バズ
なんか凄くもったいないことをした気分だ……
あ、和歌さんが出てきた。見てる見てる。
ご両親も出てきた。お店の前で指さしてはしゃいでるし。
そりゃ、周りも騒ぎになるよな。
かなりの人数が写真を撮ってるな。
「なぁ、紡、結構な人数が写真撮ってるよな。
あの人達のうち、どのくらいの人がSNSに上げると思う?」
「ほとんど全員じゃない?
1時間もしたら、結構リツイートもされるだろうし
夜には凄いことになってると思うよ」
紡はなんだか呪文みたいな名前の、
絶対にコーヒーではない何かを飲みながら、冷静に分析している。
「あれ、いつ消したらいいかなと思ってさ。
あんまり長くない方がいいんだろう?」
「んー。どうだろね。和歌さんと相談して決めたら?」
あれ、なんかさっきより随分となげやりな答えじゃないか。
そのくせそのニヤけた顔はなんだよっ。
「ツイートの数がどうなるかは、様子見ないと分かんないじゃない。
お店の方は大変そうだけどね」
え? うわっ! お客さんの数と、写真を撮る人の数が増えすぎて
とんでもないことになってるじゃないか!!
元旦より混んでるように思える。
参道の人の流れが完全に止まってるぞ。
あれ、大丈夫なのか? 集まりすぎてないか?
その人だかりの前でお客さんに声をかけている和歌さんも
もみくしゃになってるじゃないか。
「あー、あー、あれじゃ晴れ着に甘酒こぼされても不思議じゃないよね」
そうだよな、それはあり得る。なんとか……
そうだ、和歌さん、晴れ着が汚れる前に着替えてきて。
ポコン
読んでるかな? あ、引っ込んだ。よかった通じた。
それにしても、本当にとんでもない事になってるぞ。
これこのままじゃいけない気がするけど、
宣伝の事を考えたら、まだ消すのはなぁ……
そっか! 消すんじゃなくて増やしちゃえばいいんだっ!
ピリリリリ
ん? 電話? 美調和歌って表示されてるじゃないか。
僕のスマホに女の子から電話がっ!
「も、もしもひ……もしもし、言ノ葉です。和歌さん?」
『言ノ葉くん、ありがとうね。早速お礼をいう事になったね。
おかげで大事な振袖を汚さないで済んだよ』
「どういたしまして。それでね和歌さん、教えて欲しい事があるんだけど」
『なにかな?』
「この参道に美味しい物があるお店って、他にあるかな?」
『参道の入り口のお蕎麦屋さんは美味しいよ。
言ノ葉くんお腹空いたの?』
「あ、あそこね。分かるよ。他には?」
『あれ? 食べに行くんじゃないの?
あとは、ウチの左手の5軒先の
「ふくふく堂」のおまんじゅうとか美味しいよ。
「わかった、ありがとう。
お店の前の大混雑を減らせないか、ちょっと試してみるね
紡、ちょっとの間、電話代わって」
『え、何する気なの?』
紡にスマホを渡してから、目を瞑って蕎麦屋さんの看板を思い出す。
「お兄ちゃんは、ツイートを増やすつもりみたい」
片手をあげて、紡に答えつつ、人差し指を立てて黙っていてもらう。
よし、思い浮かべた。
ピロリン
『ここの蕎麦はうまいなぁ』
次、ふくふく堂はおまんじゅう。
ピロリン
『饅頭が美味しいなぁ』
よし、これで少しは分散するだろう。
和歌さんに説明をしなきゃ。
「じゃあ、和歌さん、お兄ちゃんが説明のメッセ送るみたいだから
それを読んでくださいね。ほら、あんまり喋れないから。じゃあ」
紡は勝手に通話を切ってしまった。
「というわけで、ここで説明して周りに聞かれたら意味ないでしょ。
スマホでも、あぷりでも好きな方で説明送ってね」
紡のいう通りなのに、この悔しさはなんなんだ。
意地の悪い笑顔だな、和歌さんとはえらい違いだよっ
「わかったよっ、貸せよっ」
スマホを奪い返すように受け取り、トークアプリを開く。
ともだちの欄に美調和歌さんの名前がある。
いままで、家族の名前しか無かったのに……
事情を説明する文章を打ち込む指が震えてる。
緊張してきてる……
やっとの思いで送信し終えた、3秒後には返信されてくる。
なにこの速さ!
しかもなんだか可愛らしいスタンプまで。
ペンギンがお辞儀してるよ。紡の変な猫とは大違いだな。
お礼を言われるのってなんか嬉しいものなんだなぁ。
言葉で聞くのもそうだけど、
こうして文字で残ってると何度も読めるからかな。
すごく誇らしい気持ちになる。
こんな風に意識したことなかったもんなぁ。
「なぁ紡。お礼を言われるのって、嬉しいな」
「やっとわかったみたいだね。
いまならお兄ちゃんも、気持ちの籠ったお礼が言えそうだね。
誰にお礼を言いたい?」
「まずは和歌さん。和歌さんのお礼の言葉が教えてくれたから。
次は紡だ。ホントありがとうな。色々教えてくれて」
「私への感謝は、後回しでいいよ。なんか形のあるものでね。
それより先に感謝しなきゃいけない相手がいるよね?」
「あぁ、そうだな。百言主さまにも感謝してるよ。
こんなすご……ビシッ!」
「だから、ここで言っちゃダメだって!」
紡のチョップは僕の喉をキレイに捉えた。
読んでくださったみなさん、どうもありがとう!