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ディザイア

百言主(ひゃっことぬし)さまはなんて言うかな。叱られるかな。


僕たちは今日二回目の本殿前に到着した。

「あぷり」で呼びかけるのは、失礼な気がするし、

折角神社にいるんだし、ここから呼びかける方がいい気がする。


百言主さま。言ノ葉友至(ことのはゆうし)です。少し話を聞いてもらえませんか。


ポコン

『さっきの(やしろ)へ来い』


あ、なんか機嫌が悪そうな気がする……

やっぱりマズかったかなぁ。


(つむぐ)にあっちだよ。と指をさしてから移動する。


一番奥の社の扉は開いていて、百言主さまは中で僕らを待っていた。


「友至よ、いったいなんじゃ。さっき来たばかりではないか。

 泥棒さんがお姫様を盗みに来たところじゃったというに」


え、なんて仰いましたか? 百言主さま。

もしかしてDVDでも見てたんですか? 


「あの、すみません……これ、お土産です。どうぞ。」

買ってきたたこ焼きとお茶のペットボトルを差し出すと


「おう、気が利くではないか、紡の差し金か?」


「いえ、私じゃなく、お兄ちゃんの賄賂です」

「賄賂だなんて、そんなつもりじゃぁ……なくもないけど……」


「まぁ、よいわ。して、何用じゃ。

 なんにせよ、せっかくじゃ、これは頂くとしよう」


百言主さまはたこ焼きのパックを開けて、たこ焼きを頬張る。


「ほふほふ、あつ。じゃがうまいの。

 友至、苦しうない。申すが良い」


「じゃあ、聞いてください。さっきここを出てからの出来事を」


ほっと屋さんに着いてからの事を話すと、百言主さまは、


「店前であの歌を詠み上げれば、度胸がつくかと思っておったのに、

 詠まなんだか、つまらんのぉ」


つまらないって言いながら、笑顔でたこ焼きを食べてるし。


「そんな理由だったんですかっ?

 だいたい、音読しなくても、つぶやきは浮かべられるじゃないですかっ」


「まぁ、なんにせよ、美調(みしらべ)の家の者の事、よう考えてくれたの。

 そこは感謝するぞ、友至よ。紡もな」


あれ、百言主さまにお礼を言われるとは思ってなかった。


「して、その蕎麦と饅頭は美味いのか?」


興味はそこですか? 僕の行動じゃないの?


「いえ、僕はどちらも食べたことはなくて、和歌さんが美味しいって

 そう言ってたんで……」


「友至よ、それは遺憾ぞ。

 おぬしの感想ではないのに、それをつぶやいてはいかん。

 それは『でま』というやつではないか」


「え、だってあの場合はしょうがないじゃないですか」


「それはおぬしの都合であり、おぬしの判断であろう?

 そして実際には知らぬ事柄を、事実と断じた文面でつぶやいた。

 これはのぅ、嘘と言うんじゃ。違うておるか?」


「違ってはいません……」


「納得がいかんと言う顔じゃな。

 切羽詰まっておった故の判断であったのは承知しておるが、

 それは本末転倒と言うのじゃ。そこは理解せい。よいか?」


「はい、スッキリはしませんけど……」


いつにも増して百言主さまの言葉は重い。

きちんと聞かないといけない話だって思うけど……


「のう、友至よ、儂はな、

 おぬしには嘘で人を動かしてほしくないのじゃ。

 それに、自分の都合で人を振り回すようなこともじゃ。

 おぬしもそんな人間になりたいわけではなかろう」


「まぁ、そう言われれば、そうです。」


「うむ、おぬしが願いをこめた

 つぶやきに群がっておる者たちを見て、何を思うた?」


「なんていうか、あさましいっていうんですか、

 意味はよく分かってないけど、そう言うんですよね」


「うむ、そうじゃな。

 己の欲求のために、本質を見ることも忘れ、

 他者の迷惑を顧みない。浅ましいと言える行為よな」


「そうですよね! 前にいる人を押し退けてまでするとか

 そこまでする必要があるとは思えないんですっ!」


「ふぅむ、おぬしの言わんとしている事はわからんでもない。

 じゃがの、彼らの欲求とは何か、それを考えてみよ」


「あの人達の欲求? 

 あの写真をSNSに投稿して、たくさんの人に見てもらって、

 いいね、すごいねって言ってもらう事だって聞きました」


「おそらくそれで合っておろうな。

 それをな、承認欲求というのじゃ。

 おぬしが周囲の人に求めておる物と同じじゃ」


なっ! あれと同じ!?

「いや、百言主さま、それはないですよっ。

 他人を押し退けてまで認められたいだなんて思ってません!」


「いや、同じじゃぞ。強さが違うだけじゃ。

 おぬしだって、学友たちから存在を認めてもらいたいんじゃろう?

 己のつぶやきを浮かべた事で、

 美調の者が喜ぶ姿を見て嬉しく思わんかったかや?」


確かに僕はみんなに見てもらいたい。

僕がどんな人間なのか知ってもらいたい。

それから、みんなと共通の話題で楽しく話したい。

その思いの根っこはあの人たちと同じなのか?


美調家の人達の喜んでる顔を見られたのは嬉しかった。

役に立てたって、誇らしかった。


あの人たちの欲しい物は、

僕にとっての和歌さんの笑顔と同じってこと?


「思うところがあったようじゃの。

 人は誰しも、認められたいと思っておるものじゃ。

 それは人の輪の中で生きる限りなくならん。

 思いの大小はあってもな。それが人という生き物じゃ。

 じゃからの、友至よ、言葉をうまく使うのじゃ。

 言葉なくして、他者に認められることは無いと知れ」


「言葉なくして、他者に認められることは無い……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々ヒートアップしてきました。 ・百言主さまは友至を自分の僕として一般世間にデビューさせようとしていた!? ・「言葉をうまく使うのじゃ」→言葉を使えば違う結果にできた? ・「言葉なくして…
[良い点] 百言主様が「デマ」は良くないと言ったところは同感です。 味を知らなくても呟くことはできるけど、その言葉の影響力を考えると、軽はずみにやってしまうと後々自分が後悔しそうです。 友至くんもその…
[良い点] 含蓄がありますね。 「承認欲求」自体が悪くはない。 それが人というもの。 [一言] >泥棒さんがお姫様を盗みに来たところじゃったというに おおう、百言主様。それは名作ですぞ。
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