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無能冒険者、立ち向かう


 俺が合図をすると、ラビーニャが閃光弾を宙に打ち上げる。


 光は影を包み込み、その体を溶かし始める。

 しかし、影は霧になるものの、すぐにその場で再生し始める。


「なに?」

「まさか、効きませんの!?」

「前とは違う。ここからなら何度でも蘇られさせる」


 アラブットは頬杖をつきながらニタリと笑う。その笑顔に腹が立つ。

「くそ、その顔を早くゆがめてやるよ」

「影に喰われてしまえ、それで私の力となる」


 アラブットが手を払うと影の魔物達が雄たけびを上げる。

 俺たちは部屋の中心に集まり、迎撃態勢をとる。

 

 影をひとまとめにしてこれ以上魔物を生ませないようにしたのだ。

 密集している分、広範囲の魔法に弱いが、おそらく相手はそう言ったものを使わない。

 それに何かあってもこいつらなら反応できる。

 影のスキルは光に弱いのはわかっている


「まとまるとは愚策ですね、『影喰い』ッ!」

 

 まとまった俺たちの影から牙が生え始める。

 広範囲はないと踏んでいたが、読み違えたか。


「セーラっ!」

「わかってますわっ! 光させ、『閃光ライトニング』」


 咄嗟にセーラが地面に向かって光を放つ。

 すると、俺たちの影は一瞬、その姿を失い、牙の形を無くしてしまうのだ。


「レズバ! ポチ太! 目の前の魔物を吹き飛ばせ!」

「わふっ!」

「あいよー! 荒糸綴り!」


 レズバの糸は網となり、影の魔物をひとまとめに括りつけ、ポチ太の叫びによって起こった風がそれを吹き飛ばす。

 

「学ばない奴らめ、実体化していない影には物理攻撃は無効だ」

「だからすり抜けられる、そうだろう?」


 アラブットのつぶやきに、俺はニヤリと口角を上げる。


「やれ、ラビーニャ」

「――――――七式、絶空」


 剣を鞘に納めたラビーニャがその両の眼でアラブットを捉える。

 そして静かに、小さくそれを呟くと、一瞬にして姿を消した。いや、駆け出したのだ。


 風に乗り、影をすり抜けていく彼女の姿はもはや誰にもとらえられない。


 残像すら残さない。残るのは彼女が通ったことによって起こる空気の震え、衝撃波のみである。まるで、その場を空気を絶ったような跡が残る。故に、この技の名は絶空と言う。


 神速で近づいたラビーニャは、目にもとまらぬ速さで剣を抜く。

 銀の軌跡すら見せない抜刀。


 だけれども、その刃はアラブットの掌によって受け止められていたのだ。


「……なかなかの太刀筋ですね。ですが、このアラブットには通じない」

「兄さん、しくじりました」


 ラビーニャの額から一滴、汗が落ちる。

 その顔は恐怖に歪み、眉をひそめているようだった。


 それもそのはずである。

 アラブットの影が彼女の体を拘束し始めていたからである。

 

 実態を持ったそれは足に巻き付き、どんどんと上へと動いていく。

 それを切ろうにも、剣はアラブットに握られ動かない。


「ラビーニャ!」

「兄さん、逃げてください」


 彼女はにっこりと笑ってそういうが、そんなわけにもいかない。

 ラビーニャを置いて逃げることは、俺の生きていた意味を、唯一の肉親を失ってしまうことになるのだ。


 俺はポチ太にまたがり、玉座へと急襲する。

 そして閃光弾を片手に、アラブットへと飛びかかった。


「まぬけな、怒りで我を忘れたか」


 アラブットは半笑いを浮かべながら、俺の剣を受け止める。

 何度も打ち付けるも、その場を一歩も動くことはない。

 閃光弾を間に投げ、影を消し去ろうとしても、それは消えることなく、その場にとどまり続けるのだ。


「私の影は特別製だ。 そんなちんけな光で消えることはない。」

「ラビーニャから離れろ!」

「じゃあ、こちらも言わせてもらおうか、セーラから離れろ。 彼女は私のものになる」


 彼の言葉に、俺は腹は煮えくり回る。


「道具みたいに言うな!」

「魔王になるということはそういうことだ」

「お前は先代の魔王を何だと思っているんだ!」

「ただの、甘ちゃんですよ。 だから死んだ。 あなたもすぐ同じようになる」


「その手始めにまずは――――――」


 アラブットの腕が影をまとい始める。それは拷問器具、ギロチンの形を模す。

 俺は何をするかわかって、即座にラビーニャとアラブットの間に入ろうとした。だけれども、俺の足にもまた、影がまとわりついた。


 レズバが糸を放っていた。

 サムトもまた水を放っていた。


 ポチ太も爪を振りかざし、風を呼び起こしていた。


 だけれども、どれも間に合ない。


 セーラが瞼をぎゅっとつむったのが、視界の端で見えた。


 俺の手は、届かなかった。



「……ラビーニャ」

「兄さん、私は兄さんにあえて、本当に幸せでした」


 ギロチンが、彼女の体を切り裂く。

 鮮血が宙に飛びちり、俺の頬へと降りかかる。


 薄れた赤が頬に道を作り、地面に落ちた。


「あぁ、あああああああああああああ!」


 誰の口からでもない慟哭がやけに耳に付く。

 紛れもない俺の口から出ていたのものだったが、誰かの声に聞こえた。


 そんな中、俺の脳内で声が聞こえた。








――――――技能、<魔物化>を使用しますか?

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