アプリシエイト
1月2日 午前10時
僕は紡と共に、というか連れられて、百言主神社の鳥居をくぐった。
元日に比べると参拝者は減ってるかな。
そういえば、2日に来るのは初めてだ。
「さて、お兄ちゃん、昨日はどうやってお参りしたの?
同じようにしないと、来てもらえないかも知れないよ」
「どうって、普通にお参りしただけなんだよ。
そしたら、目の前に来てたんだ。特別な事とかはしてないんだよ」
「来てくれるといいなぁ。私も会いたいなぁ」
紡は楽しそうだ。百言主さまに会えるかもっていう期待でなのかな。
もう拝殿が目の前だ。昨日より全然早いや。
まずは二礼。おはようございます。
次いで二拍手。百言主さまいらっしゃいますか。
百言主さま、言ノ葉友至です。昨日のお礼に参りました。
昨日はあまりの事で、ビックリしてしまって、
お礼も言わず失礼しました。
すごいアプリをくださって、ありがとうございました。
「おう、友至ではないか。お礼参りに来るとは感心じゃ。
苦しゅうない。普段通りの言葉で話すがよいぞ」
「あ!ひゃっ……」
危ない危ない。紡に言われてなければ、
百言主さまって言っちゃうところだった。
「ねぇ! お兄ちゃんっ! もしかして、もしかしたの!?」
紡の顔は興奮しすぎだろうってくらいだ。
僕は黙って、コクコクと頷いて、その通りだと伝える。
「ほう、友至の妹か。よう連れてきた。
どれ、一番奥の社へ来るがよい」
百言主さまはすたすたと歩いて行く。
「紡、一番奥の社へ来いってさ。あと、
お前のことも、よく連れてきたって言ってたから、
会ってくれると思うよ」
「やったあぁぁっ!
うれしいぃ! お兄ちゃんナイス!」
文字通り飛び上がって喜ぶのはいいが、
注目されてるじゃないか… さっさと移動しよう。
一番奥の社へ行こう。
「あの・・・おはようございます」
僕たちに向けられたのかは分からない。
女性の挨拶が聞こえ、声の主に振り向いた時、
僕の世界は止まってしまった。
なんて綺麗なんだ・・・
僕の視界を奪っていったのは、
色鮮やかな赤地に銀の刺繍の施された振袖姿の女性。
白いふわっとしたショールを巻いて、
髪をあげているその姿に思わず感動してしまった。
ピロリン
『なんて綺麗なんだ』
ふきだしが、僕と振袖の女性の間に浮かぶ。
「うわぁっぁっ、ど、どう、どうしよう、紡ぅ!」
「もうバカ兄っ! なにやってんのよっ!」
僕はもうなんにも考えられないっ!
紡は、さっとふきだしをスライドして消して、
僕と、振袖さんの手を引っ張って、駆け出す。
「えっ!? あの、ちょっとっ、えぇぇ~?」
ごめんなさい、変なことに巻き込んで!
一気に一番奥の社まで走ってしまった。
そんな僕らの姿を見て、大笑いしている方がいらっしゃる…
「かっかっか。おぬしは面白いのう。
バカ兄とは、よう言うたものじゃ。かっかっか。」
「百言主さま! 笑いごとじゃないですよ。
人の気も知らないで……」
拝殿と比べたら、こじんまりとした社の階段に座る、
衣装は立派な、性別不明の10歳児といった外見の御祭神様。
「「えぇっ! 百言主さま!?」」
女性ふたりの声は見事にぴったりだな。
紡はぴょんぴょん飛び跳ねてるし、
振袖さんは固まってる。無理もないよな。
この状況、いったい、どうしたらいいんだろう。
神様、助けてください!
「ほんに、おぬしを見ていると退屈せんわい。
これ、友至の妹。言ノ葉紡と言うたか。
よう、友至を連れて参った。『ないす』じゃ」
「やった! 百言主さまに褒められた!
ありがとうございます! しかもナイスだなんて。
さすが言葉の神様です。英語も使うんですね」
「お、賢しい娘じゃな。よいな。本当に友至の妹か?
舶来の言葉といえ、言葉ぞ。『おふこーす』じゃ
そういえば、『バカ兄』には笑わせてもろうたぞ。
まさに『バカ兄』じゃからな。ふぁっはっはっ」
百言主さまと紡はふたりして大笑いしてるし…
「ひどい……」
「あぁ、愉快ゆかい。して娘、そなたは、誰じゃ?」
あぁ! そうだった。あなたはどなたですか?
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