ミーティング
「え?」
ふたつの返事に驚いて振り向くと、お婆さんが入ってきていた。
髪が綺麗なほど真っ白になっているが、なんだろう、
お婆ちゃんと呼んじゃいけなさそうな雰囲気だ。
気品ていうんだろうか……
「いらっしゃい。和歌のお友達かい?」
とても優しい声に緊張が解かれていく気がした。
「お邪魔しています。和歌さんの同級生、言ノ葉友至と申します。
これは妹の紡です。
訳あって、急にお邪魔することになりました」
「これはご丁寧に。私は和歌の祖母で、美調歌子です。
ようこそ御出で下さいました。ゆっくりなさってね」
「ありがとうございます。あの、お尋ねしてもいいでしょうか。」
「あら、私に? なにかしら?」
「この写真についてお話を聞かせて頂きたいんです」
「この写真は、ここに店を開いた時に、ご挨拶のお参りして
その時に撮ったものなの。50年前ね」
「50年… この拝殿は変わってないんですね」
「そうねぇ、百言主さまのご利益かしらね」
「寝てたらしいですよ。500年も」
「あらまぁ、そんなに寝てらしたの?
神様にはそうでもないのかしらね。うふふ」
「ちょっとお兄ちゃん! こっちきて座って」
「なんだよ、せっかくお話を聞いてるのに」
なにをそんなに驚いてるんだか、紡のやつ。
「どうしちゃったの? いや、いいんだけどさ、
初対面の人とあんなにスラスラ会話してるなんて、
今、何かメッセでも来たの?」
ん? 言われてみれば、普通に話してた……
「そうだな。緊張してないや… どうしたんだろう?」
「じゃあ、ごゆっくり。和歌、お茶の用意をね」
「あ、お婆ちゃんにも、言ノ葉くんの話を聞いてもらわないといけないの。
あのね、百言主さまのお告げなの」
お婆さんは、身じろぎひとつしないで、何かを考えているみたいだ。
「そう、わかったわ」
それだけ言うとお婆さんは、僕たちの反対側のソファにゆっくりと座った。
美調さんはお茶の用意をしてくると言って、部屋を出て行ってしまった。
「妹がお話を遮ってしまってすみません」
「あっ! ごめんなさいっ。」
「かまいませんよ。紡さんと仰ったわね。あなたの驚き様は、
お兄さんの様子がいつもと違ったからなのでしょう?」
「はい、そうなんです。兄は人見知りで、口下手なんですけど、
急に、話はじめたし、普段失礼なことばかり言うもんで、
失礼なことを言う前に止めないとって思ってしまって」
「あらまぁ。でもね、本当に失礼な人なら、
百言主さまのお使いには選ばれないと思うわよ、ふふっ」
この方は全部わかっているんだろうか。
それに僕のことを失礼じゃないって……
「お待たせしたな、言ノ葉兄弟。」
お父さん現る。改めてみるとすごく逞しい体をしてらっしゃる。
座ったソファが、悲鳴をあげてるんじゃないかな。
「すぐにでも和歌の言っていた話を聞きたいところなんだが、
その前にどうしても確認したいことがある。兄の方、
友至君といったか?」
「はい、言ノ葉友至です」
「和歌との関係は?」
お父さんの視線はやっぱりもの凄く刺さるんですけど…
「はい? 関係と言われても、今日初めて話しました。
学校は同じらしいのですが、僕は美調さんを知らなくてですね…」
そういうことかぁ! 美調さんが彼氏を連れてきたと思われてたのかっ!
「そうか! いや、悪かったな、和歌に変な虫がついたらと思うとな。
いあぁ、すまんスマン。はっはっはっっ」
豪快な人なのかな?
これもし、本当にお付き合いしてますってことだったら、
いったいどうなっていたんだろう・・・
「改めて挨拶しよう、和歌の父、美調詠唱と言う。まぁ、よろしく」
お父さんは膝に手をついて頭を下げてくれた。
こっちの方がなんだか、申し訳ないんですけど…
「あ、いいぇ、お気になさらずに、どうか…」
「そうか、じゃあ遠慮なく。それでだな、
和歌の言ってた話なんだけどな」
「これ、詠唱。和歌が戻ってきてから始めるべきでしょう」
「そりゃ、母さんの言う通りだけど、
初対面で何話せばいいか分からんしよ」
「それはあちらも同じでしょう。
お客様に失礼だと思わないのですか、あなたは」
なんだか、僕と紡の関係を見ているようだ。
親近感てこういうのを言うのかな。
「あの、気にしないで下さい。
僕も人見知りで、引っ込み思案で、人と話すの苦手なので、
こういう時に何を話していいのか分からないんです」
「そうなのか? そうは見えないんだがな」
お父さんは不思議そうな顔をしているけれど、
その理由が、僕にはわかりませんが?
お婆さんは優しそうに笑っている。微笑んでいるっていうのかな。
「毎年、初詣でお願いしてたのは、
人見知りと引っ込み思案を直したいってことなんですから」
「なら叶ってるんじゃないか?」
は? どういうことですか?
さも当然という感じで言われてますが、お父さん。
おっしゃってる意味がわかりませんよ?