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偽りの太陽

「こい、ルオン」

私の代わりにパサヒアス様自らが魔将を召喚してくれた。


「ゴガ、パサヒアス様が呼ぶ魔将にもリンクしてくれる?」


頼むまでもなく、ゴガは私がそういうとほぼ同時にゆっくりと姿を認識できるようになってきたルオンにもリンクをはる。


「しばらくは私の近くにいる限りリンクは保ち続けます。一度離れても戻ってくれば自動ではられます」


「便利だな、私にも教えてはくれぬか?」


ゴガが私とガギを見た。とりあえずうなずいた。正直なところパサヒアス様ご自身がリンクを使えたほうが楽ではあるけど。


「リン様のご許可がありましたので、お教えできますが、この技は我らゴガが代々受け継いできたもの。特殊な才覚もいりますし、時間もかかるやもしれませんが、それでよろしければ。あとパサヒアス様ご一代のみとさせていただき、他の者、たとえ魔将様であっても勝手に伝授なされないとお約束いただけるのでしたら」


「そんなに大切なものであったか。知らぬこととはいえ、勝手を言った。すまん」

パサヒアス様が慌てたように自分で出した要求を取り消した。


「私がお前たちの言葉を学べばいいことだしな。さて、ルオン。待たせた。お前にはまずここ周辺の索敵をしてきてほしい。リンたちが奇襲されてもかなわんしな。周辺の索敵が終わったらまた頼むことがある。行け」


ルオンがこちらに一度頭を向けてから、消えた。本当に消えたのか、認識できなくなっただけかは分からない。


「次はベフォセットだ」


すると私と椅子の影が伸び、そこから山羊頭で四つ腕の魔将が現れた。腕が四つある以外は体の方はレオに似ている。



「お久しゅうございます」


ベフォセットがなんとなく慇懃無礼に見える態度で畏まった。


「どうした? ベフォセット?」


パサヒアス様も感じ取られた様子。


「いえ、我輩だけ今まで呼ばれませんでしたので」


ベフォセットは拗ねていたようだ。確かに呼べる機会もあったんだけど、なんだかんだで呼んでいなかった。まさかそれで拗ねるとは思わなかったし。


「パサヒアス様ならご理解いただけるかと……」


「ああ、それは辛いな。私もまったく連絡がなかったので、先程連絡が来たときは喜び勇んで飛んできたよ」



君たちは主人の帰宅を待ちわびるペットか何かなのかい? 見た目凶悪なのにそんな可愛い感じで、ジト目で私を見るんじゃない。


「そんな事言われましても。パサヒアス様を何の理由もなしに呼びつけることなど出来ませんし、ベフォセットも、何が得意かイマイチ想像できませんでしたし、魔力消費量も思ったよりは大きくて……」


三神官は初めて見る魔将の態度に目を白黒させていた。魔力量や雰囲気からしてかなり強そうなベフォセットが飼い犬みたいに拗ねていたのだから仕方ない。私がそうしつけたわけじゃないからね、これはべフォセットの個性だから。



「ならば貴様の有能さを見せつけねばならぬよな、ベフォセット。そうだな、私の資金を使って良いから、倉庫を建て増ししてやるといい。ここは補給基地にするみたいだからな」


「ま、待った。パサヒアス様にベフォセット殿。その、倉庫の建て増し、とは?」


ガギが待ったをかける。ガギがかけていなかったら私がかけていたと思う。本当にどういうこと?


べフォセットがパサヒアス様と私を見たので、私は説明をうながした。


「我輩は魔法を得意とする。汝らは知らぬかもしれぬが、魔属には金貨魔法と呼ばれる魔法があるのだ。それを使えば建築など容易いのである。もっとも事前に準備した価値を消費するがな。もっとも分かりやすい価値は金貨であることが多いので金貨魔法という」



よく分かったような分からないような。

「とりあえず、魔法で倉庫が増やせる、ということですか?」


「そうである」


「その倉庫は時間が経ったら消えるとか?」


「そんなことはない。普通に建てた倉庫と同様である」


「そんな都合の良いことが?」


「その分、価値のあるものが失われる上に魔力も使うから、そこまで万能でもない。が倉庫程度なら万能に思えるかもしれない。魔属の、我輩の力を知れるというものよ」



確かに本当にそれが出来るならすごいことだ。ベフォセットを呼ばなかったのはミスだったのかもしれない。


「ではお願いします。皆外に出ましょう。作ってもらう場所を考えないと」

まだ義足を付けたままにしておいてよかった。


外はもうまっくらで一部で篝火の光が見える程度だ。すでに歩哨以外のゴブリンたちは寝ている。私たちは仮作りの拠点から出て、外で控えていた各人の護衛と合流する。


「暗いな。リンは見えないだろう? 緑も見えんだろうな。私が明かりを作るがいいか?」


「ええ、パサヒアス様自らがしてくださるのですか? それはありがたいです」

正直な話、パサヒアス様の実力はまだ見たことがないからね。魔力量がとんでもないし、魔将を作れるぐらいだからすごい実力を持っているのは推察できるんだけど。


「セパレートワールド」「フォールスサン」


え? 何その魔法。なんだかとんでもない量の魔力が動いたように感じたけど。

そう一瞬で考えた直後、周りが明るくなった。まるで昼間のようだ。って太陽らしきものが見えてるんですけど?!


「何をなさったのですか?!」


「気にしなくていい。少し世界を分割して、偽りの太陽を作っただけだ」


え? どういうこと? 言ってることは分かるけど、まるで意味が分からない。


「パサヒアス様は偽りの、小さな偽物の太陽を生み出し、それを他の場所に影響を与えず、周りから察知されぬよう我輩たちの周りを切り抜き、しばらく別世界としただけである」


ベフォセットが噛み砕いて説明してくれた。そのおかげでなんとなくは分かったけど、明るくするだけでここまでしなくてもいいのでは? とも思う。やっぱり桁外れなようだ、パサヒアス様は。魔王とか言ってたものね……。


三神官も護衛も、表面上は狼狽えたりはしていなかった。こちらもさすがである。特にガギは落ち着き払っている。


「おかげさまで真昼のようにはっきりと見えます」

確かにそうなんだけどね。周りが明るくなったので野営していたゴブリンたちも何事かとテントから出てくるものもいるが、成り行きを見ていた歩哨たちが出ないように言っているようだ。



「さて、今ある倉庫はこちらですか?」


ベフォセットが早くも話を進めようとしている。うん、ちょっと待って、動揺が。


「ええと、はい。そちらが仮倉庫です。といってもまだ壁もない物置き場でしかないですが」



「倉庫の設置場所は確かにそこらがもっとも良いようだな。周りの地形を見る限り」


「では置き換えをして、いくつか増やします」


「人の価値だと思って、無茶を言う。まあ良い。存分にやりたまえ」



なんだか魔族の二人がよく分からないことを話している。想像は出来るけど、そんなこと本当に出来るの? と思ってしまう。ついさっきパサヒアス様の非常識な力を見たばかりなのに。常識ってそういうものかもしれない。


とか思っているうちに、壁のない物置き場でしかなかったものが、木で出来た立派な倉庫になっていた。数も倍以上に増えている。


「サービスで氷室と乾燥小屋もいくつか用意した。魔力で冷蔵能力が飛躍的に維持できるものと常に風が吹き抜ける小屋だ。魔力を使うが、ある程度は自動で供給される仕組みにしておいた。肉の保存に役立つだろう」


「金貨五千枚、といったところか。王冠一つ消えたにすぎんな」


一瞬で倉庫群が建築できるなら、魔力を全部使い果たしたとしてもかなりの価値があると思うけど、とんでもないなぁ、魔族。

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