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無能冒険者、少女を助ける


 家へと帰る足取りは重い。それも当然である、職を失ったのだ。

 なぜ、こんなことになったのだろうか。魔王が倒されたからだろうか。

 いや、これは俺自身の甘さが招いた結果だろう。


 簡単な仕事だけをこなし、モンスター討伐など危険のある仕事を受けなかったからだ。

 だけれども、そういった依頼は死と隣り合わせになる。もし死んでしまったならば――

 嫌な考えが頭の中をぐるぐると回る。背中の冷や汗が止まらず、気持ち悪く思えた。

 

 月明かりのさす森の中、街から延びる林道を超えた先にあるのが俺の家だった。街を中心とし、魔王城のある方角の反対側、ちょうど同じほどの位置にポツンとある。

 冒険者の仕事ができなくなった以上、足を延ばして出稼ぎをするしかなくなる。しかし、それができない理由も俺にはあった。

 

 目の前を少女が横切る。林道を横切って、森の闇へと消えていく。

 そして、それを追いかけるように狼の魔物が五匹、後に続く。


 ……この森に魔物が姿を現すなんて珍しい。

 そして、人を襲っているなんてなおさらだ。


 魔王城の反対側の森ということもあって、この辺りには高ランクの冒険者が多い。そんな彼らが、クエストを受けるために集まり、または魔王城へ行く前の調整として利用するのがこの場所なのである。

 つまり、一つの狩場なのだ。

 そのため、モンスターは警戒して人の通る場所に姿を現さない。


 だから、目の前の状況に俺は疑問を持つ。


 深いところに行かなければモンスターに遭遇することはない。

 さらにそこで出会うモンスターもこの辺りにまでくれば、たいがいは森の中へと引いていく。


 俺は、五感を集中させながら、駆け足で少女たちの後を追跡する。

 足跡もあり、星明りも充分にある。風も無く、臭いが途切れることもない。追いつくことは容易いだろう。

 少女が無事であればいいが……。



 林道から数分の位置で、俺は追いつくことに成功する。

 というものも、少女は追い詰められていたのだ。木を背にし、肩から血を流していた。

 そしてへたり込み、手を伸ばし魔物に向かって叫んでいた。


「はぁ、はぁ、静まって、ねぇ!」


 俺はすぐに飛び出さずに少しだけ様子を見る。

 魔物に向かって喋りかけたり問いかけたりなど、普通はすることはない。

 注意をそらすために行うならまだしも、この状況下ではあまりメリットはない。


 それよりも、刺激を与えてしまうデメリットの方が大きいのだ。


「なんで私の言うこと聞いてくれませんの!?」


 だから、彼女のやっていることは逆効果だ。


「ヘビーですわ、この状況……」


 そう言いながら、彼女は肩を抑えながら、腰から剣を取り出す。

 しかし、それは魔物たちを興奮させることとなっていた。

 だから、おそらく誰も助けなければ、このまま喰われてしまうだろう。


 さすがにその現場を見るのは、俺もやるせない。

 

「どう乗り切れば――」

「こっちだ! 魔物ども!」


 威圧する、その意思を込めて俺は叫んだ。


「うおおおおおお!」


 俺は、Fランクの冒険者である。

 だけれども、この辺りの魔物にぐらいは勝つことができる。

 幸い、この辺りはまだ深度も浅い。

 あのオオカミの魔物の群れも、俺一人で、制圧することができる。


 俺の張り上げた声は、魔物たちの注意をひく。そして、こちらに飛びかかってきた一匹の喉を掻き切る。そして、その光景を警戒し、足を止めた一匹に素早く近づき、剣を突き立てる。

 

 あと三体、道具袋から出した煙玉を地面にぶつける。

 視界を奪っても、奴らは嗅覚や、聴覚が発達している。だから、それを逆手に取る。


 狙うべきは不意打ちとカウンターである。

 足元の煙に影が浮かび上がる。その瞬間に剣を振るう。

 白一色の世界に真っ赤な鮮血が舞う。


 そして、それを二度、三度と繰り返す。


 煙が晴れた後、そこには五体の死体と俯いて震えている少女の姿があった。

 ローブを深くかぶっているからか、その表情はよく見えない。

 だけれども、彼女が驚いているのはわかった。


「おい、大丈夫か?」

「やめて、殺さないで!」


 混乱しているのだろうか、彼女は懐から短剣を取り出し、こちらに向ける。

 俺は警戒しながらも、安心させるために少女に近づいた。


「……安心しろ、もうモンスターはいない」


 だけれども、彼女は変わらずに剣を向けたままだった。

 よほど恐怖していたのだろう。敵味方がわからなくなっているのだろう。



「あとは、わたくしひとりってことね」

「ひどく混乱しているようだな」

「わたくしだって、簡単にやられるわけじゃ――」


 そう言って彼女は飛びかかってくる。肩からの血が、辺りに飛び散った。

 無論、その状態での攻撃なんて俺に当たるはずはない。

 彼女の勢いを利用し、俺は背中に位置どった。


「すまないが、ちょっと気絶してもらうぞ」


 そして、俺は彼女の首筋へと手刀を当てた

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