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松葉杖と義足

「そうですか、何か分かりましたら、また教えて下さい。あとお互い時間があるときで構いませんので、文字を教えてもらえませんか?」

「文字、ですか? もちろん構いません。私は時間があると言えばあるので、リン姫様のご都合がよろしい時にお申し付けください」

「ありがとう、ゴガ、そうさせてもらいます」


情報のやり取りと昼食を終えて、五神官たちはそれぞれの役目のために建物から出ていった。そういえば私の建物ってここになるのかな? 五神官はそれぞれ拠点があるようだけど、まあ私はポッと出の長だしね。それに動かないで良いのは今の私には正直助かるし。


とか考えてたら、技巧のギグが一人の女性ハイゴブリンを伴ってやってきた。女性が義足を持っていて、ギグは松葉杖を持っている。

「リン姫様、こちらがお命じになった特殊な杖です。どうかお収めください」

松葉杖という名前は覚えていないようだ、けど特殊な杖というのも間違っていないからいいけどさ。

「杖だということなのですが、ワシにはどうつかうのかいまいち想像が追いつきませんでしたので、使ってみると何か不具合があるかもしれません」

松葉杖を受け取った。構造だけの問題だから見た目はいけそうだ。実際に脇に挟んで松葉杖を使って立ってみる。んー、ちょっと高いかな。それに脇のところが堅い木なのでずっと使ってると痛くなるかもしれない。あるならここは柔らかい素材で覆ってもらおう。あとは杖に石突がついてないので、ずっと使ってたら摩耗しそうってところか。

そのへんをギグに伝えて改良してもらうようにお願いする。でもまあ、保険みたいなものだし松葉杖は。本命は次の義足だ。


女性ハイゴブリンが恭しく義足を私に捧げた。それを受け取って椅子に座り直して足にはめてみる。んー、ちょっと小さいかな、すごく窮屈だ。これはもう少し削ってもらわないとダメかもしれない。義足の固定を支援するベルトはいい感じだった。高さは……うまくはまってないので今結論づけるのは早いか。そしてこちらの義足にも接地面に石突がついてなかった。もしかして石突の概念がないのかもしれない。削れたら寿命、とか考えているのかも。ある意味正しくはあるけど石突をちゃんとしたほうがしっかりと歩けるし、頻繁に全体を作り直すよりいいと思うんだ。

なので義足の改良点、特に足にちゃんとフィットしてない点を最重視して女性ハイゴブリン、名前はゼルンというらしい、が私の足を触ってサイズを確認する。

「大きく削ってもいいかもしれません。このままはめ込んでもすぐに痛くなってしまうでしょうから布や何かの緩衝材を間に入れたいので」

「緩衝材ですか? 綿などでもよろしいですか?」

綿があるなら綿でいいかもしれない。

「ええ、とりあえずそれで試してみましょう」

「それでは修正してきて、綿を詰めてみますね、お御足のサイズは粘土で型をとっても良いかもしれません」


松葉杖も義足も微調整のため、なくなってしまった。やることなくなっちゃったな。何しよう。

「そういえばガギ、急ぎの用事がなければ頼みたいことがあるのですが」

ずっと側で控えていてくれたガギが身を乗り出す。

「分かりました、次期ガギの様子を見る程度しかありませんので、なんなりと」


「では私が最初にいたあの小屋にもう一度行きたいのですが」

小さな声でガギだけに聞こえる程度で囁く。


「ご遺体はすでに葬らせていただいておりますが」

ガギもあわせて囁く。今は近くには誰もいないので聞こえないだろう。


「私の持ち物を持って帰りたいのです。私がいかないと何がどれか分からないでしょう?」

「それもそうですね、分かりました。今すぐ出発、というわけにもいきませんので、微調整が終わり次第行きましょう。そのための準備をしてまいります」


「お世話をかけますがお願いします」

あの小屋で生活していたのなら何かしらの物資があるはずだ。あの時はかなり動転していたので水瓶ぐらいしか気づかなかったけど、今ならいろいろと。


しばらくしたらギグが帰ってきた。高さが調整され脇に当たる部分と手に持つ部分に布が巻きつけてあり、石突には金属がはまっていた。金属のせいか若干バランスが代わり、重くなったけど高さの調整と何も言わなかった手で持つ部分への布のおかげで快適に使えるようになっていた。しかし一本しか作ってもらわなかったのは失敗だったようだ。右足の代わりになるようにと右脇にかかえて使ったのだけど、思った以上にうまく歩けない。たしか以前足を怪我して使ったときは片足の怪我でも二つの松葉杖を使っていたはずだ。でもまあ、けんけんで移動するよりは楽になったのでこれでいいか。けど万一のためもう一本作ってもらおう。

「大変良い出来かと。手で持つところの改良はさすがですね。出来ましたらこれと同じものをもう一つ、作っていただけますか? 二本セットの方が使いやすいようです」

「ありがとうございます。普段作ったことのないものでしたので木工職人も楽しがっていたようです。これらはワシたちでも使えるものみたいなので極めさせたいと思います」

今後足を怪我するゴブリンが出ないとも限らないし、良いと思う。

「はい、それほど急ぎませんので二本目、よろしくです」


ギグが下がっていったのとほぼ同時に技巧のギグの娘、次期ギグのゼルンも戻ってきた。

「こちらでいかがでしょうか?」

こちらも石突には金属がついていた。見た目で変わってるのはそこと足にはめる内側だけだ。内側には綿を詰めて布を貼っているようだった。

さっそく付けてみる。今度はすっぽり入った。違和感もなく痛くもない。綿のクッションがいい仕事してるようだ。ベルトで固定して、さっそくまずは立ってみる。

義足の接地面が棒なので慣れるまではふらふらする。念の為先程完成した松葉杖も使って立つ。おー、ちゃんと立てた。普通に嬉しい。さて歩けるかな?

これはそう簡単にはいかなかった。ひざや足首が動かないというのはかなり歩きにくかった。今の右足は一本の棒のようなものなので考えて動かさないととたんにバランスを崩すのだ。松葉杖のおかげで転びはしなかったけど、だいぶと疲れる。でも自分だけでいくらかでも歩けるというのは大きな第一歩だ。

「ありがとうゼルン。おかげさまで一人で歩けるようになりそうです」


「いえ、私などはリン姫様のアイディアを形にしただけです。リン姫様が歩くのを拝見させていただいたところ、膝に当たる部分が曲がったほうが歩きやすいように見えましたが、どうでしょうか?」

「そうですね、膝もそうですが足首も動いたほうが良いかもしれません。ただ逆に曲がるようだと使いづらいでしょうし、簡単に曲がりすぎても辛いと思いますので、具体的にどうすればいいのか私にも思いつきません」


「逆に曲がらないように、と足首もですね。壊れたときのためにも、新たにもう一つ作ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろん、こちらからお願いしたいぐらいです。ゼルンの他の仕事の邪魔にならないのでしたら是非とも」

「ありがとうございます。父より教えられたものばかり作っていたので、自分で考えて作るのは本当に久々で。もし改良点を思いつきましたらぜひお知らせください」

「ええ、頼りにさせてもらいますわ」

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