魔将召喚
ミリシディアからレニウムに戻ってしばらく。特に何事もなく、順調に遠征の準備は進んでいた。
ある日、ぶっつけ本番で魔将召喚をするのはいろいろとまずいだろうと思い、召喚してみようかなと考えた。んー、召喚する理由はテストとお披露目が主だからなぁ、けど魔将をただ呼び出すだけというのもあれだし、どうしよう?
魔将ヴァイガンヌは最初の接触で【戦技】のグゲを一撃で倒してたし、魔将って相当のやり手のはずよね。けど不意打ちだったからというのもありそうだし、敵にも魔将がいるんだから力量を調べておくのは重要かもしれない。一番近接戦闘に強そうなレオを呼び出して、グゲと模擬戦してもらおう。
思い立った次の日の朝の食事会でグゲを模擬戦へ誘った。そういうのが大好きなグゲは即答で了解したので、その次の日の昼にレニウムの外、さそり型の模擬戦と同じ場所でやることにした。
今回の模擬戦は魔将の周知の意味もあるので、砦長のケインさんに頼んで、砦の兵士たちも見学できるように頼んでみた。現在は砦としての業務は少なく、私達ジュシュリの遠征の準備の手伝いが主だから喜んで話に乗ってくれた。
ゴブリンたちもこの時間は休憩と伝えてあるので、大勢見に来ている。クレイシュの子供ゴブリンたちも来ているようだ。まあ今なら大丈夫でしょう。さそり型の模擬戦のときとは状況が変わってるしね。
念の為、数機のゴーレムに守られて砦の外の会場を砦の兵士たちが、運動会とかでよく見る天井だけのテントか何かみたいな感じのものを私達のために設営してくれていて、椅子まで用意してくれていた。正直助かります。日差しも避けれるし。
私の周りには側仕えと護衛、それになぜか【技工】のギグとその娘の【次期ギグ】のゼルンが側にいた。ガギは自分のゴーレムを持ち出してグゲのセコンドみたいなことをするつもりらしい。
【魔術】のゲゴと【言語】のゴガは一緒にいておそらく次期だろう若いハイゴブリンを連れて見学するようだ。
錬金術師のサキラパさんは私が以前貸したプロトタイプの牛型ゴーレムに乗ってやってきた。横乗りできるような鞍がついていてそれに座っている。元々速度はあまり出ないからその座り方が正解かもしれない。彼女の周辺には錬金術師の弟子たちが大勢ついてきている。
他にも大勢砦の兵士、文官までも出てきて見学に来ているみたい。グゲって人気なんだなぁ、って思った。
でもこんなときでもハームルはいない、忙しいようだ。ほんとご負担かけてます。そんなハームルの代理として、そこそこ近くにラキウスがいた。ハームルの代理という立派な役目があるんだからもっと近づいていいのに。というか近づくなとまではいってないんだけどなぁ。
「ラキウスー、もう少し近くにきなよ。そこじゃ話もできないよ?」
そうちょっと大声でラキウスに声をかけると、すごく嬉しそうにやってきた。けど、ラキウスの前に私の専属護衛のメジャーワーカーであるブゥボと、ギグが立ちふさがった。
ブゥボは護衛だから仕方ないと分かるものの、ギグもかぁ。普段の気のいい職人おじさんって表情じゃなくて、明らかにラキウスを警戒してるっぽいものなぁ。まぁギグは皇帝陛下とも当のラキウスとも接点がなかったから警戒するのも無理はないか。実際五神官でラキウスを信用しているのって、一緒に作戦行動したゲゴぐらいだものなぁ。まあ時間がなんとかしてくれると思う。あとラキウスって知人にはすごいタラシなのに、人見知りだからなぁ。
一応、ブゥボやギグに、心配ない、ラキウスの意見も聞きたいから呼んだ、と伝えたら、引き下がってくれた。
グゲが出てきた。持っている剣は、普段の一般兵士用の数打ちの剣ではなく、明らかに魔法の剣と分かる代物だった。
私も魔将を召喚しないと。グゲと相対して私も前で出る。まるで私がグゲと戦うみたいに見えてそう。
グゲと戦うとしたら私は魔法で先制攻撃するしかないんだけど、たぶんグゲは私の魔法をなんなく避けて、一撃で私を倒してしまうだろうね。そんな分かりきったことはもちろんしない。パサヒアスの指輪から学んだ、魔将召喚法を使って、レオを呼び出す。召喚法が成立したと思ったら、けっこうごっそりと魔力を持っていかれて、私の後ろに強烈な気配が現れた。
それを察してグゲが剣を構えた。グゲが剣を構えた?! 初めて見た気がする。
私の後ろの気配が私を飛び越えて、私の前に着地した。レオだ。ただ前に見たときと違って、両手に日本刀のような剣を持っている。
「彼は魔将、レオです。私が召喚者となります」
一応、レオの名前を紹介してから、前を向いたまま後ろへ下がっていく。初めてあったときはそんなことはなかったのに、今はすごい魔力圧? みたいなものを感じる。召喚者であり、後ろにいる私がそうなのだから相対しているグゲには相当な圧がかかっているはず。
なのにゲゴは笑顔で首をコキコキ鳴らしていた。やっぱりグゲってすごいんだ。知ってたけど、今まで見たグゲの凄さは現実離れしたものばかりだったから、なかなか実感が沸かないのよねぇ。
自分の席に戻ってきた。私が席に座るまでレオもグゲも待っていてくれたようだ。
私が席に座ると同時にレオが吠えた。




