ラッシュ
「紡、いいこと閃いたっ! こういうのどうかなっ」
僕は思いついた文をスマホに入力して、紡に送る。
それを見た紡は、大笑いをし始めた。
「アハハッ、お兄ちゃんやるじゃん!
面白い事考えたね。見直しちゃったよ。
うん、面白いね、あの人も笑うんじゃないかな」
百言主さまが笑ってる様子は想像できるけどさ
あの人呼ばわりはダメじゃないか。
でも、紡の評価は当てになるからな。
内容はOKとして、場所が問題だよね。
ピヨ
『これさ、小さ目にしたらもっと面白いと思うよ』
『なるほど。近寄らないと撮れないもんな』
『どこにするの?』
『本殿の前なら、今よりは迷惑にならなんじゃないかな』
『参道の真ん中とか?』
『そう思ってた。全部で三つ考えたんだけど、どう思う?』
最初の文に続いて二つ目と三つ目を送ってみた。
ピヨ
『いじわるだねぇ。全部つなげちゃえば?』
「よし、ちょっと行ってくる。紡はどうする?」
「行くに決まってるじゃん」
僕らはコーヒー屋を出て、まだ混雑しているほっと屋さんに寄らず、
本殿を目指して歩き出す。
つぶやきに関して質問してくる人がしつこいからか、
美調さんのお父さんが店頭に出て応対している。というより
文句を言っている。
「だぁかぁらぁっ、さっきから何度も言うように、
理由なんて分からないって言ってるでしょうが!」
あんなに大きな声で言われても食い下がる人って、
人の話を聞かないのかな。
人の言ってる事を信じないってことなのか?
「さてさて、お兄ちゃん。どの辺りにするの?」
本殿から、20mほどの距離で、参拝者が途切れている。
あの辺りが理想かな。
「周りの『迷惑』を考えると、人の途切れた辺りにするのがいいかな」
「周りの『迷惑』ね。いいんじゃない。お手並み拝見と行きましょう」
紡のやつ、楽しそうだな。ま、僕も楽しいんだけど。
高さは地上3m。バスケットボールのゴールくらい。
大きさは50cm×50cm。
さぁ、みんなこの写真をどうするかな?
ピロリン
『周りの迷惑になる行動は慎もう
人の振り見て我が振り直せ。
周りの迷惑を考えないで写真を撮っていたのは私です』
紡は口を押えて笑いを堪えている。
後ろの方が騒がしくなってきた。
ある程度距離があった方が気付き易いよね。
不自然にならないように参道の端に移動しよう。
「始まったね」
紡の言う通り、つぶやきに人が殺到している。
みんなスマホを持って写真を撮っている。
物珍しさなんだろうけど、凄いな、なんていうんだろ。
池の鯉に餌を投げた時みたいだ。
それとも鳩の群れにポップコーンを投げた時かな。
そんなに写真が撮りたいものなんだろうか。
僕にはわからないや。
「なぁ、紡。あそこまでして写真欲しいものなのか?」
素直に聞いてみるのが一番だろう。
「うーんとね、お兄ちゃんには解り辛いかもしれないけど、
自分のつぶやいた内容に、いいねって言われたり、
驚かれたり、広まっていくのはね、物凄く嬉しいんだよ。
自分が認められてるっていう感じって言ったらわかる?」
「それはわかる。と思う。
僕は美調さんちの人達に、認めて貰えたって思えて、
すごく嬉しかったというか、誇らしかったというか……」
「あれは見た人が驚く内容のつぶやきになるからね。
上げたら反響が大きいのがわかるから、どうしても写真撮りたいんだよ」
「でもさ、あそこに浮かんでる文の内容は見てないのかな」
「話題になるって考えが先になってるから、きっと読んでないよ」
写真を撮った人たちはその場でさらにスマホを操作している。
投稿してるのかな。
つぶやきに近付きたい人が後ろから押し寄せてきてるのに、
それには気付いてないのかな。移動しないのかな。
あぁ、押し退けられた! した方もされた方もすごいな。
押し退けた人も写真を撮ったら、その場で立ち止まってる。
邪魔だから人をどかしたのに、自分も邪魔になってるとは思ってないのか。
なんか、すごく嫌なものを見ちゃったな。
「あそこまでいくと、なんか可哀想に思えてくる」
紡の言う通りだ。
あれの写真を投稿して、人から認められることはないと思うんだけど。
「なんか悪い事しちゃったような気がするよ」
「お兄ちゃんが気に病む必要はないと思うけど?
今日の事をどう考えるかは、その人次第でしょ。
それに甘酒屋さんは、落ち着いたみたいだよ」
紡の言葉に振り替えると、ほっと屋さんの前はだいぶ人が減っていた。
大丈夫だったかな。あとで寄ってみようか。
僕のつぶやきには、相変わらず次から次へと人が群がっている。
それにしても、この混雑はどうしようかな。
このまま放置して帰るのは無責任すぎる気がするなぁ。
「このままにするのも、すぐに消すのも、なんか違う気がする。
どうしようかなぁ…… そうだ、こうなったら
百言主さまに聞いてみようっ! これが本当の困った時の神頼みだ」
「それ笑えないから」
紡の声と視線が冷たい……
うまいこと言ったと思ったのに。
せめて、手土産を用意して行くか。
あそこの屋台でたこ焼きを買って行こう。
お好み焼きの方がいいかな……
百『読んでくれた皆に感謝をするぞ。
全国約13人の儂のファンの皆、待たせたのう。
きっと次回は儂の出番じゃからな』




