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義手と義足

グゲはリラックスしたまま待ち受けている。対して左腕のローガンさんはそのまま駆けてグゲに近寄り、右足のサーチェスさんはその場で呪文の詠唱を始めた。え? サーチェスさんって魔法使いなの?


ローガンさんは大きな左腕を突き出して突進していって、グゲに近づくと右手に持ってるバックラーを構えつつ、左の大きな義手を大きく振りかぶった。


その隙にグゲが剣を使って軽く手首でスナップしたような感じで、迫るローガンさんに攻撃を仕掛けたけど、それはローガンさんのバックラーで弾かれた。


それで姿勢を崩すグゲではなかったけどローガンさんはその隙にグゲに向かって大きく左腕の義手パンチを振るった。


もちろんそんな大振りが当たるはずもなく、軽いスウェイでグゲはそれを躱して踏み込もうとした時、ローガンさんはしゃがんで、そのまま一回転して踏み込もうとしたグゲの足を狙って下段パンチ?を振るった。


絶対当たった、と思った間合いとタイミングだったけど、グゲはあえて踏み込んで前にジャンプしたようだ。状況としてはしゃがんで地面を殴ってしまったローガンさんの後ろにグゲが着地した感じだ。ローガンさんはそのまま柔道の飛び込み受け身のように飛んで回って前に逃れた。


その時、後ろで呪文を詠唱していたはずのサーチェスさんが、凄まじい勢いで、文字通り飛んできたかのように、槍と盾を構えてグゲに向かって突進してきた。当たれば一撃死間違いなしの凄まじい体ごとの突きだ。


それすらグゲは器用に避けた。さすがに体勢は崩しているけど。


サーチェスさんはそのまま通り過ぎていった。急には止まれない? よく見るとサーチェスさんの両足が握りこぶしぐらいの高さに浮いたままだ。通り過ぎたまましばらく進んで、右足を地面を突き刺すように下ろしたと思ったら、右足を軸にくるりと回って、グゲの方に向き直り、地面をそのまま右足で蹴って、再び高速でグゲに向かって突進していく。


二人がかりとは言え、さっきの戦いでは姿勢すら崩さなかったグゲを崩していたので、大歓声があがっている。逆に言えば皆グゲの強さは認めてるってことだよね。


もう一度、二度と最初に似た攻撃を繰り返す二人だけど、どんどんグゲは余裕で躱していくようになっていく。


「なかなか面白かったが、そろそろ終わらせるぜ」


グゲのつぶやきを即座に共通語を理解できるゴブリンたちや逆の兵士たちが拾って通訳してくれる。


二人はグゲと距離をとった地点で集まり、とまってお互いを向きながらうなずいた。会話はなかったと思う。事前に打ち合わせていたか、すでに阿吽の呼吸なのか。たぶん後者だ。


集まっていた時は普通に立っていたのに、動き出したら両足を浮かせて中腰みたいになっていた右足のサーチェスさんを見て、そこでようやく最初に唱えていた呪文はレビテーションだったのだと気づいた。フライは難しいし魔力消費が激しいから違うと思うし。


「お気づきになられたようで。もともとサーチェスはレビテーションの使い手だったそうで、推進力となる足がいいと、言われましてね。しかし魔法なしで推進力と言われても……、となったので純粋に普通に足でするように義足の蹴りの威力を高めたのです。もちろん足に過度の負担がかからぬよう、さそり型のしっぽに使った仕組みで足になるべく負担はかからぬようにしております。しかし一戦闘で数度の使用が限界でしょうな。おそらくですが次で最後です」


レビテーションで浮いて、尋常ではない蹴り足で速度を生んだのね。低く飛んでるのも足で地面を蹴るためだったのか。実際突進中は左足は折りたたみ、右足は反らして持ち上げる感じで飛んでいた。止まる時に反らしていた右足を一旦抱え込んでから下ろしてかかとを突き刺している感じだったし。すなわち地面を滑っている姿勢はヒーローが空を飛ぶときと同じような姿勢だ。


「ではローガンさんの義手は? あれもただ大きくて重いだけじゃないんでしょう?」

「ええ、もちろんです。まだ発動させていませんからね。おお、動くようです。ネタバレはやめておきましょう」


二人が動いた。先程までの三回と同じ感じだけど、今回はサーチェスさんから突進したようだ。ん? 今回は槍を前に出さず、横に持ち、盾を突き出している。スピードも早く、槍の方には避けづらい。すなわち槍とは逆の方向に避けるしか無く、行動を読まれやすいってことね。


そのままサーチェスさんは盾を文字通り盾にしたままグゲに突っ込んでいった。さすがにあの速度、大きさ、そして硬さではカウンターは取れない。グゲは大きくサーチェスさんの槍のない方向へ飛んで避けようとした。


しかしさすがにそれは読まれていた。サーチェスさんは激突する寸前で右足でさらに地面を蹴ってグゲが飛んだ方に動いた。それより早くグゲは飛んでいたけど、サーチェスさんは盾を大きく横に打ち付けるように振った。


ローガンさんはグゲの吹っ飛び予測地点に駆け寄っている。しかし盾による吹き飛ばしの力が強かったのか、グゲはそれより遠くに、しかも体勢を崩さずに着地していた。逆に盾で殴ったサーチェスさんが姿勢を崩してしまい、右足で着地していた。


「うまい!」

ラキウスが思わず叫んだようだ。どっちがうまかったんだろう。おそらく状況の良いグゲだろうけど、何をしたんだ? 私にはよく分からなかった。けど聞いている暇はない。


ローガンさんは予定が崩れたからか、パンチではなくその大きな義手でグゲに掴みかかろうとしている。グゲはしゃがんではいるものの、姿勢は崩れていない。


大きく手のひらを開いていた左の義手がさらに広がった。グゲは何かを察したのか、迎え撃たずさらに後ろへ飛んだ。


急にローガンさんが止まった、と思ったら、さっきまでグゲがいたところに丸太が地面に当たって跳ねていた。え? 丸太? どこから出てきたんだ?


グゲが一瞬後ろへ飛んだあと、止まったローガンさんに飛びかかり、大上段から斬りかかる。ローガンさんは重い左腕でなんとかそれを受けようとする。


「勝負あり、だ。俺ならその義手ごとお前を斬り飛ばせていた」


グゲが寸止めしてくれたようだ。実際グゲの言うとおりだろうし。周りの翻訳を聞いて、ローガンさんはそれを受け入れて降伏した。


すぐにグゲはサーチェスさんに向き直り、剣を突き出した。


「お前もこれで終わりだ。無理をするな、足はもう限界を超えているのだろう? レクリエーションで無理をして怪我をするのは馬鹿らしいことだ」


サーチェスさんも、その場に盾と槍を落として、両手を軽く上げて降伏した。


「二人共面白い戦闘術だった。並の相手なら圧倒できるだろう。楽しかったぞ」



結局グゲが危なげなく勝ったけど、最後のはどういうことだろう? ギグ?


「はい、最後の丸太はローガンの義手から発射されたものです。本来であれば丸太ではなく杭を、相手を掴んだ後に打ち込むものなのですが、一応飛び道具としても使えなくはないです。対巨人用兵装です」

なるほど、手のひらが大きく開いた瞬間に打ち込んだのね。グゲはそんな不意打ちを完璧に躱したというわけか。


「その前のサーチェスのやつは、グゲ殿がサーチェスの盾を蹴ったのですよ。振るってきた盾を蹴って相手の体勢を崩しつつ、自分の体勢を立て直すなど、まさに達人ですね。タイミングが一瞬ずれたり角度を間違えれば足が砕けていたことでしょう」

ラキウスも解説してくれた。


左腕のローガンさんと右足のサーチェスさんがこちらにやってきた。


グゲはまだやるつもりで、さらに挑戦者を求めていた。

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