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十号機

「別棟に十号機がありますが、見ていかれますか?」

「そうね、二号機にはお世話になったし、その後継機は早く見たいわね」


「ではご案内します。十号機は先行試作型であったはずなのですが製作の遅れにより、逆に量産型である九号機で得られた技術や改良点が反映されており、若干姫の専用機とは違うものになっております」


私とギグ、二人分の護衛になるとちょっとものものしくなるけど、仕方ない。案内された別棟は作業が終わったためかすっきりしていた。そこに異形がいた。


概ね人型だけど、胸からも副腕が生えているのは二号機と同じ。けど十号機は背中からも人の上半身のようなものが生えていて、そちらにも両腕がある。主腕は格闘用ではなく、二号機と比べやや細くなっていて親指と人差し指、中指までが独立していて、薬指と小指がまとめられた珍しいタイプで、手の甲とは接触しないように取り付けられたナックルガードがいかめしい。他の大型ゴーレムと比べて肩が大きく、また足も九号とは少し違う形でややガニ股な気がする。


「なんでこんなことになってるんですか? 特に背中の副腕は何でしょうか?」


「はい、あれは二号機も装備していたゴーレムバリスタの改装版のためのものです。十号機の両肩に二門積んだ際にあの副腕で装填や給弾を可能としています。またこれらは専用のゴブリンを必要とせず、術者のみで動かすことも可能なリン姫様専用だったタイプに似たものとなります。ただそうすると非常に術者への負担が大きくなるため、背中両腕部の間、人の頭に見えるところにゴブリン用の席を設けて背中副腕の操作を任せることも出来るようにしております」


「え? あれも動かせるの、一人で。私なら出来るだろうけど他の皆でも?」


「はい、実際そんな生き物はおりませんが、二号機でも副腕を動かせていますでしょう? それと同じ要領です。若干の訓練はいると思われますが、ゲゴなら問題ないでしょう。ただしこれも二号機と同じですが、主腕と副腕同時には動かせません」


「そうだったんですね。あの背中副腕、面白いです! 私の四号機にもあると便利そうね」


「というかリン姫様が今後魔法を駆使されるのでしたら、今の重装型から魔法投射型に改装しても良さそうではあります。今は副腕の製作には時間がかかりますから、近々の遠征には間に合いませんが」


「そうね。遠征から帰ってきてからでいいわ。あと私だったら小さいから、背中副腕に私が乗ってもいいわね」


「いけそうですね、それで。でも今の十号機の形態だと視界が取れないので若干の工夫が必要になります」


「そこはお願いするわ、乗り心地と術者防御のための工夫は私も考えてみるわ」


「お願いします。魔力コストが少ないものでしたら九号を魔法投射型に改装する時に採用できそうです」


私としては魔導線を長くしてできるだけゴーレムから術者は離れた方がいいと思ってるんだけど、さそり型で魔導線が絡むという問題が指摘されちゃったし、魔導線を狙ってきた敵の報告もあった。魔導線が絡む問題は機体に埋め込むなどをして、さらに一本化していけば解決するだろうけど、そうすると今度は切られたときのリスクが跳ね上がってしまう。


わたしとしてはだから無線化を推し進めたいんだけど、まだ技術力が足りていない。ならさそり型改のアイディアであるゴーレム自体に乗り込むのはいいと思う。二号機でも別の形で実証してきたしね。


「ところで何故十号機は背中や脇で支えているのですか?」

十号機は背中副腕の生えている両側にフックみたいなもので天井から釣り上げられている感じで設置されてさらに両脇に松葉杖の大型版みたいなもので支えている感じで、両足がだるんだるんにされていた。


「はい、製作中や整備中に足腰の関節に自重による負担をかけないようにするための措置です。機体バランスなどを考えて支えておりますので、若干の設計制限がつきますが、それでも恩恵は大きいです」


そうだった。大型ゴーレムは大きすぎて足腰にも負担がかかって、立っているだけで結構な負荷になるんだった。ゴーレムを製作し始めた時からの問題で、そのときはゴーレムを寝かせるようにしていたんだけど、今は吊り下げてるのかー。建物ごと改造してるってことだからジュシュリにいた頃じゃ無理だった手法ね。


「ありがとう、ギグ。工房はかなり順調そうです。あと私の四号機は重装型でなく九号と同じ感じに戻しておいてください。重装だと進撃が負担になるでしょうから」


「わかりました。装甲は外しておきます。武器はどうされますか?」

「九号と同じクロスボウでいいわ。あと左肩に私専用のバリスタつけれる? 装甲なくしたなら付けれそうだけど」


「はい、機体バランスを見なければ分かりませんが、おそらく可能かと」

「じゃあそれでお願いするわ。近接武器は……、持っていても使い方が分からないわね。そうだ、十号機のナックルガードつけれる?」


「あれは九号にも応用できると考えておりましたので、すでに試作品があります。それを姫の四号機に取り付けられるかと」

「あんまり私が敵を殴る事態にはなってほしくないけど、念の為お願いするわ」


「全て了解いたしました。リン姫様」

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