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姫の価値

「私と彼は幼い頃友人でした。お互い大人になってからジュシュリ付近で再会したのです。それ以来わずかながら付き合いがありました」

貴族がなんでガギと子供の頃に友人だったのかは謎だけど、だいたい辻褄は合う。けどなんで貴族の人がこんな辺鄙なゴブリンたちの集落近くにいたんだろう?


「彼は幼い頃の友人である私を頼ってくれたのです。しかしその時の私はすでにジュシュリを支える五神官のリーダーでした。彼はそんな私にあまり迷惑はかけれぬと私の協力をわずかだけしか受けてはくれませんでした」

ガギは後悔の念があるようで表情は曇りっぱなしだ。ゲゴの方を見ると話を聞き入っていて固唾を飲んでいる、という感じだ。

「彼は来た当初は普通だったのですが、しばらく前に、彼は全身が服ごと石灰化するという正体不明の呪い、あるいは病のようなものに侵されてしまったのです。不幸なことに彼の妻や娘も。やられるのは人間のみのようだが人間に近いお前たちはあまり近寄るな、と」


ガギが懐から小さく折りたたまれた紙を取り出す。

「手紙にはこう書かれていました。願わくば妻と娘を助けてやってほしい。それとこの指輪が妻たちの生活を保証してくれるだろう、と。彼は自らの死期を悟り、手紙をしたためたのでしょう」

ということは。私が最初に寝ていた場所の近くにあった、人がうずくまっているように見えた白いのは私の母親か。正直そんな気はしてたんだけど怖いから聞き出せなかったのよね。


「私は彼の消息が途絶えたことで万一があったのでは、と思い、近づくなと言われていた場所へギグとともに行ったのです。そこにリン姫様は居られた。残念ながら彼の妻、リン姫様のお母様はすでに亡くなられていたようです」

両親が亡くなったのに私だけなんで生き残れたんだろう? ある程度年とってないとやばくない呪い、もしくは病気だったとか?


「私は、なぜ一人で生き残れたのでしょう?」

ずっと表情が沈んだままだったガギがこちらを見て、優しげに微笑んだ。

「おそらく、ですが、ご両親の努力のおかげでしょう。この仮面には病や呪いをある程度退ける力も付与されている感じですし、寝ている際に仮面からはみ出る残った足に薬品が塗られていましたので」


「ということは私の右足がないのも呪いか病のせいなのですね」

「お記憶にないのですか? おそらくそうだと思われます。右足のみが石灰化して崩れたのかと」

あ、やば。この体の本当の持ち主じゃないから、来る前の記憶はないんだよね。それを言っても信じてくれないだろうし、その記憶だけがない感じでこのまま乗り切ろう。


ふとゲゴを見ると泣いていた。え? 泣くところあった?

「おいたわしや、リン姫様……」

私の境遇に泣いてくれたようだ。私自身はつい最近この体にきたのでどうということはないんだけど、確かに客観的に見れば幼い子どもが両親と病気で死に別れていた上に片足を失ってるんだしなぁ。


「我ら五神官やハイゴブリンならリン姫様が人間であってもなんとかなります。しかし多くのゴブリンたちはリン姫様、我らの首魁が人間であるというのを受け入れるのにはまだ理解するための時間が足らないかと。問題はそこですし、リン姫様ご自身が自らが人間だとご存知になって、どうなされたいのかが問題なのです」


「何故私を姫と持ち上げたのですか?」

「そうでなければ守れないと考えました」

あーうん、確かに高い地位があるから今の所うまく行ってるってところはあると思う。これが最初から人間であるとバレてるとか地位が低かったりしたらどんな目にあっていたのかわからない。今忠誠を誓ってくれているゲゴだってどうなっていたか……。


「感謝します。おかげで私は皆様に大事にしていただいています。ジュシュリの皆様は私に優しくしてくれています。しかし私が人間であるならジュシュリにずっと留まるのは良くないとは思います。……だけど今の私にはジュシュリを捨てて人間の元へ行くというのは想像がつきません」

実際、足がこのままでは人間が住むところへ行ったとして、このファンタジーっぽい世界では足手まといにしかならないだろうし。

もし私が本当に貴族であっても、逆に貴族だからこそ存在を疎まれる可能性は十分ある。となると何の備えなしでは危険すぎる。ある程度の自衛が出来るようになるのと、私自身の価値を作る必要がありそうだ。幸い魔力が高いらしいし、前の世界の記憶をうまく使えばなんとかなる、かも。


「ありがとうございます、ガギ。貴方のおかげで私はより良く生き延びることができそうです」

本心だ。ガギがいなかったら私はこっちにきてすぐに死んでいたかもしれない。あっちでもたぶん死んでるし、いきなり二回死ぬところだった。


「ジュシュリの長、五神官の主と定めた時点でリン姫様個人にお仕えすると決めておりました。そしていずれ人間の世界へリン姫様を送り出すのだと。ジュシュリをゆりかごとしてお使いください」


「何を勝手な、と言いたいところですが、ガギがそう決めたのなら我ら五神官は従うでしょうし、ゴブリンたちも同様です。時はかかるかと思いますが、皆にリン姫様をちゃんとありのままの姿で認められるよう、ご協力させてください」

私にもしかすると利用価値があるのかもしれないけど、友人の子どもだというだけでずいぶんな厚遇だ。体は子どもだけど中身は大人だった者として、ガギたちに、ジュシュリに報いねば、と思う。


「ありがとう、ガギ、ゲゴ。あなた達の忠誠のおかげで私は立っていけそうです。なんとしてもジュシュリに報いたいので、今後もご協力お願いしていいかしら?」

「もちろんでございます、押し付けてしまったジュシュリの長として、我らを存分にお使いください」

「僭越ながらわたくし、リン姫様ご自身に感情移入してしまいました。わたくしなどではリン姫様の母代わりにはなれませんが、どうか部下としてお使いください」

二人共跪いてそんな事を言う。正直な話、ありがたいんだけど重いなぁとも思う。ともかく頑張らければ。だらだらしたいという思いもあるけど、目標が出来たということで。


話が終わった頃にはお昼になっていた。

とりあえず人払いを解く前に指輪を外して箱ごとガギに管理を頼んだ。目立つし何か事情を知ってるものに見られると面倒なことになりそうだから。

人払いを解くのとほぼ同時に給仕支度のゴブリンたちが入ってきた。支度中に三神官もこの建物へ帰ってきた。


昼食兼すり合わせの時間だ。さっそくギグが報告をくれた。

「リン姫様、なんとかとかいう特殊な杖と義足の件ですが、順調に出来ております。あと一作業すればリン姫様に合わせるため、予定通りお時間をいただいてよろしいでしょうか」

「はい、わかりました。私はお昼からここでゲゴと勉強をする予定ですので、いつでも割り込んでください」

ゴーレムの制御について、思いついていることがあるんだ。そのへんをゲゴと話を詰めたい。

「少々森の奥が荒れているようですので、調査してこようと思います」

グゲからの報告だ。ヒュージクラブとの戦いを見る限り、よっぽどでなければグゲが遅れを取るとは思えないし、否定する理由もないので了承する。

「はい、よろしくお願いします」


そういえばまったく接点がない五神官が一人いた。

「今ゴガは何をされているのですか?」

「はい、以前見つかった遺跡から出土した石版の翻訳を進めております」

おー、そんなのがあったのね。

「何か面白いことが分かりましたか?」

「いえ……、今の所過去に起こった災害の報告というか忠告かな、と言う感じです。かなりやっかいでしてあまり翻訳が進んでおりません、申し訳ありません」

「ああ、別に叱責するつもりではないのです。あまりゴガと接点がなかったのでゴガは何をされているのかな、と」

「はい、わたしはゴガですので通訳や調査などが専門ですので。ですがわたし、ゴガになったばかりでして。先代のゴガにまだ頼ってしまうところもあります」

「先代はまだおられるのですね」

「はい、生前に名の継承を行います。先代ゴガはまだゴガが務まるのでは、と思えるほどピンピンしております」

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