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ラスト・サムライ

作者: 山路東進


今日はとうとう携帯の買い替えに行く。

今まで使っていたのは俗にいうガラパゴス携帯というやつだ。

高校の友達がみんなスマホのなか、私だけが唯一使っていたので友達からは「ラストサムライ」なんて呼ばれたりしていた。『とうとう別れが来ちゃったか…』なんて少し寂しく思ったりしながら車で店に行くまでの道中、私は今までのメールや通話履歴、いろいろ見返していた。


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from:♡みさき♡

sub:修学旅行は絶対一緒の班になろーね!!

 そろそろ修学旅行!!

 うちらみんなで楽しもうね(^^)/


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...こんなメールもあったな、何年も前のやり取りなのに不思議と懐かしさを感じない。高校に入ってからはこの子とは一切連絡を取っていない。というか取るはずがない。今電話してみたらどんな反応をするだろうか、そんなくだらない事を考えながら最後にメモを見返すことにした。

メモのトップには、『大根、ワサビ、ちくわ』と書いてある。おでん、、、?かな。ほとんどの内容がお遣いのものだ。なにか微笑ましい気持ちで動いていた私の指が、ある文を見たとき止まった。


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 ほんとにうぜぇな


 なんでわたしが


 八方美人


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そのほかにもいろいろある。

これらは何かというと、実際に言われた数々の悪口をメモしたものだ。

文字として見返すと淡々としたセリフのようだが、実際はもっとドロドロとしたまとわりついて離れないようなものだった。普通に生きていればこんなことを言われる人はあまりいないと思う、私はいじめられていたのでこれらを挨拶代わりのようにくらっていた。


いじめのきっかけはありふれた理由だった。

中学入学後、カースト制度というようなもののなかで私は中くらいの位置に属していた。口を大きく開けて笑うわけでもなく、周りに強固な見えない壁を張り巡らすわけでもなく、毎日平穏な生活を送っていた。仲の良い友達と3人で集まってテスト勉強をしたり、お泊り会をしたり、それなりに楽しかった。

そう、楽しかった、

でもそれを無下にしたのはきっと自分なのだろうと今でも思う。

ある時、席替えでカーストトップの陽キャ女子と隣の席になり、その子は授業中よく寝ていたので私のノートを借りることが多々あった。やりとりが増えるにつれて休み時間も話すようになり、自然と陽キャの子の友達とも話すようになっていた。

そのときも、元から仲の良かった2人とは変わらずの関係を保っていたはずだ。だけど一つ変わったこと、それはクラス、学校を自分のテリトリーとして認識し始めたことだ。

それがきっと、当時の私は気持ちよかったのだと思う。

そして二年生になった頃、このガラケーを買ってもらった。陽キャ女子たちは携帯を持っていたのでよくメールのやりとりをするようになり、修学旅行の班を一緒に組もうと言われた。そのとき私は元から仲の良かった2人と組むべきだったのだろう、しかし何故か彼女達を劣るような眼で見ていたので、メールの誘いに乗った。

そして班決め当日、班は4人で作らなければならなかったが私達は5人いた。私達と静かでおとなしい子が集まった班以外はすべて決まっていたので、私達は1人だけ離れなければならない。結局、メールで私のことを誘ってきた子が移動することになった。

そのときからだろう、悪口を言われるようになったのは。理由は恐らく班決めの不満の八つ当たりだ。彼女がリーダー的存在だったのでその周りの子も自然と私と距離をとるようになった。

無視もされた、近くを通るときには睨まれた、

いまさら仲の良かった2人にどんな顔をして話しかければよいのかも解らない、そんな八方塞がりな生活を送る羽目になったのは自業自得であると当時の私は納得していた。納得しなければ、耐えることは出来なかった。一人で、最後まで、耐え抜いた。


なぜ悪口をメモしていたのかはあの時の私に聞いてみなければわからない、忘れてしまった。だけど、これを見て私はこれからやっていけると思った。それは自信ではない、もっと不確かな安心からだった。

もう、忘れてていいんだ。

地方の高校に入ってからは特に波風が立つようなことはまだない。その高校は自宅からはかなり遠いところにあるので通学は大変だが、しょうがない。





車のバック音がする、携帯ショップについたようだ。


もうさよならだ。


ありがとう。


...


「お客様、元の携帯のデータを新しくご購入される携帯に引き継ぐことが出来ますがいかがしましょうか?」



「いえ、もう大丈夫です、」





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