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竜種、変身をする


「さてと、どこから話したものかのう」


 竜種十二月に含まれるドラゴン、エリザベスはアラブット撃退後、約一週間眠りについていた。

 何かを食べることもせず、喋りもせず、全てを体力の回復のために使っているみたいだった。そのためか、包帯を変えるたびに傷は小さくなり、そして目覚めたときにはついに消えてしまっていた。


 目覚めたエリザベスはパチパチと瞬きをしながら、一言飯をくれないかと呟いた。

 そのため、彼女の目の前にはラビーニャ特製のご馳走が溢れていた。

 彼女がひとしきり平らげた後、舌なめずりしているところに今現在、至っている。


「どうしてアラブットに追われていたんだ?」

「それはじゃのう、魔王の殺害にあやつらの関与を疑っているからじゃ」

「お父様の殺害にっ!?」


 セーラは目を丸くしてエリザベスに食って掛かる。その肩をラビーニャがそっと抑えていた。

 エリザベスはふむと、頷いて見せる。


「魔王の娘よ、不思議には思わなかったか? 今まで攻略されることのなかった魔王城がここにきて急に破られたことを。そこに至るまでに魔王幹部がほとんど殺されていないことを」

「そ、それは確かにそうではありますが……。お父様は仲間や部下を疑うのはよくないと」

「奴はそういうところが甘かったのだ。わらわはそんなところが甘いとなんども言ってたいたのだが。死ぬまで治らなかったか」

「……セーラ」


 ふるふると震えている彼女はラビーニャの手によって飛びかかる寸でのところで止まっていた。

 敬愛する父を敬愛している彼女のことだ、怒るのも無理はないだろう。

 だから、今はそれを止めてくれているラビーニャの存在がありがたかった。


「それで、エリザベスはそれを確かめに行ったのか?」

「そうじゃ、それでわらわは確信を得た。奴らは力を手に入れるために勇者達に力を貸したのだ」


 俺の頭が重くなる。悪評しか聞かない勇者たちだけれど、そこまで悪事に手を染めていたのか。

 それだから、何も事情を知らずに魔王を討伐したのだろう。

 魔物が暴れたり、人間を襲ったりするから勘違いすることがあるだろうが、ここまで人間が平和を謳歌しているのは少なからず前魔王の力があったおかげなのだ。

 俺は自身の胸の中にめらめらと燃えるものを感じる。


「また、勇者パーティーか。 あいつら魔物にまで通じていたか」

「どちらからそれを持ち掛けたのは定かではないが、おそらく密約でもあったのだろう。 その証拠に、魔王の死体はギルドには上がらず、魔王幹部たちは魔王の力を一部継承しておる。 状況証拠からして全くの黒だったのじゃ。 だから、わらわはアラブットに問い詰めた。 そして、図星だったのかわらわは襲われたのじゃ」

「竜種十二月にまで匹敵する力を手に入れたって考えると恐ろしいな」


 ――――――確かに恐ろしい。

 それでも、セーラとラビーニャのことを思うと、とても許すことはできない。

 それぞれ勇者パーティーに、魔王幹部に苦しまされたのだ。

 それにそれはこれからも継続するかもれない。

 俺は、アラブットがセーラを連れ去ろうとしていたことを思い出していた。


 エリザベスは、縦長の黒目で俺を見つめていた。


「おそらく、魔王の体の一部を体内に取り込んだのじゃ」

「取り込んだのか……」

「おぞましいことじゃ、同族食いなどオークでもせぬことじゃ」

「お父様を……」


「わらわの見立てでは体を取り込んだのは六人いる魔王幹部のうち四人、残りの二人はおそらく消されておる」

「そいつらはみな、魔王の座を狙っているってことか」

「そうじゃの、そうかもしれぬな。アラブット以外はまだ会っておらぬから真意が分からぬ。じゃが、姦計に手を貸したということはそういうことなのじゃろう」


 エリザベスの話を聞いているうちに俺は心に決めていた。

 それは彼女を守るため、そして彼女たちに未来を創るため、それだけであった。

 なくなりそうな道をつないでくれた彼女たちに対する恩返し、俺にできること、それを俺は口にする。


「……よし、セーラ。倒すべき相手が増えたな」

「えっ、ウォレン、なんで……」

「魔王を目指すんだろう、だとすれば避けては通れない敵だ」


 そして彼女を守るため、そんなことは恥ずかしくて言うことはできなかったが、それでもセーラの顔は赤くなっていたし、俺の顔も多分、赤くなっていた。

 そんなやり取りをラビーニャはジトっとした目つきで見ていたが、しかし、何も小言は何も言わなかった。


「う……、ウォレン」

「当たり前のことだ、今はお前の力になる」


 ルビーの瞳は潤み、煌めいて見えた。そして何か言おうとしていた。

 手は宙をもがき、心の動きが表れていた。そして喉から嗚咽が漏れた。

 だけど、俺たちにはそれで充分だった。

 それだけで俺たちには伝わっていた。

 

 その証拠に振り返った先の仲間たちは、にっこりとほほ笑んでいた。

 目の前のエリザベスまでも、満足そうに頷いていた。


「兄さんが力になるというのなら、私も渋々助けてあげますよ」

「主様のためなら、我も力になるのは当たり前ですな」

「自分、不器用なので……」

「レズバもあるじのために頑張るね」


 そして、そこで空気が変わる。

 エリザベスの爬虫類の瞳が見開かれていた。

 そして、ポツリととんでもないことを漏らすのだ。


「…………どうしたエリザベス」

「その子、可愛くない?」

「「「「えっ」」」」


 エリザベスの眼は彼女――――――レズバを捉えていた。

 そして牙を見せ、舌なめずりをする。もぞもぞと動き出して大きな手をそっとこちらに向ける。

 だけど、そこで止まった。


「ふむ、このままでは触れないの。ふんっ!」


 エリザベスが力を籠める声を出すと、その体は光だし、小さく収束していく。

 光はに沿って動き出し、だんだんと竜の姿から、よく見知った姿へと変わっていくのだった。


「に、人間に!?」

「兄さん、見てはいけません!」

「み、幻影魔法ミラージュっ!」


 ラビーニャが叫び、セーラが慌てて幻影魔法を使ってその姿を隠そうとする。

 しかし、俺の網膜にはその姿をしっかりととらえていた。


 それは幼女であった。

 青色の髪に、とんがった耳、尻尾の生えた女の子。

 その体は全くの成長途中、いや成長もまだ始まっていないようなものだった。

 なぜ、それが分かったのかというのはラビーニャとセーラが慌てた理由にあった。

 

 それは、エリザベスが全裸だったのだ。

 


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