セキュリティ
『皆、よう来てくれた。感謝するぞ。
ここのところ友至が頑張っておるお蔭でな、儂の出番が無いのじゃ。
なのでせめて、皆に礼をと思うてな。甘酒でも飲むがよい。旨いぞ。
なに? 甘酒より『たぴおかみるくてぃ』がよいじゃと?
たわけが! これは儂のじゃから、やらんぞ。
では今回の友至の成長を見届けてやってくれ。よしなに頼む』
「今度はなんだ? 紡」
皆さんの部屋を回ってさっきの部屋に戻ってきたところで、
紡がまた手を挙げた。
「これは提案というより、美調さん一家にお願いです。
見てもらったように、あのツイートのアカウント名は、
『百言の僕』になっています。
これがお兄ちゃんだと知られないようにして欲しいんです」
あっ! それ物凄く大事なことっ!
バレたりしたら怖すぎる! もう外に出られない!
一気に不安になってきたぞ。どうする?
止めとくか?
「そうだよねぇ。言ノ葉くんだって知られたら大変だよねぇ」
そうそう、和歌さん、どうしたらいいと思いますか。
なんとかバレずに済む方法は……
「それならですね、このふきだし関係の話は、
理由が分からないって事にしておいて貰えば、
百言主さまがつぶやいたって事にできるんじゃないかな」
ただの責任転嫁だけど、神様のしたことなら、
それ以上は追及されないで済むんじゃないかな。
「そうねぇ。普通に考えれば神様のなさった事だと
思うかもしれないわねぇ」
「技術的に考えても、こんなのまだありませんから、
そういう専門家とか、飛び付いて来そうですよね。
だったら、甘酒を奉納したら、知らないうちにこうなった。
そういうストーリーにしておくのが一番平和なんじゃないかなぁ」
紡の意見の前半は、物凄く怖いけれど、後半はその通りだよな。
「紡、お前凄いな。天才かっ!?」
「お兄ちゃんの意見に乗っかっただけだけど?」
「それなら俺達も答えに困らないで済むな。
知らねぇって言っとけば良いんだもんな!
こっちが聞きたいって言ってみるかっ」
「百言主さまもそのくらいでは気分を害されたりはしないでしょう」
「神秘的なイタズラってことになるといいよね」
責任転嫁作戦は好評みたいだな。
紡はどうなんだろ?
そのサムズアップはOKってことだな?
「あとは、ツイートが出る瞬間にお兄ちゃんが目撃されないことかな」
「そうだよな、僕が見られちゃったら、バレる可能性があるもんな」
「ねぇ、言ノ葉くん。あのツイートを浮かべるのって、
離れた所とかにはできないのかな?」
そうか、お店の前でつぶやかないで済めばいいのか。
昨日は、見ていた場所に出たけど、確かに目の前じゃなかった。
「試してみたいな。
じゃあ、部屋の外からこの部屋の中につぶやいてみますね」
この校長室みたいな客間から出て、廊下から室内をイメージしてと
あの拝殿の写真ならイメージしやすいか。
本物じゃなくて、モノクロの写真をイメージしてっと。
あぁ、ここの甘酒はいつも美味しいなぁ。
ピロリン
『ここの甘酒はいつもおいしいなぁ』
室内に歓声が上がったということは成功かな?
「うまくいきました?」
ドアを開けて聞いてみると、全員がサムズアップって、
アメリカンな甘酒屋さんだなぁ。
「これなら目撃されずにツイートできるね、言ノ葉くん!
ぜひお店にこれを浮かべて下さい。お願いしますっ!」
振袖美人に笑顔で頼まれてしまったら、はい。としか答えられないよ。
「もちろんやります。百言主さまからの課題でもありますし、
こんなに、頼られるなんて嬉しいですから」
そう、誰かに頼られるってすごく嬉しい!
こんな事今までなかったしっ。
「ところで、どこにふきだしを浮かべたらいいですか?
これ、触ると消せちゃうんですよ」
今出したふきだしをスライドして消して見せる。
「そうだなぁ、これだと低い位置じゃあ、すぐに消されちまうなぁ」
「いっそ屋根の上とか?」
「あまり高いと目につかないんじゃないかしら」
美調家の皆さんは思い思いに意見を言い合っている。
なんか楽しそうだなぁ。
ああいう会話をしている姿って憧れなんだよなぁ。
「言ノ葉くんはどう思う?」
和歌さんの言葉に僕は驚いてしまった。
え? 僕も入ってたの?
「えっと、ですね、表の看板の上に並んでいるのがいいのかなぁ」
「そうか、写真を撮るなら、看板と一緒に写るのがいいよね!」
和歌さんは、本当に嬉しそうに笑うんだなぁ。
お父さんもお婆さんも賛成してくれた。なんか嬉しいなぁ。
「よし、じゃあ、現地を見に行こう。こっそりとね」
おっとそうだ。僕は目立っちゃいけないんだ。
紡の提案は本当に冴えてるな。
「あ、私も見たい!」
和歌さんの意見はもっともだ。
自分のウチの看板に不思議な看板乗っけるんだから。
そんな瞬間は見たいに決まってる。
「申し訳ないんですけど、和歌さんは遠慮して下さい」
また、紡が訳のわからないこといいだした。
それはあんまりじゃないか、酷いぞ!
『どうであったかな。皆の衆。ちっとはあやつも成長しておるじゃろう。
これも儂の「あぷり」のおかげじゃな。
それでじゃな、この作者にも成長をさせたいんじゃが、それには、
皆の感想が一番効くんじゃ。ちゃちゃっと書いてやってくれんかのぅ』