな建物の近くまで来た。確かに何かが潜んでいる気配がぷんぷんする。


「蟻が近くにおりますので、範囲魔法で吹き飛ばすのはお勧めいたしません」


先制で建物の中にさっきのような爆発魔法を放り込んだらいいんじゃないか、と思っていたので残念な知らせだ。


「ファッファッファ。また我輩がゲヘナで沈めてくれるわ」


私の影に潜って頭の上半分だけ出しているベフォセットがなんか言ってる。


こちらが不意をつく前に、建物から立ち上がったらしい巨人が体ごと振り向いた。今まで名前は聞いていたけど見たのは初めてのヘカトンケイルだ。聞いていた通りの姿だが、大きいし、なんていうか酷い見た目だ。


足はしっかりとしているが短足でその上に大きな体が乗っかっている。その体からは一対の大きな腕も生えているが、体のあちこちから小さめの腕がたくさんランダムに生えていて、その間に一つ目の人間の頭や最大で七つの目を持つ頭が生えている。それには男性も女性もいたように見える。いくつかの腕には小さな水晶球のようなものを持っている。占い師?


しかし不気味というか、悪趣味な見た目だ。元となった巨人に何人もの人間を埋め込んだ風にも見える。けど人間は目の数が違ったりはしないし、頭と腕にセットになっていそうな箇所は見えないので、そうではないのだろう。あまりにもランダムすぎて不気味というやつかも。


立ち上がったヘカトンケイルは体高十メートルもあり、主腕も体の大きさからすれば細いけど、長くて大きい。こちらに気づいたヘカトンケイルはこちら側にある各々の頭が一斉に吠えだした。吠えてると言うか怨嗟の声? あーとかおーとかの恨みがこもってそうな叫びだ。


「影の中からゲヘナ」


ずるいっ! この中で一番弱々しく見える私の影の中からこの街に入る前に使ったであろう魔法を使うとは……。反撃されることはまずないだろうけど、万一されたらまず私が大危険なんですが?!


ヘカトンケイルの足元の地面が赤くなって、そこから複数の鎖付きフックが飛び出してきてヘカトンケイルの体を縫い止めようとする。いくつかは刺さったけど、多くは頭が発した衝撃波や、持っていた水晶球が手から離れてかなりのスピードで飛び回り、その水晶球から発せられた回転する三日月の光がフックを叩き落とし、鎖を切っていった。


「申し訳ありません。抵抗されてしまったようです……」

ベフォセットが落ち込んだトーンで言う。あの魔法、抵抗できるのね。物理的に抵抗してたように見えたし、そういうこと? まあなんだっていい。ともかく効かなかった。一撃では倒せなかったということだ。もともと魔法使いとか言われていた気がするし魔法耐性が高いのかも。


こちらを認識したヘカトンケイルが各々の頭が詠唱し、各々の腕が身振りし、水晶球が周辺を飛び回る。一見相関はないように見えるけど魔法が成立している。その魔法はゲゴからも聞いたことがない、水晶球から光の弾が誘導して飛んでくるというものだった。弾速は速いけど、誘導は軽くしかしていないようなので避けることができた。しかしそれが出来ると分かるまでに皆で数発食らってしまった。フォースフィールドで怪我はしていないけど魔力が失われてしまった。フォースフィールドの範囲外にいるサキラパさんは魔法攻撃を盾で受けきったようだ。しかもそれで敵の相当高い位置にあった頭を一つ潰していた。


「これがうちの秘密兵器、応報の盾や。魔法攻撃を跳ね返すで」


すごい魔法盾が出てきた。魔法使いにとっては悪夢のような盾だ。このやり取りの間にゴガが投槍で頭を一つ潰し、レオが足を切りつけヘカトンケイルに片膝をつかせることに成功した。主腕は足や体の動きと連動しているけど、頭や他の腕は連動していないように見える。そんな頭や腕、水晶球たちが一斉に動き出した。


「いけない! あれは儀式魔法です。戦術級、おそらくコールライトニングがきます!」


ガギが叫ぶ。ガギほどのものが叫ぶとは。まあ一度それにやられているからなぁ。私もフォースフィールドの維持に集中する。影の中からベフォセットがなにか言った気がするが、集中していたため認識できなかった。


ヘカトンケイルから魔力が上に向かって吹き出したのは分かった。その数瞬後、凄まじい音と光が私たちの周りを直撃した。

フォースフィールドがごりごり削られた感覚が残って、魔力がごっそりと持っていかれた。しかし気絶はしていない。耐えきったようだ。周りの皆も元気に立っている。あんな攻撃を受けてサキラパさんは大丈夫だろうか?


「すまん、しくった。雷の直撃自体は応報したんやが、地面から電撃が走ってきたみたいで、足やられたわ」

サキラパさんが倒れた。金属製の靴だったのが不味かったのか、足を怪我してしまったようだし、盾もなんか煙を吹いている。


「サキラパさん!」

しかし今は戦闘中だ。私の癒やしは時間がかかる。先にヘカトンケイルをなんとかしなければならない。


「思ったより魔力が削られていません。チャンスです」

ガギもそう言う。私も同意だ。想定より魔力が残っている。逆にヘカトンケイルは大魔法を使ったせいか魔力がほとんど見えず、またサキラパさんの魔法の盾の応報をしっかりと受けていたようで。体の半身がやきただれており、そちらに生えていた頭や腕は機能を停止しているようだった。それにいくつかの水晶球は破壊されたのか地面に落ちていたり、砕け散ったようだ。


逆襲だ。


私はフォースフィールドの維持をいったんやめ、今できる最大級のエネルギージャベリン、ただし癒やしがあとであるので魔力を使い切らないように、相当量の魔力を残すように調整する。ガギも同様いったんフォースフィールド展開を中断しデトネーションを。ゴガはストーンバレットを。レオはなんか力をためている。


ベフォセットはなんか私やガギと、魔力の流れをつなげていた。そこから魔力が私の魔力の代わりにエネルギージャベリンのために注ぎ込まれる。たぶんガギも同様だと思う。さっきベフォセットが言ってたことはこれのことかもしれない。その上でガギと同様デトネーションの魔法を使ったようだ。


詠唱の短いストーンバレットから発動して、無数の石礫がヘカトンケイルの体を打つ。そのうちのいくつかが頭や腕に当たり大きなダメージを与えた。


その上でデトネーションが二回発動し、体に生えていた頭部と腕は全て停止した。しかしまだ生きているし、腹部にあたるところから巨大な目玉が出てきた。それを魔法で一番遅くなった魔力ましましの貫通エネルギージャベリンで貫いた。もうすでに声を発する器官が残っていないので静かにヘカトンケイルは両膝をついた。レオが吐き出した極大音玉が最後にもろに炸裂して、それが止めとなったようだ。

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